表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/52

06-転じて希望と成す

 へたりこんだまましばらく立ち上がれなかった。

 立とうとして左手を突いたが、しかし瞬間激痛が走った。

 そうだった、シャーマンの攻撃を受けていたんだった。


「アドレナリンの分泌が止まったみたいですね。覚悟してくださいよ」

「もうちょっと前に言ってくれればよかったんだけどなぁ」


 フィズの警告よりも少し前に痛みが走った。

 しばらく立ち上がれそうにない。


「おおい、キミたち! 大丈夫かい、それにしてもすごいことを……」


 比較的軽装の兵士がこちらに駆け寄ってきた。

 町の守備隊だろうか。


「あの、すいません。いったいどうなってるんです?

 戻って来たばっかりで……」

「ああ、不幸だったな。こんな状況で町に戻ってきてしまうとは……」


 彼は頭を掻き、ため息を吐いた。


「現在、数百のオークが町を包囲している。もはや脱出は不可能だろう……」




 無理を言って詰所に案内してもらった。

 そこで簡単な手当てを受け、帝国軍とエルフの会議に参加させてもらう。

 傷は痛むが、あのおかしな水がこれ以上悪さをすることはないようだ。

 ひとまずは安心、といったところか。


「まず、あなたたちが出発した10時間後にオークの襲撃が開始しました」


 ちょうど俺たちが休んでいる時間か。

 町も眠りについている時、そんなタイミングで襲撃を受ければ一溜まりもないだろう。


「町の四方から、500を越えるオークたちがいきなり現れたのです」

「どこかしら、人間が知らないルートを持っているってことか……」


 ここまではスタルトと同じだ。

 フェルデンはスタルトと比べて面積も広いし、比例して周囲も開けている。

 それだけに、あいつらが大量に移動するだけの道があるのだろう。


「我ら帝国陸軍、総力を結集して応戦しました。しかし……」

「あまりにも数が違い過ぎる。押し潰されてしまったのですね」

「お恥ずかしい限りです。幸い初期に伝令を出すことは出来ましたが、しかし……」


 伝令か。

 隣町、あるいは本国からの応援を期待出来るのだろうか?

 ここからはかなり離れている、絶望的に思えた。


「帝国軍総勢120名。

 エルフもいればある程度まとまった抵抗も出来たのでしょうが」

「しかし、引きつけられてしまいました。相手の作戦勝ちですね」

「はい。10時間のうちに都合三度、交戦がありました。

 四方から一斉に、この街に圧力をかけて来るのです。

 こちらも戦力を分散させなければならず……」


 だんだんと押された、ということか。


「数が足りないなら足せばいいんじゃないか?

 町の人に協力を要請するとか……」

「規模の小さなスタルトでは可能でしたが、ここでは不可能でしょうね」


 フィズは切り捨てた。

 一考の価値はあったと思うのだが……


「狩猟と採集で生計を立てなければならないスタルトとは基本からして違います。

 フェルデンは交易と農耕が可能なので、比較的安全に日々の糧を得られる。

 と、するとですね、戦い方を覚えなくてもよいわけなのです。

 わざわざガルムの巣に向かわなくてもよくなるのです。

 そういう人たちを戦わせるのは難しいですよ」

「まあ確かに……まったくの素人を出しても邪魔になるだけか」


 俺が当たり前に習ってきたことが、他では通用しない。

 カルチャーショックか。


「それに、もし戦う力があったとしても受け入れてくれるかどうか」


 そこに隊長さんが口を挟んで来た。


「小規模な共同体とは違い、フェルデンでは町との繋がりが希薄ですからね。

 共同体に属しているというよりは、ただ暮らしていると考えているような……

 交易商人や旅人も多いですから、この町への愛着自体は薄いんです」

「心理的な問題もありましたか。それ自体は命の危機があるので突破出来そうです……」

「素人の力など、借りる必要はなか。ワシらがオークば撫で斬り殺す。それだけじゃ」


 口を閉じていたダンさんが話に加わった。

 話す気がないのは変わらないようだが。


「シャーマンに手も足も出ずに撤退したこと、もう忘れたのですか?」

「それは……だが、素人がいくら来ても、同じことじゃろう」

「そうですね。シャーマンがいる時点で、こちらの勝ち目は限りなく薄くなる」


 あのフィズがそこまで言うか。

 自分の目で相手の力を見ているとはいえ……


「粘液の防壁はほとんどあらゆる攻撃を防ぎ、襲撃者を速やかに撃退します。

 遠近両用、不意打ちも通用しない。この階層にいるのがおかしい強敵です」

「あっ、そうだ。水なら火に弱いんじゃないか?」

「あれはただの水ではありません。耐火性にも優れているのです。

 水の防壁を破壊する攻撃力と、水の攻撃を掻い潜る機動力。

 それがなければお話にすらならないのです」


 警備隊長の思い付きも一撃で粉砕された。

 成す術がない。


「ですから我々がすべきことは、速やかな撤退です。

 非戦闘員を近場の町に退避させ、現状を周知徹底させる。

 そして次なる襲撃に備えを持たせる。それが最善です」


 だがそんなことをすれば相当の被害が出ることは必至だ。

 町の警備隊、エルフの戦士、戦いに参加した誰もが死ぬことになる。

 避難民とて、無傷ではいられないだろう。


 どうにかならないのか?

 何か手はないのか?

 俺が考えたところで、打開策は――


「……あっ」


 完全な思い付きだ。

 成功するとは限らない。


 だが、やらないよりはずっといい。


「……どうしたのですか、オーリ?」

「もしかしたら、いけるかもしれない。

 あのシャーマン野郎、司令官なんだよな?」

「そうですね。あいつを倒せば、指揮系統に混乱が生じるかもしれません」


 そうなれば、状況を打開出来る。

 最後に残された一手のジャイアントキリングだ。


「協力してほしい、みんな。成功するかは分からないが……」


 俺は守備隊を、エルフの戦士を、そしてフィズを見た。


「何もせずに死ぬより、よっぽどマシだと思う」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