06-蹂躙
「皆のもの、鬨の声を上げろ! 薄汚いクソ袋どもに思い知らせてやれ!」
ダンさんが叫び、エルフたちが突撃する。
力いっぱいなぎ払われた剣がオークを切り殺し、あるいは反撃を受け殺される。
その合間を縫って警備隊が銃火をオークに浴びせる。
「総員、散開! 予定通りに行きますよ!」
フィズは家の屋根に立ち、ナイフを投げた。
オークの分厚い頭蓋骨をナイフが貫き、殺す。
手持ちのナイフをすべて投げ尽くすと、フィズは路地裏に身を躍らせた。
その一瞬、フィズが俺に向かって親指を立てて来た気がした。
期待には答えなければ。
エルフたちも最初の打ち合いが終わると、オークたちに背を向け路地裏に走り出した。オークたちはこれ幸いと、先に進もうとするが。
「待てェィ! エルフどもの動きが気になる……お前たち、追え!」
オークシャーマンが号令を出した。
これまでエルフたちがそう簡単に背中を見せることはなかった。
だからシャーマンは何らかの策があるものとみて追跡を命じたのだ。
とりあえず、第一段は成功した。
相手がこの動きを怪しんでくれなければ策はならなかっただろう。
中途半端に知恵のあるシャーマンに乾杯、といったところか。
(特に策はねえ。路地に入って来た奴から殺す、それだけだ)
相手の疑心を引き出すこと、やりたかったのはそれだけだ。
いずれにしろ、オークの数は一時的に減少した。守備隊はサブマシンガンでオークたちを狙い、後方に控えた俺たちは狙撃で援護する。圧力が弱まったことにより、ある程度余裕ができ始めていた。だがそれも一瞬のことだ。
「無駄なことを……!
どんなことをしようとも、我らを止めることは出来ん!」
オークシャーマンは先陣を切って歩み来る。
周囲を旋回する水の防壁が弾丸を受け止め、刃と弾丸が俺たちを襲う。
威力自体は防壁を貫通するほどではない、だが圧力は強い。
直撃を嫌い防御姿勢を取ると、その隙を見てオークたちが迫って来る。
(あのシャーマンをどうにかしないと、勝ちは有り得ねえな)
警備隊長はシャーマンに攻撃を集中させるよう指示を出した。
号令の下兵士たちは一致団結し、十字砲火をシャーマンに見舞った。
だが、結果は変わらなかった。
雨霰の如く撃ち込まれた10mm弾は、すべてが水の壁に絡め取られる。
水の防壁は弾丸の衝撃をことごとく分散させ、その威力を無に帰す。
それは貫通力に優れるライフル弾であっても同じことだった。
こいつを殺すにはもっと威力がいる。
「学習能力が低いな、人類! この程度で私を殺せるとでも!?」
シャーマンが腕を振り上げる。
水の防壁が大蛇めいて鎌首をもたげる。
「第一班、後退! 速やかに戦線を下げるぞ!」
隊長の指示が飛ぶ。だが間に合わない人もいた。
振り下ろされた大蛇は防壁に当たりグニャリと曲がり、隠れていた人を襲った。
ミシミシと骨が砕ける音が最後列まで聞こえてきた。
歯噛みするが、どうしようもならない。
(オークシャーマンを殺すにはあの水の防壁を貫通する威力をぶつけるか……
あるいは防壁でも反応出来ないほどのスピードで本体を殺すかだ!
いずれにしろ俺たちには無理)
俊敏さと正確さを武器とするエルフの剣士であっても、それは無理だ。
そんなことが出来るなら、とっくにシャーマンを殺しているだろう。
『こんな低層にいるのはおかしい』とフィズは言った。
ならば、高層にはあいつを殺せるだけの使い手がいるのだろうか?
考えていると、オークが懐から何かを取り出した。
慌てて頭を下げる、そのおかげで俺は直撃を免れた。
取り出した石をオークは投げ、防壁や人の体を打った。
(道具を使うことを覚えやがったか)
投石攻撃、単純ながら効果的な遠隔攻撃だ。
少なくともシャーマンのいなかった群れにはなかった行動。
シャーマンが一緒にいる群れは少しだけ賢くなるらしい。
「これ以上はダメだ! 下がれ、みんな!」
ほんの数十分で最終防衛ラインを割られてしまう。
ここまでは予想通り、ここまでは。
「ふははははは!
無駄だ、貴様らは一人たりとも……ここからは逃がさん!」
シャーマンは胸の前に手を置いた。
周囲を旋回する水が収束し、撃ち出される。
砲弾めいた勢いで撃ち出された水が、逃げて行く者たちの背を狙う。
「ヤベエ……!」
目抜き通りを真っ直ぐ貫く一撃。
その『圧』に押され、兵士たちが吹っ飛んで行く。無論、俺も。
地面を転がりながら、浸透してくるオークの群れを見た。
「こん、なろぉっ……!」
滅茶苦茶痛い。
痛む体を強いて銃を取り、オーク目掛けて撃ち込む。一撃、二撃では死ななかったが、横合いから撃ち込まれた警備隊の一撃がとどめを刺した。
シャーマンはどこだ?
オークたちが殺戮を繰り返す中、悠々と歩み来たる。
(恐れるものは何もない、ってか。クソ、目にモノ見せてやるぜ)
シャーマンを狙いサブマシンガンを撃ち込む。
もちろん、弾丸は水によって受け止められてしまう。
シャーマンは俺の方に見向きもしない。
代わりに水の弾丸が対応してきた。
必死になってそれを避け、トリガーを引き続ける。
やがて銃からカチリと音がした。
出来るだけ必死に。
使えるものが何もないから、半狂乱でやっているという風に。
俺は放置された露店の台に乗っていた水瓶を掴み、投げつけた。
「ちくしょうめえ!」
思い切り投げた水瓶は、あっさりと受け止められ砕ける。
「クソッ、クソッ、クソォッ!」
一つ、二つ、三つ。
シャーマンは意にも介さない。
それでいい、俺の方を見るな。
最後の切り札を手に取り、投げつける。
いままでと同じ、水の盾によって受け止められ地面に落ちる。
砕ける。
中に入っていた赤い水が、辺りに撒き散らされた。
「……これは」
シャーマンは呆然とそれを見た。
「水溶性の液体……それがアンタのものに溶け込んだら、どうなる?」
どうにかなってくれ、頼むから。
俺の祈りが通じたのか、水の盾が段々と赤く染まっていく。
シャーマンは狼狽し、周りのオークたちも焦りの表情を見せる。
「このッ……! こんな、こんなことがぁっ!?」
シャーマンが叫ぶが、しかし何も変わらない。
水の盾を赤い水が浸食し、その端から形が崩れていく。
命を持った水の塊が、いま再び命を失ったのだ。




