第9話
日が沈んだ夜のミメルト王国、そこで会議が行われている。
出席しているのはアレス国王陛下とその直属の部下のスカームとベルジュ。
そして側近のノレッジと王国騎士団長の5人である。
こういう作戦を立てるときは貴族を会議に入れない。
余計なことを言ったり、保身に走ったり。
我が身かわいさにガストラルに情報を売る危険があるからだ。
アレス国王陛下が話し始める。
「作戦を説明す……」
そういった瞬間に扉が開き、銀髪で狼の耳と尻尾の生えた獣人
エテリアがやってくる。
「エテリア!勝手に出歩いちゃだめだろ」
「私の勝手だ」
「……やれやれ」
呆れた表情で返すアレス。時間がないので
エテリアも加えて話を始める。
丸い大きな円卓の上に大きな紙を広げ、アレスが話し始めた。
「偵察に出てくれた兵が確認してくれたのは
敵のこの陣形だ。
一直線に王国へ向かってきている」
広げた大きな紙には敵の配置と地形が描かれていた。
急ごしらえでブラムスに描かせたものだ。
彼はアレスの頼みでいろいろと動いてくれている。
「敵の陣形は左右と中央から、王国へと一直線に突き進んでくる。
このままいくと、ミメルト王国まであっという間に攻め込まれてしまうだろう」
国王の衣服をまとったアレスが右手の人差し指で敵の狙いを指し示す。
「そこで、スカームは左翼、ベルジュの舞台は右翼に展開。
左右から中央に集まろうとする敵を迎撃してほしい
私の部隊を正面に展開、敵を足止めする」
その最後の一言でエテリアを抜いた全員が猛反対する。
最初に言いだしたのは騎士団長だ。
「ダメですよ陛下、この陣形、間違いなく陛下を狙っています。
これは王国へ襲撃すると見せかけた陽動作戦です」
「わかっている、だから余計にこうするのさ」
ノレッジが意見をするのをアレスが答える。
「何か策があるのですか?」
「あぁ、もちろん。罠をはっておいた」
今度はスカームが意見を出した。
「その罠っていうのは?」
「今は答えられないけれど、_岩の上に乗るな_
とだけ伝えておくよ」
疑問に思ったベルジュがたずねる。
「岩の上に?戦闘中に岩の上に乗る方がいらっしゃるのでしょうか?」
「当然、いるわけないだろうな。今回はブラムスに手を借りている。
ともかくそういうことだ」
完全に迎え撃つ覚悟をしているアレスだが、アレス以外の全員の意見は同じだった。
ノレッジや騎士団長、スカームやベルジュはアレスに進言する
「陛下、今回だけは後方で待機していただきます。
最前線に出られるのはおやめください」
「そうです陛下、今回はお下がりください。
戦いは我々にお任せを!」
「坊ちゃん、前に出るだけが王の仕事じゃねぇぜ。
無茶しすぎだ」
「ふふっ、皆さんの言う通りですよ陛下」
皆、アレスを心配しているのだ。
「みんな……。わかった、今回は私は後方で指示を出す
全員、指示に従え。いいな?」
すると嬉しそうに顔を見合わせたノレッジたちが
座っていた椅子から立ち上がり、一斉に
「仰せのままに」
と答えた。
腕を組んで壁にもたれて聞いていたエテリアはどこか不思議そうだった。
アレスのことを、エテリアはもっと頑固な男だと思っていたからだ。
私の前で見せるアレスの顔と、皆の前で見せるアレスの顔は
少し違うものだったのだから。
………
……
…
次の日の朝、ミメルト王国寄りの草原にて……日の出と同時ごろだった。
ゆらり、ゆらりと太陽を背にして群れのように歩いてくる集団があった。
ガストラル帝国兵の団体。
その様子を双眼鏡で見ていた兵士が建てられた高台から叫ぶ。
「来たぞ、陛下に知らせろ!」
もう一人の兵士が馬に乗ってアレスのところに走る。
アレスの本陣に到着した兵士が、玉座に座っているアレスに
敵が来たことを伝えると、アレスは立ち上がり、すぐに
陣形を取るように命じた。
その横で狼の耳をピクリと動かしているエテリア。
「たしかに聞こえるな、かなり大勢の足音だ」
「エテリア、わかるのか?」
「まぁな」
つまらなそうにしているエテリア。
それはそうだ、エテリアが嫌いな戦争がこれから始まるのだから。
弓矢が雨のように降ってくる、盾を上や斜め前に向けて防ぎながら
ミメルト王国の騎士団が敵に突入する。
それと同時にガストラルの騎士たちも突撃し、混戦状態となる。
