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06-笑って死ね

 城攻めは一日にしてならず。

 フェルデンの城砦はかなり堅牢なものであり、オークとて一筋縄にはいかない。


 だが相手も考えている、怒涛の勢いで攻め込んで来たと思えばすぐに撤退。

 そしてこちらが気を抜いたところで再度攻勢を強める。


 疲れさせようとしているのだ、ようは。

 戦力としてはオークの方が勝っているが、その上で確実な勝利を求めている。

 あるいは、こちらがもだえ苦しむのを見て喜んでいるかのどちらかだ。

 いずれにせよ、そこが唯一の攻め手となるだろう。


「成功すると思うか、フィズ?」


 自分で考えた作戦だが不安しかない。

 そもそも、作戦と言えるようなものでもないが。


「『多分』『おそらく』『もしかしたら』……

 それってただの希望的観測だよな」

「いまの私たちに必要なのは、そういう類の希望なのですよ」


 会議室にはもう誰もいない。

 みんな各々の持ち場へと散って行った。


「西側ブロックには民間人は残っていませんし、区画も閉鎖されています。

 オークどもがここから抜け出すには一日二日かかるでしょう。

 だから失敗しても迷惑はかけません」

「ありがとう。

 そこで『絶対に大丈夫です』とか言ってくれないだけお前は誠実だ」


 こいつはこういう奴だ。

 だから、ここまで信じて一緒にやれてきた。


「こっちも準備出来る限りは準備しておかないとな」

「私はオークたちの相手をするので……

 シャーマンの相手は、頼みましたよ」

「あいよ。出来るだけみっともなくやってやるさ」


 拳銃二丁をホルスターに仕込み、毒を塗ったナイフを靴の裏に仕込む。

 踵を思い切り踏み込むと、スプリングが作動し刃が突き出す仕組みだ。

 もちろん袖の下にもナイフを仕込んでおくが、こっちは完全な非常用。

 俺の力でオークをどうこう出来るはずはない。


 ライフルの銃身を掃除していると、シオンが部屋に入って来た。


「……あれ、どうしたんだ? もう持ち場に行ってるもんかと」

「もう皆さん、何も言ってきませんから」


 そりゃそうか。

 二度、三度、彼女は彼らの『信頼』を裏切ってきた。

 一方的なものだったが、それさえもなくなってしまったわけだ。


 ある意味、俺と同じだ。誰にも顧みられない。


「半端なことをしてるからそんなことになるんじゃないか?」

「えっ?」

「逃げればいい。誰もいま、キミに構っていられる余裕なんてないからな。

 しがらみも、何もかも捨てて、逃げればいい。誰も責めやしないだろう。

 いっそ諦めてくれるかも」


 スラッグを装填しグリップを引き、薬室に弾丸を送る。


「でも、あなたは戦うんですよね?」

「俺はキミじゃない。キミがやらなくたって俺がやらない理由にはならない」

「こわく……ないんですか? 生身で、下手をすれば死ぬかもしれないのに」


 なんて愚かな質問を。

 それとも、みんなそんなことを思っているのだろうか?


「そりゃ当たり前だ、怖いよ。

 でも怖がったって目の前の障害はなくなりゃしない」


 マガジンに弾丸を一発ずつ込め、サブマシンガンに差し込む。

 予備マガジンがないのは面倒だ、撃ち切ればこいつはカッコいい文鎮と化す。

 ショットガンとライフルを背中に、サブマシンガンを正面に回す。


「戦っている時笑うのが嫌いだ、って言ってたよな。でもさ、俺だって笑うよ」

「それは……」

「戦うのが楽しいからじゃない。もうそうするほかどうしようもないからだ」


 これ以上話している時間はない。

 オークたちの侵攻はそろそろ始まるだろう。


「どうしようもない状況で諦めないために、人は笑うんだ」


 準備は終わった。

 俺たちは部屋を出て、シオンはうつむいたまま何も言わなかった。

 逃げればいい、どこまでも。追いかけて来るものなんていないのだ。


 いるとすれば、そいつは自分の中の後悔だけだ。


「なかなかいい啖呵でしたね」

「だろう。いまさら惚れるなよ」

「自惚れてる奴にはアタックしても無駄なのです」


 まったく、こいつは。

 実際自惚れでもしないとこんなの、やっていられない。


 目抜き通りには金属製の柵がいくつも築かれている。

 侵入防止用のバリケードだ。こういうところ一つ見ても、スタルトとは違う。

 エルフの戦士たちはそれぞれの武器を持ち、路地の中で待機している。

 彼らの戦法は真正面からの打ち合いでは生きない。


「お疲れ様です、隊長さん。どんな感じですか?」

「どうしても戦うんだね……」

「ええ、こんなところで退けませんよ」


 背負った火器を指さし、戦意をアピールする。

 隊長はため息を吐き、道のわきに置かれたバッグを指した。

 中身を確認すると、鈍色の防具がぎっしりと詰め込まれていた。


「市街地の外に出る巡回警備用の防具だ、いまのキミのよりはマシだろう。

 ガントレットとレガースとアーマー、視界を阻害するからヘルメットはない。

 戦うなら着けてくれ」


 俺になど構ってはいられない、と言うことか。

 使えるものはなんでも使う、ありがたく受け取っておこう。

 身に着けた防具を外し、隊長から渡されたものを着ける。


 俺が使っている者よりも遥かに軽量だった。それでいて、堅い。

 さすが、現役で軍が使っているだけはある。

 これは隊長に足を向けて眠れないな。


「伝令! オークたちが攻撃を開始しました!」


 ドン、と門から凄まじい音がした。

 始まった、もう後戻りは出来ない。


「よし、開門! オークのクソ豚面に、一発カマしてやれ!」


 すべては作戦通りに。

 門が開かれ、火線が集中する。

 俺も微力ながら手伝う。


(やるぜ、計画通りに。

 計画通りにやってどうなるかは、知らねえけど……!)


 オークたちは弾幕を無視し突撃、次から次へと市街地へ浸透してきた。

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