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03-大爆発

 飾りの多い銀色の全身鎧に身を包んだ少女。

 だが特徴的なのはそこではない。


 肩までかかる長く美しい金髪。

 その合間から突き出した尖った耳。


「……エルフ」


 俺たちの町には、一人としていなかった。

 たまに隊商の護衛として来る程度だった。

 だから、これほど間近に見るのは初めてだ。


 タルタロスには一般的な(・・・・)人間以外にも多くの種族がいる。

 彼らは望まれし子ら(ギフテッド)と呼ばれている。神の加護を受けた生まれながらの戦士だ。


 エルフは勇猛果敢な、優れた戦士であると聞いていた。

 だが目の前でうずくまっている少女は、とてもそうは見えない。

 恐怖のせいか、元々白い肌は青ざめてさえいる。

 装具の汚れもないことから、戦ってさえもいないようだ。


「オーリ! そんなところでボーっとしている暇はないですよ!」


 声をかけられはっとした。

 振り返ると、フォースベアが吹っ飛んでくるのが見えた。投げ飛ばされたベアはコンテナにぶつかった、全身の骨がへし折れる音を聞いた。フィズはベア相手に互角の戦いを繰り広げていたが、しかし。


「この数の相手は無理です! どうにかこいつらを追い払わないと……」


 そう言いながらも突っ込んできたベアの突きをかわし、カウンターで喉元を掴み、首をへし折る。辺りでは戦いが続いているが、人間たちは完全に押されていた。何か、ここを切り抜ける手段はないだろうか?


 横転したトレーラーの先頭を見る。

 燃料タンクに損傷はない、これなら。


「フィズ、しばらく守ってくれ。トレーラーをぶっ飛ばすぞ」

「魔導核エンジンを暴発させるんですね? 分かりました」


 俺はトレーラーに飛び乗った。農耕用の工作機械を弄ったことはあるが、これほど大きなものは初めてだ。それでも、機械を扱う基本は同じ。バルブを操作し、機内の圧力を高めてやれば、行き場を失くしたエネルギーが暴発する。

 フィズはトレーラーを蹴り、コンテナを蹴り飛翔。跳びかかってきたベアを蹴りで迎撃し、反動で更に飛ぶ。俺に近付いてくるベアを次から次へと蹴り倒し、地面に落とす。凄まじい運動力、凄まじい戦闘力。見ているとへこみそうになる。


(いや、アイツに出来ることと俺に出来ることは違う。

 俺は俺に出来る精一杯を!)


 圧力計が異常を示す。

 これでいい、いや逃げなければいけないが。


「みんな、下がれぇ! トレーラーがぶっ飛ぶぞ!」


 力の限り叫び、逃げるよう促す。どれだけの効果があるかは分からないし、聞いている人がいるかは分からないが。俺も逃げなければ。


「……オイ、聞こえてなかったのかよ! このままじゃ死ぬぞ、お前!」


 鎧のエルフはまだうずくまっていた。


「オーリ、さっさと逃げますよ! ふっ飛ばされたくないでしょう!」


 隣に着地したフィズが袖を引く。

 しかし、さすがに見殺しには……


「したくねえって……! 逃げるぞ、嫌だって言っても!」


 少女の脇を掴んで引き起こし、抱えた。身に纏っている白銀の鎧は見た目よりもずっと軽いが、それでも重い。断じてこの少女が重いわけではないだろう。


 全速力で駆け出す。

 なおも襲い掛かって来るベアをフィズは石で撃退する。

 背後では圧力に屈したバルブや配管が壊れる音がした。


 ヤバい、ヤバイ。

 気持ちだけが逸る。

 体の動きがもどかしいほど遅い。

 どうにか丘まで逃げた、その時。


 トレーラーが爆発した。

 青白い光が辺りに撒き散らされ、衝撃波が俺たちを襲った。立っていられないほどだった、弓なりに俺は吹っ飛ばされる。背中から地面に叩きつけられ、呼吸が詰まった。痛いくらいで済んだのは幸運だった。


「ゲホッ、ゲホッ……! クソ! フィズ、どうなった……!?」

「あの近くにいた熊どもは吹っ飛ばされましたよ。多分、人間もね」


 責めるような口調ではなかったが――当たり前だが――忸怩たる思いがある。

 本当にあれしか方法がなかったのか? 俺たちは自分たちが生き残るために、多くの人を犠牲にしてしまったのではないだろうか?


「考えていることくらい分かりますよ。他に手はなかったのかって」

「よく分かったな、まったくその通りだよ。俺がもっと……」


「他に手なんてありませんでしたよ。

 あなたが勇者であったとしてもそれは同じ。

 むしろ自分の力を過信して戦っていたかもしれない。

 そうなればあなた自身も死んでいた」


 励ましてくれているのだろうか。

 それとも、饒舌さは罪悪感の裏返しか。


「それはそうと、さっさと進みましょう。

 休めるところに行かないとそれも……」


 フィズは俺が抱えた少女の方を指さした。

 その方向を見ると……


「勘弁してくれよ……! ふざけんな、死ぬんじゃねぞお前も!」


 エルフ少女の額がザックリと割れ、そこから大量の鮮血が噴き出していた。トレーラーの破片によって切り裂いたのだろう。よりにもよって、こんな。


「消毒と、それから清潔な布で出血を止めてやるのです」

「ああ、ここで出来ることはそれくらいだな。周りの警戒は頼む」


 懐にはすぐ使えるよう緊急用の医療キットを忍ばせている。そこから消毒液を取り出しふりかけ、ガーゼを当てて包帯を巻いてやる。こんなことになるなら講習をしっかり受けておくんだった。雑な手当てだったがとりあえず傷は隠せた。


 そんなことをしていると、肩にぽつりと雨粒が落ちて来た。

 タルタロスでも稀に雨が降る。

 今回は落雷を伴った、非常に激しいものだ。


「踏んだり蹴ったりだな。この状況で進むのは厳しい……」

「雨は臭いを消してくれます。休める場所を探しましょう、オーリ」


 ここまでくれば、『虐殺の丘』を抜けるまですぐだ。平原が終わり、どこか竪穴か何かがあるだろう。あってくれなければ、困る。俺たちは歩き出した。

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