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1-3 子爵

 ヘレナ子爵を連れて天幕へ戻る途中。


「……選べる手段を捨てるなど愚かでしかない。だから説明は省いた、といったところでしょうか。私を災いとは見ないのですね」

「では尋ねよう。ヘレナ子爵は災いか?」

「いいえ。私は完全無欠の女です」

「…………」

「半分冗談です」

「残り半分はなんだ?」


 ヘレナ子爵は周囲の視線も気にする様子もなく悠々と歩いていた。天幕に戻って席に着くと、今度は、ロビン、フランク、チェスターから耳打ちでアーロンと同じ忠言を受けた。それを感謝の言葉を述べ、同じ結論を返した。

 その間、ヘレナ子爵は一切言葉を発さず、ただ耳を傾けているだけ。家臣とのやりとりが一段落し、ようやくヘレナ子爵の話を聞こうとした直後だった。


「伝令! 伝令!」


 今度は、叫び声とともに馬の駆ける足音が遠くから近づき、天幕の前で止まったかと思うと、早馬の者が血相を変えて、こちらとヘレナを見るなり跪いた。


「申し上げます。子爵様、至急、本陣にお戻りくださいと将軍からのお言葉です」

「はて、帝国の将軍が私にお戻りくださいなどと言うとは思えませんが。正しく報告をなさい」

「…………此度の戦い、子爵は副将の一人として団長を補佐するお役目。持ち場を離れ、あまつさえ率いる兵たちまでも好き勝手行動させるとは何事かと大変お怒りです」


 ヘレナ子爵は少し口角を上げてこちらを見た。


「……嫌な予感がするのだが」

「それはサンフィールド伯爵の器量しだいでございましょう」


 ヘレナ子爵は再び使者の方に向き、今までのにこやかな表情から一転し、無表情となり、使者を見下ろす。


「将軍が小賢しい女の意見など不要と命じられた。ですので、私はこうして従ったまでのこと。そして、先ほど私が必要と誘われ今はこのサンフィールド伯爵の補佐に就きました。戻る理由はございません」

「で、ですが……」

「そうですね。伝えるにしても伝令としてのお役目もあるでしょう。将軍には、自らサンフィールド伯爵のもとにやってきて頭を下げ、サンフィールド伯爵の傘下に入るとおっしゃるようでしたら補佐として支えましょう。そうお伝えください。あ、ついでに私を探す者を見かけましたらサンフィールド伯爵のもとに居ると伝えてくれると助かります」

「……承りました」


 将軍のもとへ戻ったその使者が再びこちらに戻ってくることはなかった。

 だが、その代わりにヘレナ子爵の友人と称する女性が現れた。


「……姫様。これはいったい」

「あらフェミニア。あなたにしては来るのが遅かったですね」


 目を左右に走らせ、戸惑いを見せた彼女。ヘレナ子爵が耳打ちして手紙を渡すと、彼女は頷き、退出していった。


「今後の見解を聞かせてもらえるか?」

「それについては情報が集まりしだいお答えしましょう」

「「「…………」」」


 アーロンたち家臣の視線はさらに険しくなった。


 その後もヘレナ子爵のもとへ平民の装いで帯剣した報告者が、度々現れては手紙を渡し、ヘレナ子爵もただ無言で手紙を読むのみ。

 サンフィールドの兵たちは行き交う者たちへ怪訝な目を向け、アーロンやオリバー、キースはその不満げな視線に対して宥める役目に徹していた。ただ、それでも限界はある。


「主様。さすがに何も得られぬまま知らぬ者をこの天幕に何度も入れるのは……。」

「私を追い出しますか?」


 ヘレナ子爵が挑発するように微笑む。それを見たアーロンの表情が険しくなり剣に手をかけようとした。


「待て!」

「ですが」

「ヘレナ子爵。アーロンたちは私を支える大切な家臣だ。挑発するのはやめていただきたい」

「ただ率直にお尋ねしただけですが、これは失礼しました」


 ヘレナ子爵が頭を下げたのを見て、アーロンの方を向く。


「私はアーロンやオリバー、キースが最善の忠義を尽くしてくれると信じているし、理解している。だが、下した判断は変わらない」


 その言葉にヘレナ子爵が首を傾げた。


「そのお言葉は矛盾しているのでは?」

「そう見えるか。では尋ねてみよう。アーロン、私に対して言っていた最も大事な事は何か? それは家臣に従うことか?」


 問いに、アーロンは物言いたげに口をわずかに震わせた。そして、拳を強く握り締め、答えた。


「…………いいえ」

「では答えよ」

「大事は三つ。戦いには勝つこと、選択は生き残ること、そのためによく話を聞き判断を下すこと、にございます」

「それでは四つでは?」


 ヘレナ子爵が呟いたが無視し、アーロンの言葉に頷く。


「そうだ。そしてここは連合王国の地であり、その援軍として参じた、帝国軍の指揮下で戦う身。

 私たちはこれからどのような相手と戦うことになるのか。どのような場所で戦うのか。おそらくヘレナ子爵は把握している。そして、協力を頼んだのは私自身だ。そのことを踏まえて今は様子を見て欲しい。

 そこに不満を感じたとき、そのときは改めて話を聞く。だがそれを聞き入れるかは勝つか、生き残るために必要な手段と判断したときだ」


 アーロンやオリバー、キースは軽く頭を下げて了承の意を示した。それを無言で見つめるヘレナ子爵。

 そして、しばらくして再び訪れた早馬からの手紙を受け、読み終えたヘレナ子爵が伝える。


「帝国軍は明日、明朝に行軍を開始。三日をかけて西南西の川へ。そこで中州を経由する橋と、合流した大河を船での二つの経路で渡り橋頭堡でもある城塞都市ロングアイルを目指します。

 そこで作戦を伝達。翌日から南へ行軍。そこで連合王国軍の主力と合流し、各個撃破しつつ、可能であればフォーサイド市近郊で決戦を……と、考えているようです」


 そうヘレナ子爵が伝えた直後だった。将軍からの早馬が来た。

 

「明日の明朝、出発。目的地は城郭都市ロングアイル。補給は道中の拠点で行うので遅れなきよう準備されたし」


 という伝令だった。


 爵位(貴族位)

  公爵(王家血縁のみ)

  侯爵(旧王族、古参功臣、要衝の支配者)

  伯爵(侯爵に準ずる領主)

  子爵(直轄領地の管理代行、官僚)

  子爵(準貴族:貴族の嫡子、商人貴族)

 ※爵位と役職は別


 軍の編成

  部隊将:名称+隊(部隊を率いる将軍)

  部隊長:部隊(什隊以下を複数率いる部隊長)

  什隊長:什隊(伍隊を複数率いる隊長:五十~百)

  伍長 :伍隊(五人一組の長)


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