07-次なる目的地
29層「フェルデン」。
ここが都市として発展したのには理由がある、らしい。
「えーっと、あれだな。
フェルデンから24階層までを貫く『天刺の道標』」
フェルデンで一番高い建物に昇り、北東方面にある『塔』を見た。
実際のところ、あれの内部構造は巨大な螺旋階段になっているらしい。
かなり険しいが、昇ることさえ出来れば上層への最短ルートとなる。
それ以外にも細々とした道がある、が。
「まあ、まずあれはナシだな」
「そうですね。オーリが昇れるかどうかも分かりませんし、それに……」
「中を徘徊する鉄骨兵……『マシーナリー』の妨害もどうにかしなければ」
鉄骨兵。
俺は見たことさえないが、世界には鉄と機械とで出来た兵士が存在する。
彼らは誰に命じられたわけでもなく、近付くものすべてを破壊し、滅ぼす。
死の恐怖を感じず、統率された動きで敵を追い詰め、恐るべき力を振るう。
基本的には魔獣と同じような存在だが、魔導核がない点が異なっている。
あまり相手にしたくない連中だ。
『天刺の道標』を踏破するためには、怒涛のように襲い掛かる鉄骨兵を切り伏せながら進むだけの力が求められる。残念ながら俺には逆立ちしたって無理だ。
「まあそれならそれで、別のルートを探さないとな」
ルートはいくつかある。
ここが栄えているのは何本もの道の中継点でもあるからだ。
「オクシス湖ルートを通るのはどうでしょうか?」
オクシス湖というのはこの間俺たちが向かった水源地帯だ。
「そこから先は足場が悪い。二階層分くらいはスキップ出来るらしいけど」
「水棲型の魔獣に襲われてしまったら、私たちでは少し分が悪いですね」
二人とも足場がしっかりしていなければ十分に実力を発揮できない。
もし水の中でも関係のない銃使いでもいれば話は別だったのだが。
お荷物を背負っているならなおさら、そんなところを通るわけにはいかない。
どこか別の道を探さなければ。
高い金を払って手に入れた周辺地図を広げ、ああでもないこうでもないと頭を働かせる。そうしているうちに、見えてくるものがあった。
「東側に進んで28階層に上がって、『夢幻の平野』を越えるのはどうだ?」
「かなり距離がありますね。それでいいんですか、オーリ?」
「確実性第一だ。こいつは交易ルートも開けているからな」
『夢幻の平原』は緩やかな上り坂が果てしなく続いているのだという。
交易ルートが確立されているのだから狂暴な魔獣は出辛いだろうし、ルート上にはいくつかの村落が点在している。物資の補充にも問題はないだろう。
「一番距離はあるが、一番確実なルートだ。
その先にある『フォートラム』に着くには」
フォートラムは24階層にある工廠都市。
フェルデン以上に栄えているという。
「なら、行くべき場所は決まりましたね」
シオンはこれまでの態度からは考えられないほどハキハキした態度になった。旅立ちに際してテンションが上がっているのだろうか? モチベーションがあるのはいいことだ。
何度か野営をする必要があるだろう。
次の村落までもかなりの距離がある。
この街で買い込めるものは買い込んでおかなければ。
「シオン、かなり重いものを持つことになるだろうけど……」
「大丈夫です。一応、これでも体は鍛えていましたからね」
目を輝かせてフンと鼻を鳴らす。戦うのは嫌いだが旅自体は好きらしい。
そんなこんなで準備――特に食料品の買い込み――をしに行ったのだが……
「っ、ぐう……! 重いぃぃぃッ……!」
結構な量を買い込んだことは確かだが、それにしても。
パンパンになったバッグを背負い、四苦八苦している。
立っているのもギリギリっぽい。
「まさか俺よりも力が弱いとはなぁ……」
俺も背負っているが、シオンのものと同じかそれ以上の量だ。
かなり重いのは確かだが、動けなくなるほどではない。
フィズはそれに加えて野営道具も持っているが涼しい顔だ。
いや、なんだか勝ち誇るような表情になっている気もする。
「生体強化適性の関係でしょう。
彼女は筋力に優れてはいないようですね」
「へえ、やっぱ個々人によって得意なことが変わって来るんだなぁ」
「そうですね。
力に優れるもの、速さに優れるもの、遠くを見通せるもの。
シオンはいささか極端な強化を施されているようですね。
速さと反射神経以外は常人レベルかと」
それでも『常人のトップクラス』ということだとは思う。
「だ、大丈夫です。これくらいは、楽なものですから……」
膝をプルプルと震わせながらシオンは笑みを作った。
無理をしやがって。
「もう少し俺が持つよ。シオンは出来る限り身軽でいてくれ」
「そういう依怙贔屓は彼女のためにならないと思いますが?」
「贔屓して言っているわけじゃない。
彼女は自由に動けた方がいいだろう?
荷物が重すぎて戦えませんでした、じゃ話にもならないからな。
適材適所ってやつだ」
宿でもう一度荷物を入れ替えよう。
いつ出て行ってもいいんだから。
「その……ごめんなさい、オーリさん」
「気にしないで。少しばかり鍛えてる、それくらいは運べるさ」
ほんの一点でも、シオンよりも優れている点が俺にもあった。
なんだか嬉しくなる、何もかも敵わないと思っていた。
でも、そうではないのだ。
一旦宿まで戻り、そこで荷物を詰め替えて出発する。
日が高いうちに出れるだろう。
そんなことを考えながら歩いていると、フィズが睨んでいるのが見えた。
「なんだよ、フィズ」
「気を使ってもらえていいですね、シオンは」
「なんだよ、それ。気を使うも何もお前俺より強いだろ」
ふん、とため息を吐き、シオンは顔を逸らした。
まったく、何を考えているのだろうかこいつは。
使えるものはなんでも使え、そういったのはお前だろう。
「おかえりなさいませ」
そうこうしているうちに、俺たちは宿に戻ってきた。
「チェックアウトの時間までには出ますんで」
「はい。ところで皆様、旅をなさっているのでしょうか?」
「分かりますか……って、この格好見れば誰でもそう思いますよね」
ちょっとした雑談が始まった。
まだ時間はあるし、詰め替えにはそれほど時間はかからない。
それにこうしていると意外な情報が手に入ることもある。
「『フォートラム』行きですか。
険しい道のりだとは思いますがお気を付けください」
とはいえいつでも手に入るものではないが。
切り上げて作業に戻ろうとした、が。
「ところで、皆様耐寒装備はお持ちなのでしょうか?」
「耐寒装備? いえ……こんな格好じゃマズいってことですよね?」
「はい。『夢幻の平原』は雪が舞い散る雪原ですからね。
そんな格好で行ったら勇者様でも凍え死んでしまいますよ。
いい服屋があるので、行ってみてはいかがですか?」
どうやら友達の店を紹介されてしまったらしい、商売がウマいな。
しかしこの格好で行ったら死んでいたかもしれない、指摘は素直に助かる。
荷物の詰め替えを早々に行い、俺たちは防寒具を買いに向かうことにした。




