表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/52

10-魔塔への旅路

 深く降り積もった雪の上を、俺は一歩一歩慎重に歩いた。


 例えば、樹木を覆うように積もった雪。

 例えば、境界線の分からなくなった崖。

 例えば、湖の上に張った薄い氷の上に降り積もった雪。


 いずれも踏み抜けば命はないだろう。




「どうやらちゃんと歩けているようですね」

「ああ、どうやら思った通りに動いてくれているらしい」


 俺は足元を見た。

 靴を覆う部分とそこから楕円状に伸びる骨組み。

 そこを藁で編み補強し、隙間を埋めている。

 この靴が俺の体重を分散させてくれている。


 全身で雪の中に突っ込んだ時、あまり埋まらなかったことに気付いた。

 そして気付いた、単純なことに。

 雪は重みを加えれば沈んで行くということに。


「即席でかんじきを作るとは、中々の発想力ですね」

「ああ、これには名前があったのか。

 そうだよなあ、誰かもう考えてるよなあ」


 別にオリジナルに拘るつもりもないのだが。


「オーリさんって、本当に器用な方なんですね……」

「ま、俺には何もないからな。これくらいのことは出来ないと困る」


 シオンは褒めてくれるが、しかし俺としてはあまり感慨がない。


「差を埋めて、埋めて。

 そして辿り着きたいんだよ、お前たちがいる場所にさ」


 壮大過ぎる目標に呆れられたのか、シオンは目を逸らし俯いた。

 まあ俺に幻滅してくれるがいいさ、その程度の人間なんだから。

 むしろ過度の期待を抱かれた方が困る。


「この先数百メートルに村落がある、と言うことですが……」


 フィズは地図と周囲の地形を見比べた。

 高台を探しているのだろう。

 彼女はすぐそれを見つけ、昇った。

 さすがにあそこまで昇る体力はないので待っていることにする。


「やはり潰されていますね」

「ここもか。状況は変わらないんだろう?」

「ええ。最初に見たのと酷似しています」


 廃墟と化した町に雪が降り積もる。

 最初に見た村よりもやや規模が大きいようだ。

 それだけに、破壊し尽された様子がどこか哀愁を誘う。


 俺は二人に続いて歩いた。

 かんじきを履いているので大分沈み辛いが、その分歩きづらい。

 ただ歩くにしろ、何かしらのコツがあるようだ。


「次から次へと町や村を壊して、いったい何がしたいんだろうな?」

「魔獣の思考ベクトルは生存ただ一点に向いています。

 知性種であるならそこも違ってきますが、基本的には同じです。

 人間と同じ、死ぬために生きる奴なんていません」

「つまりこれは、あいつらの生存にとって何らか必要なことだと?」


 フィズは首を縦に振った。

 どうにもそう考えることが出来ないのは、単に俺の想像力が貧困だからか。

 ただ生きるためではない、邪まな目的があるような気がしていた。


 少し歩き、俺たちは町の中心まで辿り着いた。

 日も傾いている、今日はここまでにした方がいいだろう。

 どこか休める場所がないか探すが、もちろんそんなものはない。


「仕方がありません、少々手荒な方法を使うことにしましょうか」


 フィズは拳を振り上げ、家屋を覆っていた雪を殴った。

 雪原が爆ぜ、雪が抉れクレーターのようになる。

 勇者の腕力はこういう即席の土木工事を可能とする。


「柔らかい雪ならこうして殴ると吹き飛ばせるんですね」

「おう、頼むぞ。俺が同じことしようとしてもダメだろうし」


 スコップで雪を掻き出していたらどれだけ時間がかかるだろうか。

 少なくとも、フィズならもう数発殴れば十分なスペースを確保出来そうだ。

 俺はもとより、こんな場面だとシオンにも出番はなくなってしまう。

 大人しく応援していることにしよう。


 その時、低い鳴き声が聞こえた。

 慌ててそちらを振り向くと、犬がいた。


「あれは……」


 遠目では犬種は分からないが、犬だ。

 なぜ鳴いている、何かを伝えようとしているのか?


 事実、そうなのだろう。

 地面を揺らし、何かがこちらに近付いてくるのが分かった。

 犬の視線の先を見ると、巨大な角を生やしたイノシシ型の魔獣がいた。

 恐るべきスピードでこちらに迫って来ている、会敵まで十秒もないだろう。


「距離があるうちに気付けただけでも、儲けものってわけか……!」


 背負ったライフルを構え、イノシシ型の魔獣、ワイルドボアを狙った。

 散弾銃には散弾が詰められており、この距離では効果が期待出来ない。

 例えスラッグ弾だろうがあいつの分厚い筋肉と脂肪を撃ち抜けるかどうか。

 だが、こいつを試してみるにはいい機会だ。


 ショルダーストックで銃をしっかり固定し、トリガーを引く。

 これまでの数倍の反動に、肩が粉微塵に砕けてしまいそうになる。

 真っ直ぐ進んで行った5.56mmキャリバー弾はボアの眉間に直撃した。


 鮮血が舞い、ボアの上体が揺らぐ。

 凄まじい直線スピードを誇るワイルドボア、それだけに立て直しは難しい。

 前足が体重を支え切れなくなり崩れ、後ろ足がスピードで跳ね上がる。

 ボアの体が回転し、地面に激突。跳ね上がった。


(っし……! 炸薬量を増加させたキャリバーなら、あいつらにも通じる)


 痺れる痛みを受けながらも、ボアを打ちのめした喜びを感じた。

 婆さんに貰った弾で、5.56mm弾の炸薬量を大幅に増加させたものだ。

 弾頭もより硬く、より重いものに変更しており、大幅に威力が上昇している。

 それだけに反動は耐え難いものがあるのだが。


 本来、これは勇者が使うものだという。

 生身の人間が使うにはあまりに過大な力だと。

 それでも、これを使いこなして見せる。

 そうしなければ俺が戦い抜くことは出来ない。


「……って、やべ。こりゃマズい……」


 勢い余ったボアはまだ止まらない。

 何度もバウンドを繰り返しながらこっちに滑って来ているのだ。


 止まるか? 俺の前で都合よく止まってくれるか?


(それは期待出来そうにないな)


 一迅の風が吹き、フィズが動いた。

 バウンドするボアを的確に見極め、轢かれないギリギリの位置まで進む。

 そしてボアの体を蹴り上げ、上空にカチ上げたのだ。


 少し後ろで待機していたシオンも動く。

 地を蹴り跳躍、カチ上げられたボアを追いかける。

 まったく、手元さえも見えなかったが、彼女は何度か刀を閃かせた。

 次の瞬間にはバラバラになり、地面に落ちて来た。


「すっげ」

「やるじゃないですか、オーリ。

 動く得物の頭をワンショット、一人前ですね」


 フィズは振り返り、親指を立てた。

 俺も同じようにして応じる。


「さすがですね、オーリさん!」


 ふわりと着地したシオンも俺のことを褒め称える。

 こそばゆくなってきた。


「あの犬に感謝しないといけませんね。気付けたのは彼のおかげです」

「ああ。あいつ、この街で飼われていた犬なのかな?」

「そうかもしれませんが、確かめている時間はありませんね」


 ゴロゴロと空から音が聞こえて来た。

 黒い雲が張り出し、雷鳴が空に閃く。


「嵐が来ます。さっさとシェルターを作っておかなければいけませんね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