2-7 交渉
見張り台の上に居る者たちは弓に矢を番えていた。
門へ近づき、門前の者たちも数名こそ槍を構えてこちらに向けたが、その真ん中と両隣に居る者たちは槍を立てたままこちらをじっと見ている。
そして、槍が届くであろう間合いのぎりぎりを見定め、立ち止まる。
「私は帝国より伯爵の地位を受けた、サンフィールド伯爵だ。その代表として話をしたい。この村に代表の者はそなたか?」
目の前の三人は顔を見合わせた後、中央の者が一歩前に出た。
「我が名は竜一族八人の中の一人、竜一、左右に居るのが竜二、竜三だ」
「我らサンフィールド軍は故郷に帰還すべく東より参り、西に行きたい。我らは敵対の意思はない」
「話し合いを望むのであればまず力を示せ」
「……具体的には?」
「竜二、竜三が居る一騎打ちで生かしたまま倒してみせよ。弱き者はいつだって狡猾で信用できぬ。私は強い奴としか話す気はない」
「わかった。だが私は大森林の道のりで疲れている。一人は私が、もう一人は後ろのアーロンに相手させたい」
「…………よかろう。だが、負ければ話し合いは無しだ」
「わかった」
アーロンを見て、頷く。
お互いに左右に分かれると、アーロンの方には竜三が向かい、目の前は竜二が立ち槍を身構えた。
それに合わせるように剣を抜いて身構える。
「思ったより剣が重いな……。だが、戦えそうだ」
身体は疲労していた。剣は鉛を加えたように重たく感じ、足も鉄の具足をつけたように。
それでも身体を動かせたのは、これまでに積み重ねてきた走り込みからの素振りという単純ながらも継続してきた鍛錬の結果。
「さて……」
そう呟いた迷いを察して竜二が槍を手に薙ぎ払いに来た。その殺意に満ちた一撃に、後ろに跳んで距離をとる。
さらに顔に突こうとした動きが続き、寸でそれをかわしつつ剣で払った。
「ふはははは」
下卑た笑いと見下す竜二の目は、かわしても殺してもどちらでもいいという意思を明確に示した。
その露骨に見せた隙を突き、槍の死角へ入って斬りかかると、回避するどころか無視して槍を薙ぎ払ってきた。今度こそ、相手は数歩下がった。
そして、また下卑た笑みをした。
「……なるほど。狡猾は信用できないという訳だ」
槍を突く姿、薙ぎ払う動き、下卑た笑みに対する負傷を厭わない動き。
すべての姿、その鍛錬によってきれいに伸びた手の動きや、握り直しを思い返し、再び身構える。
そして、相手に対して微笑み返す、竜二の表情が怒りに変わったのを察した。
「死ね!」
その予想通り、距離を活かした速く鋭い突き。そのまっすぐに伸びた腕を見定め、穂先を狙って両手で剣を握って勢いよく上から下へ斜めへと叩く。握っている剣から伝わる痺れるような衝撃。
竜二は槍を落とすことなく耐えていたが、衝撃で立ち止まったその一瞬こそ待っていた瞬間だった。
一気に間合いを詰め、槍を持つ指の手前で剣を止める。
「動くな! 今動けば指を失うぞ。なんせ条件は生かしたままだからな」
「なにを!」
それでも槍で薙ぎ払おうとした動きに対して、回りこみつつ剣先で片方の指を斬ると、続いて膝を剣で撫でるようにして斬る。
悲鳴で槍の握りが偏ったのを見て、無傷だったもう片方の指先を狙って斬った。
「卑怯だ! こんなの二度目は通用しない」
「……二度目は通用しないから一度目で片を付けたんだ」
再び距離をとり、竜二は槍は握っているが、左手の人差し指と中指、右手の小指を失い、膝からも血が流れてはいた。
「まだだ! まだ勝負は……」
そう言った直後だった。一本の矢が正確に竜二の頭を貫き、竜二は倒れた。
その矢の来た方向を見ると、見張り台から矢を放った後の姿で竜二を見る男の姿があった。サンフィールド軍ではない。その事だけ確認すると、アーロンの方を見る。
竜三も同じく、致命傷を受けないことを見越した動きをし、突きを繰り返し、アーロンに息をあがらせ追い込んでいた。対して、アーロンは何度も有効な隙をつきながらも、あえて致命傷となる動きをする竜三の動きに、決定的な結果をもたらせないようだった。
「このままではまずいな」
その二人の姿を見て間合いをとったところで決断する。
「アーロン、前に集中したまま話を聞け。竜三を次の一撃で斬れ。殺しても構わん。これは命令だ」
「…………はい」
返事をしたアーロンと強張った竜三。両者の表情を見れば、結果は見る前からわかっていた。
最初に動いたのはアーロンからで、突きからの薙ぎ払いで距離をとろうとした所を剣で首を一刀両断した。
殺せば反撃は来ない。それがわかっての動きであるアーロンの動きは鮮やかで、完璧な命令を遂行した姿は見惚れてしまいそうなほど鮮やかだった。




