05 レイナとの出会い
誰もが振り返り、見惚れる程の美しさを持つ美女__レイナ・レグナム
彼女は寿命が残り3ヶ月であった。
レイナは国王ドグラーテ・レグナムの第一王女であり、王家で最初に生まれた子だった。
その立場ゆえに幼い頃から国民の期待と王族の視線一身に集めて育った。
幼い頃のレイナにとって期待は監視されているような苦痛であった。
弱音を吐くことも泣くことも許されない。
レイナは次期国王の弟の補佐をするのだと生まれた瞬間から決められていた。
(わたくしだって絵本に出てきた冒険者のように自由に旅をしてみたい。自由に遊んで、勉強はしないで過ごしたいわ。)
ある日、勉強に疲れたレイナは城の周りを散歩していた。ふと外に目を向けると身なりの良い少年が親にわがままをいい甘えているところをみた。「ダメよ」と困らせながらも少年の頭を撫でる。
(私は1度も親に甘えたことがない。)
少年に対する羨望感は日が経つごとに強くなる。レイナは1度だけでもいいから甘えて褒めてもらいたい。その一心で勉強や行儀作法を頑張った。
勉強漬けの毎日で疲れたのだろうレイナは日に日に体調が悪くなり始める。医者に見せたところ結核だと診断された。レイナは治療法が確立してない時代を生きていた。助かる見込みがないと知った親は次第にレイナへの関心が薄れていった。
親は弟にかつて自分に向けられていた関心をレイナ以上に示すようになった。
目の前の少女に目を向け、レイナは昔に思い馳せていた。目の前の少女も自分と同じように苦労してきたのだろう。痩せこけた顔や随分と細い腕から見て取れる。
(この子も苦労しているのですね。名前のない奴隷身分ですし。それにしてもこの子にはただならぬ力を感じる。わたくしとなんだか似ていて放っておけない。)
ただならぬ気配を感じるレイナは少女に向かって優しい微笑みを浮かべる。
「ここにいたいのなら、ここで住んでもよろしいですよ?どうしますか?」
少女は驚き、視線が何度か彷徨った後チラチラとこちらを伺う。
「よろしいのですか?迷惑じゃありませんか?」
少女はオドオドしながらも遠慮する。この反応の原因は前の家主に酷い扱いを受けたからだった。
「かまいません。」
歓迎している雰囲気を受け取ったのか、少女はコクリと頷き、「お願いします..。」と小さく答えた。
少女がレイナの家に居候して二日が経った。
少女はレイナと一緒に家の周りの草を抜いたり、食事の準備を手伝ったりと、積極的に家事をこなしていた。その働きぶりを見たレイナはすっかり少女を気に入り、食事の際には自分の分を分け与えることも増えていた。
(ここに来て二日が経った。元の家に戻らなくていいのかな……。ご主人様に怒られちゃう。勢いでここに住むって言っちゃったし……。どうしよう。)
レイナとの食事を楽しみながらも、少女は心の中で葛藤していた。
温かい食事があり、安心して眠れる場所があり、優しく接してくれる人がいる。そんな暮らしは少女にとって初めてのものだった。
だからこそ、元の家へ帰る決心がつかなかった。今の生活はとても幸せで、少女は帰りたいとは思えなかった。その想いが、決断を先延ばしにしていた。
「ふとあなたを見て思ったのだけど...。
魔術に興味はないかしら?」
ゆったりとした口調で尋ねるレイナに、少女は少し考え込む。
「少しだけあります。でも、私は魔力量が少ないので魔術は使えないんです。でも……楽しそうだなって思います。」
困ったように笑いながら、少女は少しだけ胸の内を明かした。
その小さな本音に、レイナはすぐに気づく。
「興味はあるのね?」
レイナの表情がぱっと明るくなる。
「それなら、よかったらわたくしが魔術を見せてあげます。どうかしら?」
期待を込めた眼差しで少女を見つめる。
「お……お願いします。」
少女がそう答えた瞬間、レイナは嬉しそうに微笑むと、自分の食事を勢いよく食べ始めた。
あっという間に料理は皿から消えていく。しかし皿を鳴らすこともなく、姿勢や所作は最後まで美しかった。
食事を終えた少女は、レイナとともに庭へ出た。
庭はレイナが日頃から手入れをしているため、色とりどりの花々が咲き誇り、隅々まで美しく整えられている。
これからレイナが魔術を見せてくれる。そのことを思うだけで、少女の胸は期待でいっぱいだった。
少女がまだミリゼだった頃、魔術は決して珍しいものではなかった。
ドグナハイト家はレグナム王国でも屈指の魔力量を誇る名家であり、高い地位を築いていた。そのため、直属の魔術師から高度な魔術を教わる機会にも恵まれていた。
自らの魔力を込めて詠唱すれば、炎や水、風など、さまざまな現象を生み出せる魔術。その光景は幼いミリゼにとって夢に満ちたものであり、強い憧れを抱いていた。
(わたしも、いつかお姉様みたいに魔術が使えるのかな!)
