入店5回目 5 ~泣きそうです・・・~
「ねー、琳人さん、そう思いません?」
私が何の反応も示さないのを見て、純さんは琳人さんに話を振りました。
「そう・・・ですね。大人っぽくて素敵だと思います」
琳人さんは私と純さんに交互に視線を向けながら少し遠慮がちに言葉を押し出しました。
多分、私が醸し出す微妙な雰囲気に気づいてらっしゃいます。
純さんは一頻り私の相手をすると、また太客さんの方に戻って行かれました。
その間、私は結局一度も顔を上げられないまま。
「大丈夫?」
そんな私の様子を見かねてくださったらしく、琳人さんはそう声をかけてくださいます。
「大・・・丈夫、です」
私はどうにかお返事しましたが、おそらく泣き笑いみたいな表情になっていたのではないでしょうか。
こんな気持ちの時に優しい声をかけられたら泣いてしまいそうです。
でもお店で泣き出して“痛客”にはなりたくないので、必死でこらえました。
だけど、もうそれ以上お店に居続ける自信がなくて、純さんを呼んでいただいてチェックをお願いしました。
私が帰ることを告げるといつもは「もう帰っちゃうの?」と残念そうに言ってくださる純さんがどこかホッとなさったように見えたのは単なる被害妄想でしょうか。
私がいなくなれば太客さんに専念できることは確かでしょう。
滞在時間一時間弱で私はお店を後にしました。
もちろんいつも通り純さんは店外までお見送りしてくださいます。
「家に着いたら連絡してね」
手を振りながらそうおっしゃる純さんに私は小さく頷くことしかできませんでした。
帰りの電車の中ではひどく疲れているのが分かりました。
お店にいる時間も短かったし、見知らぬ人とおしゃべりをしたとかではないのに、その場に座り込んでしまいたいくらい疲れていました。
自宅最寄り駅へ着いて改札を出て歩きだすのも、全て機械的な動作です。
とにかく早くうちに戻りたい一心で――自宅に着くと自室に駆け込みました。
心理的なセーフティゾーンに入って、心の重荷をさっさと取り払ってしまいたかったのです。
ところが、自分の部屋に入った途端、緊張の糸が切れたみたいに涙が溢れてきました。
泣きたいと思っていたわけではなかったのに、何故か後から後から涙がこぼれて止まりません。