アレスは状況を察した後、兵士に伝える。
「敵が動き出したか、スカームの部隊とベルジュの部隊を……」
……と言いかけたその瞬間だった」
のそり、のそりと歩いてくる巨人。そう、巨人兵のお出ましだ。
こんなに遠くの位置からでもはっきり見える。
太陽を背にして、透明な体で、しかしくっきりと映る体のラインの巨人が
不気味にこちらへ近づいてくる。
東の空のまぶしさは、今回は敵側の味方だ。
むしろそれを狙っていたのだろう。
「もう来たのか、早いな……急いで二人の部隊を戦闘に!」
「はっ!」
二人の兵士が馬に乗り、伝令を伝えに走る。
その兵士たちが走り去ったころ。
「本当に私は前に出なくてよかったのだろうか……」
「賢明な判断だと思いますよ」
アレスとノレッジが会話する。
エテリアは相変わらず腕を組んで立っていた。
その時。
「おい、何か来るぞ!」
エテリアが叫んだその時だった。
「馬鹿め、ここまで気づかないとは!」
突然、ミメルト王国の騎士の鎧を着た二人の男が
アレスの正面から歩いてきて、鎧を脱ぎ捨てた。
………
……
…
ベルジュの部隊が伝令を受け、敵部隊の迎撃にむかおうとするが
そこへ現れたのは、あの暗殺部隊とその総長だった。
「またお逢いしましたねぇ、お嬢さん」
「あら、先日はどうも」
………
……
…
スカームの部隊も、ベルジュと同時刻に伝令を受け取った。
森林に隠れていたスカーム達が動き出そうとしたその時、
2mほどの岩石が飛んできた。
その岩石をスカームは盾で受け流す。
「俺様の名はザグナ・ガンストック。
お前がミメルトの脳みそ筋肉野郎だな!」
「脳みそ筋肉?よくわかんねぇけど、帝国のやつだな
ずいぶんと頭が悪そうだが……」
「んだとコラァ!」
………
……
…
最前線ではミメルトの騎士たちが激しく戦っている。
剣と剣がぶつかり、肉が切れる、骨が折れる音が
響きあう戦場。
そこに巨人兵まで加わり、数では勝っているミメルトのほうが劣勢に見える。
そして本陣では、伏兵として登場した
ガストラル帝国の側近、トーレイと鉄の仮面とフードをかぶった人物が襲い掛かってきた。
アレスが驚愕する。
「まさか、本陣まで……!騎士や兵たちは……!?」
何人殺されたのかわからない。
それに対して余裕そうに笑うトーレイ。
「騎士や兵たち?片づけておきましたよ、ひっひっひ!
後方から指示して、最前線に兵士たちを送り込むなんて
なんてひどい国王なんでしょうねぇ?」
不気味に笑うトーレイ。
近くにいた騎士二人がトーレイに斬りかかる。
が、鉄の仮面の人物に一撃で殺された。
獣の爪のような手で。
「なっ!?」
「……!」
アレスとエテリアが同時に驚く。
獣人……だろうか。
たしかに腕は獣のそれと人間の手の混ざりあったようなものだった。
「かっこいいだろおお!」
「……」
トーレイが鉄の仮面の人物を自慢げに紹介する。
おそらく、体格的に男だろう。
「私の最高傑作さぁ……」
「獣人か……」
エテリアが前に出ると、アレスが心配そうに見つめる
「エテリア!」
「下がっていろ、こいつはお前がかなう相手じゃなさそうだ
それより、そっちの毛のないほうを頼む」
エテリアの発言に切れるトーレイは
「なんだと!人が気にしていることを!
全員殺せ!」
「……」
鉄の仮面の男がアレスを狙って爪で斬りかかってくるが
その攻撃の手首を片腕で受け止めるエテリア。
「お前の相手は私だ!」
エテリアが鉄の仮面の男に蹴りを入れようとするも、
くるりと横に回転して避けられてしまう。
エテリアが懐に飛び込もうとすると、鉄の仮面の男のひじ打ちが待っていた。
ひじ打ちを受けて、地面に倒れ込むエテリア。
「ぐっ!」
トーレイは笑いながら。
「いいぞ、殺せ!」
と言っている。そして右手に持っている水晶玉がきらきらと光っていた。
アレスは剣を抜き、トーレイに斬りかかる。
しかし、トーレイに剣が届く前にはじかれてしまう。
「見えない、壁!?」
そこで、アレスは思い出す。ブラムスの言っていたことを。
_おそらく、旧タリアス共和国時代の錬金術_
「そうか、お前が帝国の錬金術師トーレイ・ルイドか!」
「おー、よく調べましたねぇ」
トーレイが、持っている水晶玉を構え、その手を前に出す。
「じゃあこの壁をそちらへ押し付けたらどうなると思いますかぁ?
