第10話
天気は悪く、雨がやまない。
あの戦いの後、ケガ人の手当てや死傷者の埋葬など
いろいろなことがあった。
アレスは後悔している、自分が前に出れば死傷者やケガ人を減らすことができたのではないか
助かる命もあったのではないか、と。
降り注ぐ雨の中、墓場の前に立っているアレス。
そこに、騎士団長と兵士たちが数人後ろに立っていた。
「陛下、我々は陛下と共に戦場で戦えることを誇りに思っております。
死んでいった仲間たちも皆、同じ気持ちです」
「そうだろうか……」
アレスは泣きながら遺体を棺に納めて埋葬する老婆や女性や子供を見ながら
深く悲しんでいた。
自室に戻ってきたアレスは、窓の外の雨を眺めながらつぶやいた。
「あの日も、こんな日だったな……」
雷が鳴り響く、大荒れの空。
アレスはあの日のことを思い出していた。
………
……
…
10年前、ミメルト王国。
エギル・ミメルト国王が統治する世界、それは力と権力がすべてを制する世界だった。
貧しいものはそのまま、貴族は優遇される世界。
それがこのころのミメルト王国だ。
「このままじゃ、国はおかしくなる一方です父上!」
「私のやり方に不服があるか?」
バシッと平手打ちを受けて倒れ込む9歳のアレス。
叩いたのはエギル・ミメルトである。
「私たちに意見したいのであれば、あなたが国王になったときにすればいいじゃない」
エギルの側に寄り添うのは、貴族の出身の王妃、モニク・ミメルトである。
「誰か、誰か来てくれる!」
騎士が数名かけつける。
やってきた騎士たちにエギルが指示を出す。
「この愚か者を牢に入れておけ」
「で、ですが陛下……」
「貴様、王に逆らうか?」
「い、いえ……」
命令された通り、騎士二人は9歳のアレスの両腕を担いで
そのまま独房に入れた。
「王子、すみません」
「いや、いいさ……」
申し訳なさそうに、謝罪しながら独房にカギをかける。
今回もまた、独房に入っているアレス。
時間になると看守が食事を運んでくる。
そこへ。
「どうした、元気ないな坊ちゃん」
「スカーム!」
食事の時間にパンとミルクを運んできたのは
騎士のスカームだった。
まだこのころは現在より地位が低かったが、それなりの立場だったスカーム。
二人でよく牢屋の前で話し込んだ。
「このままだと、ミメルト王国はガストラル王国と同じになってしまう。
誰かが変えないと……」
「……そうか」
スカームは考える。こんな幼い子供が
自分にされた仕打ちよりも、国全体のことを考えているなんて、と。
いつも、アレスが独房に入れられたときに話すことは国のことだった。
そして、その5年後。ミメルトの街が襲撃された。
エギルの出した指示は、庶民はどうでもいいから自分とお気に入りの貴族を守れ
という指示だった。
14歳になったアレスは考え事をしていた。
不満だったのだ。
ミメルト王国の王座では、エギルがひじをついてその周りに騎士たちが待機している。
「ロゲンめ、くだらんことを……」
悪態をついているエギルだったが、そこへ帝国兵が数人と暗殺者が数人扉を破って
入ってくる。
周囲の騎士たちが応戦するも、お互いに殺し合い
全滅する。
「まったく使えないやつらだ、護衛の代わりはまだか!」
そう叫ぶエギル。そばで見ているだけのモニク。
地面に転がっているガストラル兵の剣を、アレスが手に取ると
エギルの後ろに回り込み、その剣でエギルを突き刺した。
剣でエギルを突き刺したアレスの瞳は、無表情だった。
「な……貴様……」
口から血を吐き、倒れ込むロゲン。
突き刺した剣を引き抜く14歳のアレス。
モニクが悲鳴を上げると同時に今度はモニクの胸を剣で突き刺した。
「この……親不孝者め……」
バタリと、モニクも倒れ込んだ。
床が国王と王妃と、騎士たちと暗殺者たちの血で染まる。
それを側で黙ってみていたノレッジ、扉の向こうで隠れてみていた
スカーム。
アレスは拾った剣を、帝国兵に握らせるとこういった。
「国王と王妃は暗殺された、今日からは私が国王だ。
異論はないな?」
威風堂々とアレスは叫ぶ。
それに対してノレッジは。
「はい、アレス・ミメルト陛下」
こうして、アレスは14歳にして国王となった。
貴族の爵位を取り上げ、あくまで貴族という枠に納め
騎士たちに軍隊の階級を与えた。
少尉、少佐、大佐など。
貴族からの反発はかなり強かったが
「ほう、貴様……王に逆らうか?」
という一言で黙らせていた。
………
……
…
そんなことを考えているときだった。
窓の雨と雷を見ているとき、アレスは気づいた。
あの夜と同じ空気であることに。
そして、たとえ雨でも郵便を配達しているはずの
庶民がいないことに。
「様子がおかしい。ノレッジ!」
「どうされましたか、陛下」
上級騎士の衣に着替えると、アレスは帯剣し
裏口から外へ出ようとする。
