プロローグ
皆さま初めまして、こんにちは。
妹尾愛香、地元の工務店で事務のお仕事をしている社会人二年目の24歳です。
この度は彼氏いない歴=年齢で、コミュ障の私がホストクラブに通うようになったきっかけと、そこで出会った優しい人たちのことについてお話したいと思います。
始まりは、会社の先輩兼同僚の幸子さんの一言からでした--
※ ※ ※
あれは確か、ゴールデンウィークも終わった、5月のある爽やかな日のお昼休みのことだったと思います。
「愛香って、彼氏ほしいとか思わないの?」
事務所の隣り合わせの席でコンビニ弁当をつつきながら、幸子さんは唐突にそう尋ねてきました。
「ほしい、と思わなくはないですけど・・・」
お手製のおにぎりをかじりながら、私は一応そうお返事しました。
「けど?」
「出会いがないですし・・・」
私たちの勤める白丸工務店は、社長以下20名弱の小さな会社です。
三人いる事務員はすべて女性で、私と幸子さんとあと定年間近の年配の方。
それ以外は全員男性なのですが、年齢層が高い上に既婚者ばかりです。
職場で出会いを求めるのは絶望的と言えるでしょう。
もっとも、コミュニケーション能力が高くて誰にでも物怖じしない幸子さんは、たまたま必要書類を届けに行った現場で三つ年上の某建設会社社員の男性と出会い、見事彼氏としてゲットなさったようです。
あ、ご説明が遅れましたが、幸子さんはフルネーム羽田幸子。私より二つ年上で入社の時から妹のように可愛がっていただいてます。
活動的なショートカットに細身のパンツスタイル。身長160cm強と決して高くはありませんがスッと伸びた背筋にキビキビとした動き。
この会社は幸子さんの働きで回っていると言っても過言ではありません。
それくらいお仕事に関しても有能な方です。
「出会いなんてねぇ、作らなきゃないに決まってるでしょっ」
・・・ごもっとも。
私もこの年で「いつか王子さまが・・・」なんてシンデレラ願望を抱いているわけではありません。
そもそも、ぱっつん前髪にローポニーテール、丸メガネに一見してユ○クロかし○むらと分かる万年同じ格好の地味子に王子さまが現れてくれるはずもありません。
「まぁ、うちじゃ合コンするわけにもいかないしねぇ」
最近の新発売らしい「旨辛麻婆丼」をつつきながら幸子さんは深い溜め息をつかれました。
合コンなんて、産まれた時からコミュ障の私には恐ろしすぎます。
それから、幸子さんは何か考え込むように、手を止めてしばらく事務所の天井の一角を眺めてらっしゃいました。
しばらくして唐突に
「じゃあ、マッチングアプリとかは?」
とおっしゃいます。
「マッチングアプリですか? 出会い系とかは私、とても・・・」
「あー、そういうんじゃなくて。今さ、婚活サイトと出会い系の中間みたいなサイトで知り合う人が増えてるんだって。婚活サイトだと結婚前提みたいになっちゃうし、出会い系だと不安でしょ?」
「はぁ・・・」
「サクラ対策とかもしてる真面目なサイトもあるみたいだから、まずはそういうところにでも登録してみたら?」
そう提案を受けたものの、私はしばらく考え込んでしまいました。
そもそも、男性とお付き合いをしたいのか、とういう根本的なところが自分でもまだよく分かりません。
このままじゃいけないのは薄々感じていますが、かといって自分から行動を起こすようなモチベーションがあるかというと・・・。
「ほら、こことかよさげじゃない?」
考え込む私をよそに、幸子さんはサクサクとスマホをいじるといくつかのアプリを提示してきました。
「・・・」
それを横目でみるものの、私にはまだ踏ん切りがつきません。
「あー、もうじれったいな。携帯出す!」
私の煮えきらない態度にしびれを切らした幸子さんは少々強い口調でそうおっしゃいました。
「は、はい!」
つられて自分のスマホを取り出す私。
「ほら、このサイト。検索してアプリをインストール!」
有無を言わせない幸子さんの姿勢についつい従ってしまう私は、言われるがままアプリをインストールしました。
その一部始終を横で見張っ・・・見守ってくださっていた幸子さんは、無事インストールが終了するとニッコリと微笑まれます。
「あとでちゃんとプロフィール設定もするのよ」
ダメ押しも忘れません。
もちろん私にできる選択はうなずくことだけです。
「プロフィールには自撮り写真も忘れずに載せてね」
「はい・・・」
懇切丁寧なご指導を受けて、私は若干泣きたくなりながらお返事しました。