3-1 出発
出発の朝。
広場に集まった兵たちの表情には生気が見てとれ、雑談を交わす余裕さえあった。
サンフィールド軍、歩兵三百五十余、ヘレナ軍騎兵五十余。後ろにいる、アーロン、キース、オリバー。そしてヘレナ子爵とフェミニア。
「天は我らにお恵みをお与えになった。では、我らが成すべきことは何か。我らの目的は何か。愛おしき故郷へ帰り、祖国の地を荒らす悪党を我らの手で討ち、子々孫々への英雄となる! これよりその行軍を開始する」
歓声に頷き、先頭を自ら進む。それにアーロンやヘレナ子爵たち、サンフィールド軍、ヘレナ軍の騎兵が続く。四つある見張り台の、門なき門へ向かうと、そこには竜一と左右に槍を手にした若い男女がいた。
「竜一殿。世話になった。礼はいつか……」
「礼はいらぬ。その代わりと言ってはなんだがこの二人を連れて行ってくれ。二人の名はシトとラン。幸運の案内役となるだろう。そして、案内を無事に終えたら家来として雇ってやって欲しい」
「いいのか?」
「二人は覚悟を決めている。それにこれは一族のための頼みだ」
二人はその言葉に頷いた。
「わかった。ではあらためて私から頼もう。西へ進み、サンフィールドへの道を案内してくれ。数多の者たちが成し得なかったその功をもって家臣として雇うことを約束し、住む家、暮らせるだけの地位に褒賞も約束しよう」
すべての兵たちに聞こえるように宣言する。
二人は顔を見合わせ跪いた。
「ご命令承りました」
「ではシト、ラン、案内を頼む。全軍行軍再開!」
頷き、方位磁石も見ないまま進む二人に続いて進む。
彼らは濃霧の中、迷いなく歩み出し、小川を見つけるなりそれを遡っていく。
その後も森林の道の山間を進むように歩き、休憩も入れながら進む。その道のりに道はない。にも関わらず、道を歩いているかのように不思議と足取りは軽い。
その道のりも徐々に霧が晴れ、薄暗い森へと変化していった。それによって兵たちも雑談をするほどには余裕ができてきたらしく、更に進むとそれからほどなくして山間を流れる小川へとたどり着いた。
シト、ランは立ち止まると振り返った。
「サンフィールド伯爵様の領地は三方を森林に囲まれておりますか? そして大森林から川は流れておりますか?」
「その通りだ」
「では、この川を下った先にサンフィールド伯爵様の領地へ続いております」
その言葉に、歓喜とも逸る気持ちとも感じる胸の高鳴りを飲み込む。
「なぜわかる?」
「わかるから追放なのです。それと……」
目を彷徨わせた。
「報告があるなら遠慮なく申せ」
「この先の川沿いに、何か違和感を感じて」
その言葉にヘレナ子爵を見る。ヘレナ子爵は指示を与える前に頷き、馬を降り、フェミニアが馬を走らせて後方のヘレナ隊の方へ向かった。
ほどなくして、後方に居たヘレナ隊騎兵の五騎が横を素通りし、先の偵察へと向かった。
休憩させつつ待ち、部隊長も集めて待っていると、ほどなくして偵察が戻ってきた。
それをヘレナ子爵が報告する。
「森林で隠すように存在する砦有りという報告。内部の構造、兵数は不明。木の柵に所々が蔓や苔があり外堀はなく、高台のような建物も見当たらなかったとのこと。その正門も木で作られた村の門の獣除け程度。
周囲が大森林なこともあって、見張るより隠れるに特化した構造のようです」
報告に対して、誰もが沈黙して視線が集まっていた。
「……さて、砦を攻城するべきか、先を急ぐべきか、か」
「サンフィールド伯爵、一つ確認を」
「なんだ?」
「まず、サンフィールド伯爵はこの砦の存在をどうお考えですか?」
「私は……そうだな。シトとランはあの砦は大森林の民と関係がある砦か?」
「ございません。大森林の民が特別な理由なく霧の外へ出ることはありませんから」
シトの回答に頷く。
「サンフィールド領のすぐ西に知らない砦がある。そして大森林から賊軍の襲撃があったとの報告。無視はできない」
「でしたら、答えは一つですね。問題は何でしょうか?」
「サンフィールド領の賊軍に私たちの動きが知られること。そして砦攻略で大きな損害を受けることか」
ヘレナ子爵は、それに頷いた。
「では、その問題の一つはヘレナ隊がお請け致しましょう。別動隊として動いて賊軍に知られるのを遅らせる程度にはなりますが」
「十分だ。アーロンはどう思う」
「異論はございません」
ヘレナ隊は先行して行動に移った。




