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クリエイター×creation  作者: あまとうん
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二話 大切なのはスケジュールだ

 共同制作に一番大切なのは何だろうか。

 価値観の共有?納期に間に合わせること?どちらも大切だろう。

 だが、俺が一番大切だと思うものは他にある。それは、

「スケジュールだ」

「スケジュール?そんなわけないでしょ」

 俺の言葉が一蹴された。

 俺、如月康二は廃部しかけのPC部に所属していたが、ひょんなことからイラスト部と合体してメディアアート部になり、実績のためムカつくやつと協力、と濃い日々を過ごしていた。

 そんなこんなで第一回、制作会議が行われているわけだが、高圧的な絵描きの三島やよいとは驚くほどに剃りがあわない。元々喧嘩で始まった中であるし、部長や八重樫が間に入ってやっと同じ空間に入れたのだ。当然、すぐさま二人でやっていけるわけがない。

「いいや、スケジュールだ。計画立てないとエタるだろ」

「えた?何それ」

 三島がきょとんとした顔をしている。エタるって通じないのか。

「エターナル。計画が頓挫するって意味だ」

「永遠、ってことね。でも、私、目の前のことから片付けてくタイプだから、ご心配なく」

 三島が自慢げに答えた。そんなに威張らんでも。

「お前、三角食べできなそうだもんな」

「何、悪い?」

「本当にできないのかよ……」

 愚直なのか、器用なのか。その性格は絵を描く分には十分だろう。ただ、締め切りの重要性については知ってもらわなきゃ困る。

「じゃあ、スケジュールの重要性をわかりやすく言おう。例えばお前がキャラクターを描いたとする」

「うん」

「そのキャラの絵で修正したい箇所が出てきた。具体的に言えば、キャラの体つきとかビジュアルだな」

「よくある話ね」

「その絵を修正するにあたり、他の絵を修正する必要も出てきた。さて、何枚の絵の修正がいる?」

「三、四枚かしら」

 絵描きにはきっとそんな体感だろう。差分やキービジュアルを修正すればいいと思うに違いない。

「正解は、まずキャラの立ち絵、差分。タイトルやスチルなど、全部。ゲームの種類にもよるがとんでもない量になる」

「ゲームって案外、たくさんの絵があるのね」

 修正が重なり、期日に間に合わない例はいくつかある。妥協したくないのもわかるが、修正が中途半端になってしまったり、後から修正箇所に気付いたりしても遅いのだ。

「その都度直せば?」

「それだと、際限なくなる。修正が重なりすぎて最低限の分も書ききれない場合もある。この日は修正に充てる、この日はメインの絵を描くとか割り付けすれば、必ず期日には間に合うだろ?」

「そんなことしなくても間に合うって!私を舐めないで」

 とことん、人の話を聞かないタイプだ。わかりやすく絵の例まで出してやったのに。仕方ない、最終手段を使うか。

「八重樫先輩とやらから聞いてるが、直前に修正出すタイプらしいな」

 突如、三島の肩が震えた。図星とみえる。

「うぐっ何でそれを?」

「修正で一番不利益を被るのは、それを差し替えなきゃいけない俺だ。だから、納期をもうけて作ってくれと言う話だ」

 一番、損を被るのは下流工程、つまり絵を受け取ってからそれをゲームに反映させるものだ。三島が修正すれば、こちらも絵を差し替えねばならないのだ。

「わかった。従ってあげる」

 三島が大人しく首を縦に振った。意外と素直な反応だ。

「でもね!私はあんたの提示した納期より早く仕上げてやるから!」

 そんなことで意地を張らなくてもいいだろう。本当にややこしい性格のやつだが、いちいち突っ込んでいても話が進まない。俺は軽く嗜めて次の話題に移る。

「じゃあ、本題に入る。ノベルゲームを作ろうと思う」

「ノベルゲーム?」

 三島が小難しそうな顔をして首を傾げた。馴染みない人にはピンとこないだろう。

「いわゆる紙芝居だ。メッセージウィンドウに地の文と会話文が表示され、その上にキャラの絵が表示される」

「恋愛ゲームとかの?」

「それもそうだが、別に恋愛以外でもたくさんある」

 ノベルゲームは古来から存在し、選択肢のあるものは昔からあり、今では選択の幅が豊富になったり、アクションと組み合わせているものまである。恋愛ゲー=ノベゲとは呼べなくなってきているのだ。