幼い頃は、そんな未来を信じて疑わなかった。
しかし、現実は残酷だった。
ミリゼの魔力量は平民と大差なく、無理に魔術を使えば命に関わる危険があると魔術師から告げられたのだ。
憧れ続けた夢は、その一言であっけなく砕け散った。
兄や姉が華麗に魔術を操る姿を、ミリゼはただ遠くから眺めることしかできない。自分だけがその輪に入れないという事実は、幼い彼女に強い孤独感を与えた。
それから長い年月が流れ、魔術を見る機会もなくなった。
幼い頃に抱いていた憧れは、とうの昔に消え去ったものだと少女は思い込んでいた。
だからこそ、レイナから「魔術を見せてあげる」と言われた瞬間、胸の奥にしまい込んでいた幼い頃の憧れと高揚感が静かによみがえり、少女の胸は自然と高鳴っていた。
レイナは庭に真ん中に立ち、懐から古びた焦茶の杖を取り出して、ウインクする。
「わたくしの魔術ショーにようこそ!わたくしの繰り出す魔術是非楽しんでみてくださいね!」
レイナは深呼吸をする。その瞬間周りの空気が変わった。
「天穹に眠る白き輝きよ。
星々の祝福を受け、清き光となりて我がもとへ集え。
闇を払い、希望を照らし、すべての穢れを浄化せよ。
この願いを力へ、この想いを奇跡へ。
聖なる光よ、今ここに顕現せよ。
ルクス・エーテル・イルミナ!」
その瞬間、眩い光の粒が天から少女へ降り注いだ。
一粒一粒が虹色の輝きをまとい、まるで夜空の星々が舞い降りてきたかのように、静かに少女の周囲を漂う。その光は触れるたびに淡く煌めきを増し、幾重にも重なり合いながら幻想的な光の幕が広がっていく。
少女は思わず息を呑み、その光景から目を離すことができなかった。温かく、それでいて神聖な光は辺り一面を優しく包み込み、まるで世界そのものが祝福を受けているかのようだった。
(綺麗...............。レイナさんが光の女神みたい。すごい...............。)
レイナは少女に微笑むと急ぎ足で少女に向かう。
「どうでしたか?わたくしの魔術?凄かったですか?」
少女に早口で感想を求める。レイナは今までの自分の努力を褒めてもらいたかった。今まで高度な魔術に成功しても感想ではなく欠点ばかり述べられる。
ついに褒められるのかと輝く眼差して少女を見つめる。
「すごかったです....!まるで光の女神のようでした。すっごく綺麗でした...!」
レイナは求めていた感想を目の前の少女が述べてくれることに感動し、目は潤んでいた。それすらも魔術の余韻が残る少女にとって女神のようである。
「あなたも魔術習ってみない?わたくしが教えてあげるから!下級魔術などどうですか?」
優しい眼差しで少女を見つめる。魔力量に問題がなければ即答で頷いていただろう。少女の魔力量は平民同等なのだ。
少女は明るかった表情を消し去り、悲しそうな顔になる。その様子はひどく辛そうであった。
「私、昔魔力測定して、平民同等の魔力量だと言われたのです。それに奴隷身分ですから魔術など...」
辛そうに歪められた顔を見てレイナは彼女が奴隷身分で魔力量が少ないということを思い出した。
「ご、ごめんなさい...!不躾な誘いをしてしまったわ。本当にごめんなさい。」
さっきまでの余裕の微笑みを消し、切迫した表情で少女に謝る。
「いいのです。気にしてません。それよりレイナさんの魔術を見れただけで幸せですから。」
またもや貼り付けた笑みを浮かべる彼女。手首をさすり、落ち着きがない。
するとレイナは少女の手首にある魔術具を見つける。少女の手首を掴み、レイナの目線の先へ動かす。そこにあったのはこの国に禁止されている
「魔力を奪う魔術具」があった。




