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07-諦めずに歩く

 町に戻って魔導核を金に替え、使った銃弾を補充する。

 怪我をしない限り、生身の肉体に必要なものはそう多くない。


 一日の食事、少々の水、それから武器防具、銃弾、その他。

 勇者用にクソ重たい剣や反動の強い重火器を取り扱っている店もある。

 だがあんな物を俺が買ったところでもてあますだけだ。


 シオンは他の宿を取っているので、途中で別れた。

 ここからは爆弾を作ったり、煙玉を作ったりする時間だ。

 慣れていないシオンが絡むよりはよっぽどいい。


「……で、これからあの小娘のことどうするつもりなんですか?」

「話かけないでくれ。考えているんだ……答えが出るかはともかく」


 すっかり懐かれてしまったようで落ち着かない。

 そりゃあ、あんな美人から好意を寄せられて嬉しくないはずはない。

 だが何というか、誤解に基づく好意のような気がする。


 きっと勘違いをしているのだ、彼女は。

 俺が大層な人間だと、敬意を払うに値する人間だと。

 大いなる誤解を解かなければこの先厄介なことになる気がする。


「そうだ、このまま黙って町を出たらどうだろうか」

「鬼ですか、アンタは。泣きますよあの子?」


 心が痛む。

 このプランはなしだな、うん。


(どうすりゃいいんだろうな……本当に)


 考えながら歩いているとすぐ宿に着いた。

 しばらく仮眠を取って、それから夜に作業をしよう。

 そう思っていたら、予想外の人物と出会ってしまった。


「……ダンさん?」

「お久しぶりでございます。その後、お変わりなどはないでしょうか?」


 なぜ彼がここに?

 もしや、シオンが俺のところに来たのを知っているのか?


「シオンの件で話があります。お時間をよろしいでしょうか?」


 まあ、当たり前だろう。

 なにせ、エルフの戦士団を管理しているのは彼なのだ。

 少し時間は遅い、先に飯を食ってもいいだろう。

 彼を誘うと了承してくれた。




 一週間以上町に滞在しているので、ある程度は町のことが分かってきた。

 特に安くてうまい飯を出す食堂なんかは。貧乏旅なんだから大事なことだ。

 宿の目の前にある『ワイルドターキー』は安くて美味い豚料理の店だ。

 エルフは肉を採らないと聞いていたが、少なくとも彼には当てはまらない。


「それで、シオンのことって」

「彼女が、キミと旅に出たいと言っているんですよ」


 直球だ。目を見るが、笑っていない。

 皿の肉を切り分ける動作ですら、何らかの寓意が透けて見える気がした。

 例えば『断ればお前はこの肉と同じ姿になる』、とか。


「ええ、そうですね。彼女はそう言っていました。

 あなたたちは、その……」

「自由意志です。シオンが何をしたいか、それが大事でしょう?」


 意外と穏当な発言だった。しかし……


「言っちゃなんですが俺との旅なんて危険ですよ。

 重い荷物持って競争するようなもんです。

 正直なところ、シオンの足を引っ張りかねない」

「実に冷静な判断です。自信満々な方がよっぽど怖い」


 ダンさんは笑った。

 どういう類の笑みか、この人の表情は読み辛い。


「我々は敵の戦力を、知力を、意志を読み間違え、多くの仲間を失いました。

 我々の戦い方が通用しない時代が来ているのかもしれない……

 そう思ってもいるんですよ」

「それは……でも、あなたたちのおかげで町を守れたわけですし」

「結果論です。あなたの発想がなければシャーマンは倒せなかった」


 買い被りだ。何もかも、思い通り上手くいったに過ぎない。

 それに俺がしたことと言えばシャーマンに殺されかけただけ。

 実際に止めを刺したのはシオンだ。


「あなたがあいつの武器を削ってくれたからです。

 おかげで彼女が戦えた」

「ダンの言う通りです。

 奴はいうなれば、最後の切り札を切った状態だった。

 もし十全の状態で戦っていたならシオンとて勝てたかどうか」

「言い過ぎでしょう。それからフィズ、『さん』を付けろ目上には」


 まったく、むず痒くて仕方がない。


「ということで、彼女には我々の部族とは違う発想を身に着けてもらえればと」

「そうすることで、もっと多くの魔獣を倒すことが出来る?」

「そういうことです。どうぞ、よろしくお願いします」


 そう言ってダンさんは深々と頭を下げた。

 彼らの力の、思考の、思想のベクトルはたった一つ。


 魔獣を倒す。

 そのためなら常人だろうが何だろうが頭を下げる。


「……俺に何が出来るかは分かりません。

 明日死んでいるかも知れません」

「もしそうなら、それもそれで糧になることでしょう」

「そこは否定してほしかったなあ。

 まあ、そこまで言われるのでしたら……

 シオンの件、謹んでお受けします。

 むしろ、お願いしますかな」


 フィズ以外にも魔獣と至近距離で切り結べる使い手がいればそれだけ楽になる。

 最終目的はタルタロスを踏破すること。そのためならなんだって使ってやる。


「ありがとうございます。それでは……この店、美味しかったですね」


 500gはある厚い肉をぺろりと平らげ、ダンさんは出て行った。

 しかも、料金はすべて自分で払って行った。


 大人だ、俺もああなれるのだろうか。


「面倒な荷物を背負い込みましたね、オーリ」

「お前には負ける」


 俺のような余計な荷物を背負って旅をするやつだっているのだ。

 だったら、俺だってやってやる。

 少なくとも俺より軽い荷物には違いない。


「本当にすごかったのですよ、オーリは」

「さっきから褒められっぱなしで体が痒くなる。

 お前俺をかゆみで殺す気だな」

「真面目な話です。

 私は諦めていましたから、シャーマンとの戦いを」


 フィズは向き直って、困ったように笑った。


「『諦めるな』、偉そうなことを言っていましたが私は諦めてしまいました。

 でも、あなたは諦めなかった。だから勝利を掴むことが出来た……

 あなたに学ぶことも多いですね」


 こうまでストレートに褒められると、照れる。

 俺は褒められ慣れていないのだ。


「……素直に受け取っておく。ありがとな」

「ふふっ、あなたはへそ曲がりですからね」


 ああ、そうだな。どこかの誰かのせいでへそが曲がり切ってしまった。


「さて、帰ったらやることやるぞ。簡単に死ぬわけにはいかなくなった」

「そうですね、簡単には殺しませんよ。生き抜いてもらわなきゃ困りますから」


 目指す道は果てしなく伸びる。

 だから必要なのだ、隣を歩く人が。

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