「ちょっと地味すぎない?私はたくさん絵を描きたいんだけど!」

 彼女の反論は最もだ。確かにノベルゲームはゲームの中でもハードルが低い方だろう。しかし、実績皆無の俺たちが大きな目標を掲げて長期スパンで頑張れるかは疑問に思う。

「待て待て。まずは一作目だ。ここでつまづいちゃダメだろ。一ヶ月くらいの期間で仕上げる」

「一ヶ月もあれば、もっとかけるわよ」

 それは絵描き目線の話だし、絵描きが作品を描いて完成という前提だ。それまでには手順がいろいろ必要だ。

「一ヶ月丸々描いていいわけじゃない。お前が絵を描くためにはまずはどんな絵を入れるかの話し合いが終わらないといけない。そして期日までに完成すればいいわけでもない。当然、データ化して取り込んだり、調整したりするからだ。軽く二週間ぐらいになると思っとけ」

「ゲームって面倒臭いのね」

「だから、計画がいるんだよ!」

「そう言うことなら早く言いなさいよ」

 俺は苛立ちを抑えて、俺は椅子に座り直した。誰のために説明に時間をかけてやってるんだ。

「で、どんなゲームにするの?」

 話を進めるあたり、三島も共同制作に全く賛同していないわけではないだろう。彼女の熱意はやはり製作者としてはかなり強いのかもしれない。

「ノベゲのホラーで行こうと思う」

「は?」

 三島が呆れたような顔をしている。そこまで嫌がらなくてもいいだろう。提案する方が勇気がいるのに、心を折りにきているのか。

「理由はある。短編で面白い内容を書くとしたらどうする?」

「それは、みんなが驚くような内容にするでしょ。それか出オチの一発ネタとか」

「そうだ。意外な結末を添えてやればいい。例えば急に殺されたり、最後に答えがわかったりするだといいだろうな」

 そこに関しては三島は否定しなかった。話を作るのは自分の得意なジャンルではないから、口出しできないのだろう。

「インパクトだ。短編故にできる、短編だからこそできる、クライマックスを最初から持ってくる方法だ」

「確かに、インパクトは大事。だけど、別に恋愛ものでも、他の作風だって」

 三島が弱めの提案を挟んできた。彼女にしては勢いがない。

「おいおい、文章は誰が書くんだ?」

「え?元からあるんじゃないの?」

 何を甘えたことを。そんなものはない。既作だと、許可がいるかもしれないし、短編を探すのも面倒だ。ならば俺が書くしかあるまい。

「俺だよ。素人でもインパクトのある描写なら読み手が理解しやすい。それに俺が書く恋愛見たいか?」

「絶対イヤ」

「即答かよ」

 逆に見たいと言われても困るが。第一段階は突破とみえるが、考えてきた設定や話の流れまで通るかどうかだ。

「まあいいわ。どんな話にするの?」

「まずプレイヤーは下校途中、ある少女と出会うんだ。そいつと歩いていると、所々変な質問が投げられる。質問を間違えると死ぬ」

「バイオレンスね!」

 バイオレンスという割には今までで一番楽しそうな顔をしているが……。

「続ける。初見とかは何で死ぬかわからないし、犯人は少女っぽい引きでバッドエンドは終わる。でも、実は少女はプレイヤーを守ってたんだ。最後はなんだかんだでプレイヤーは少女を助けてエンド」