「エテリアを城から出すな、いいな?」
ノレッジはアレスから異様な空気を感じていたが
その場は命令に従った。
アレスが城の裏口から城下町へおりていく。
ノレッジはスカームとベルジュを呼び出し
後をつけるように指示をだした。
外は雨が降り、雷がなっている。
アレスはその中で立っていた。
すると、目の前の家の屋根から弓矢が飛んでくる。
帯剣していた剣でその矢をはじくと、
周囲をカギ爪をつけた暗殺者と弓を持った帝国兵が
待ち伏せていた。数は5人。
いや、暗殺部隊の総長も含めれば6人だ。
「一人でのこのこと出てくるなんて、バカを通り越して驚きだよ」
「……誰も、もう誰も犠牲にしない!」
誰もいない商店街を抜け、城門を目指してアレスが駆け抜ける。
それを追撃するジラボックたち。
飛んでくる弓矢を避けながら、暗殺者のカギ爪を剣で弾きながら
駆け抜ける。
ジラボックはそれを見てあざ笑う。
「どこに逃げるんだい?」
「お前らの相手は、俺一人で十分だ!」
城門の前で剣を構えて、戦うアレス。
一方、そのころ王宮では殺気を感じたエテリアが
ノレッジを押しのけて、裏口から外へ出た。
スカームとベルジュがアレスを追いかけた後の出来事だ。
そのもう一方、城下町の見張り台では。
「おい、交代の時間だぞ」
「……」
見張りの交代の時間で起きてきたミメルトの兵士が今現在、見張りをしていた
兵士の肩に手をのせると、首がごろりと落ちた。
「うわぁ……て、敵襲!」
そして、場面はアレスのところに戻る。
何とか敵をしりぞけたいところだが、どうやら精鋭のようだ。
かなり苦戦する。
「くっ……」
「さて、そろそろかなぁ」
「何がだ!」
ミメルトの城下町の外から砲弾が二発ずつ、次から次へと飛んでくる。
城下町の外に、帝国兵が待機していたのだ。
砲弾があの酒場や商店街の家に直撃する。
「やめろ、やめろぉ!」
アレスの怒りと悲しみの叫びが夜の街に爆音とともに響いた。
砲撃の中、エテリアがアレスを追って駆け抜ける。
どこからか金属がぶつかり合う音が聞こえる、おそらくその方角だろう。
しかし、この砲撃は……。
そう思って逃げ惑う庶民たちをかきわけて走っているときだった。
あの酒場の前を通りかかったエテリアは、足を止める。
酒場が砲弾で破壊され、店主が、倒れていた。
「あ、あぁ……アンタ、あの時の子か」
「お前は、大丈……ぶ……!?」
店主は下半身がなかった。
「はは、俺はもう……助からないだろう」
「そんな」
エテリアが絶望する。
最期の願いを、エテリアに託そうとする店主。
「なぁ、アレス陛下を……頼むよ……。
あの人は俺たちにとって……大切な子供みたいな……もんだからさ」
「おい、それ以上しゃべるな……」
「アレス……陛下のこと……たの、む……よ」
店主は上半身だけのまま、その場に倒れ込んだ。
「おい……おい!」
もう店主は動かない。
エテリアは思い出していた、シチューを作ってくれて
緑色の飴をくれて、笑いあって。
この酒場で宴会もして……。
「あ、あああ……あああああああ!!」
エテリアの目から涙があふれ、怒りが制御できなくなった。
狼の雄たけびが響きわたり、エテリアの体から赤いオーラが立ち上る。
あの金属の音が響きわたる場所へととんでもないスピードで向かう。
途中、スカームとベルジュの二人とすれ違ったが、エテリアにはどうでもよかった。
ジラボックが余裕の表情を浮かべ、アレスは傷だらけで剣をかまえていた。
「待て、トドメはボクが刺そう」
そういってナイフを取り出したジラボックは、アレスにゆっくりと近づいていった
しかし、そこへ強い殺気を感じた。
「ん、なんだ!?」
ジラボックは振り向くと同時に家の屋根へと跳躍した。
アメジストのような紫色ではない、真っ赤な瞳の獣人が、精鋭の暗殺者と帝国兵を
蹴散らす。
瞬時に3人の暗殺者の心臓がえぐり取られる。
「ウオオオオオオオオ!」
「え、エテリア……!」
「ちっ、邪魔が入ったか」
ジラボックはそのまま帝国兵を見捨てて城門の上まで飛び去り、逃げ出す。
残った二人の帝国兵は弓でエテリアを狙うが
速すぎて弓矢を当てることができずに、心臓を貫かれ絶命する。
それが終わったら、今度は外にいる砲弾を撃っている帝国兵だ。
地面から城門へ、城門から地面へ着地したエテリアは
砲弾を撃っていた帝国兵をその爪で皆殺しにした。
雨と雷、血と炎が広がるミメルト王国周辺。
全てを殺害したエテリアは、城の外で肩を上下させながら呼吸していた。
彼女の怒りが消えることは、しばらくの間なかった。
城門の前で、アレスのところに到着したスカームとベルジュは無言になる。
アレスは、
「エテリア……」
と一言つぶやいた。
起承転結の承の4の最初です。
物語も後半に入ってきました。
この後、どうなるのでしょう?
続きは次回。
ジラボック、逃げ足がはやい……。