壁に勢いよくぶつかられてつぶれますよね……?」
これじゃあまるで魔法だ。そんなものこの世に存在しない。
そう思っていたアレスは、トーレイをにらんでいた。
ノレッジは、杖を前に出すと。
「錬金術が使えるのは自分だけだと思ってるんですか?」
「何……?」
「ブラムスから借りてきました、貴方と同じ防壁です。
飛ばせはしませんが、陛下には触れさせませんよ」
目には見えないが、結界のような透明な壁が現れているようだ。
「まさか同じものを使ってくるとは……やりますねぇ」
「ですが、貴方たちが全滅するのも時間の問題。
巨人兵に獣人。果たしてあなた方に突破できますかねぇ?」
「くっ……」
その時だった。
巨人兵がミメルトの兵士や騎士たちを踏みつぶしながら歩いているとき
大きな岩を踏んだ。
すると、底が抜けて片足が地面に埋まる。
今だ、といわんばかりに兵士たちが巨人兵に群がり剣や弓で攻撃し続ける。
いくつかの大砲が用意され、砲弾が巨人兵に全てあたりゆっくりと液状化していく。
「な、なに!?」
振り向いたトーレイに見えたのは巨人兵が兵士たちに倒されるところであった。
「くそ、こうなったらこいつらの命だけでも!
おい、こいつらを殺せ」
「……」
鉄の仮面の男は無言のまま立っていた。
「おい、言うことがきけないのか!」
「……エテ、リア……」
「……!?」
名前を呼んだのはアレスでもノレッジでもない。
その鉄の仮面の獣人が、エテリアの名前をかすかに呼んだのだ。
「……う、そ……その声は!」
驚いているエテリア。
「……うが、ががが」
「ちっ、機能不全を起こしたか……お前らの命、預けておいてやる」
体が痙攣し始めた鉄の仮面の男。
トーレイが捨て台詞を言うと、鉄の仮面の男を連れて地面に見えない壁を発生させ
地面を滑って去っていった。
最前線では、騎士団長と兵士たちが会話していた。
「敵が、撤退していきます」
「我々の勝利だ!」
ザグナと交戦していたスカーム。
兵士たちは疲れ果て、敵の兵士たちは動きがにぶっている。
そこへ、カラスが飛んできた。
「なに、撤退命令だと?ふざけんじゃねぇぞコラ……。
ちっ、てめぇの相手はまた今度にしといてやるよ!」
ザグナが独り言のようにカラスをにらみながら言うと
その場を去っていった。
敵の兵士たちも続くが、途中で倒れて死んでいく。
ザグナに手を伸ばすが、そのまま息を引き取った。
スカームは傷だらけで、味方の兵士たちも傷だらけだ。
「これ、勝ったっていえるのか……?」
カラスが飛んできたのはザグナのところだけではない
ジラボックのところにもカラスが飛んできた。
「ひひっ、お楽しみはこれからですよお嬢さん」
「ふふっ、楽しいですわね」
暗殺部隊を全滅させたと同時に、兵士たちも半数が壊滅した
ベルジュの部隊。ベルジュ本人も傷だらけで。
ジラボックは余裕の笑みを浮かべていた。
しかし、カラスがきたことによって、撤退することとなる。
「……残念ですが、あなたとの戦いは次回に持ち越しのようですね
またお逢いしましょう、お嬢さん。いえ、ベルジュ・フランドール」
「……知っていたのですね、何もかも」
「ええ、ボクの方で調べさせてもらいました。
死体の件ですが、適当に食べておいてください。カラスさん」
そういって、ジラボックは去っていった。
敵は撤退、巨人兵の撃破、謎の鉄の仮面の獣人。
迎撃は成功したと、本当にいえるのだろうか?
アレスは全軍に通達した。
「我々の勝利だ、全軍撤退!」
疑問が二つ残っていた。
一つ目をノレッジに聞く。
「しかし、ブラムスからそんなすごいものを受け取っていたなんて
知らなかったよノレッジ」
「いいえ、あれはハッタリですよ」
「え?」
「まさかあんなに単純に騙されてくれるとは思いませんでしたので」
「そうか……、ふっ、さすがだな」
そして二つ目の疑問。
「エテリア」
「……うるさい、今は話す気分じゃない」
ずっと太陽の昇った方角を遠くを見つめているエテリアだった。
起承転結の承2と3の間ぐらいですね。
ミメルトが襲撃されそうになるお話です。
あの獣人、一体何者なんだ……!
ご想像にお任せします。
かっこいいだろおお!