「なるほどね。で、驚くような最後は?」

「今話したぞ」

「え?」

「だから、実は少女は」

「待って!そこも驚きの展開だけど、サラッと言ったから終わりじゃないかと思ってたわ」

 なぜか三島はしどろもどろしている。

「ていうか、驚きの展開なのに何でバラしちゃうのよ!」

「バラさなきゃ描けねぇだろ!絵を!」

 いつまで享受する立場と思うなよ。話さえ今度はこちらから作っていくんだ。

「確かにそうね!今まで見てきた絵師の人ってみんなネタバレを聞いてたわけね。好きな作品の仕事をするとそのネタバレを喰らう……」

「ああ、プログラマ、音屋、宣伝、企画進行だってそうだ。秘密にしてたら共同制作なんてできないだろう」

 製作者側に回るということは、自分の関わったものを純粋に作品として受け取れなくなるということでもある。プロの話だから俺たちには関係ないが。

「でだ。お前に依頼する絵のことなんだが、まず女の子の立ち絵だ。ビジュアルから全て任せる。本筋から逸れたような華奢設定とか虫をも殺さぬ性格とかにしなければいいぞ」

「えぇ〜。私は単純に絵を描くのが好きなんだけど」

 お前は否定しかせんのかと言いたい言葉を心に押さえて、俺は彼女を焚きつける。

「絵の表現にはキャラの造形までしっかり考えることで、それが一眼でわかるようなものを作ることだと思う。プレイヤーに犯人だろと思わせる凶悪性と実は主人公を守っていた優しい一面を兼ね備えた魅力的なキャラを頼もうと思ったが、さすがに無理か」

「は?できるに決まってるでしょ!任せなさい!」

 相変わらず、ふっかけると簡単に発火してくれて助かる。挑発にとことん弱いタイプとみえる。

「表情差分、タイトル、スチル数枚を頼もうと思う」

「待って、スチルって何?」

 まあ、そうなるわな。ここも説明してやろう。

「スチルというのは、一枚絵のことだ。例えば重要なシーン、主人公が殺されるシーンで立ち絵のままだと味気ない。そこに主人公の死に様がはっきり書かれてる絵を載せて表現したいシーンを際立たせるんだ」

「なら、何でスチルだけにしないのよ?」

「コストカットと、強調性だな。スチルが多いと特別感がなくなり、絵が出てきても驚かれないし、画面がチカチカすると集中もできない。一番はコストカットだろうけど」

 さすがにその大変さはわかってくれたようで、納得してるようだった。アニメーションはとんでもない量の絵を使うからな……。

「会議は以上だ。では、キャラクター原案を持ってくるように。解散!」

「ちょっとまった」

 椅子型立ち上がり、帰ろうとしていた俺を三島が制した。

「私の要件ばっかりであんたの要件がほとんど会議されてません!」

 何を言い出すかと思えば。散々、会議で俺が考えてきた内容は話した。

「今話した通りだ。ゲームの元枠と文章を考える」

「あんたがしたいのはプログラムでしょ。ノベルゲームってペラペラするだけじゃない?」

「そうなるな」

「だったらさ、プログラムもアレンジしなさい!」

 何を言い出すかと思えば、俺にクオリティを要求しているのか?

「だから、一ヶ月のスパンでやるから凝ったことはできんぞ」

「妥協して言いわけ?ダメでしょ!一緒にやるからには、私からも案を出さないと!」

 俺は侮っていた。三島やよいという人間を。彼女の創作にかける熱意は自分だけでなく、他人を巻き込んで聞く熱狂的なものであったことを。俺は彼女を何もまだ知らない。

「やるからには、ただのノベゲじゃつまらないでしょ?だから、リアクションをつけれるようにするのはどう?」

「リアクション?」

「ええ、例えば相手に近づいたり、離れたり。会話を変えたりだとか。もしかしたら恐怖の対象かもしれない女の子とスリルのある駆け引きができるでしょ!」

 正直、つっぱねてやりたかった。時間も、実力も何もない状況で、そんな変なことができるかと言いたかった。でも、そうはできなかった。

 彼女の目は輝いていた。これまでみたどんな彼女の表情よりも煌びやかで艶やかで鮮やかだった。

 そうか、これこそが俺にないものだ。俺にかけている輝かしいほどの情熱。一切、妥協という言葉を知らない、馬鹿な奴の大きな夢。

「お前にしてはいい案を出す」

「素直に受け取れ」

「誰が言ってんだよ」

 出会いは最悪、最初の会議もめちゃくちゃだった。相性も良くないし、なるべく話したくないとさえ思う。

 それでも、こいつの芸術のかけるそれだけは評価してもいいと思う。

 今はまだチグハグな足取りだが、こいつと一緒ならとんでもないところに行ける気がする。

「じゃあ、さらに自分で入力してそれびたいして返信が返ってくる、リアルな対話システムは?よくわかんないけどAIってのを使えば簡単でしょ!」

 前言撤回。こいつの理想に付き合ってられるか!

 

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