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プリンス&ビースト  作者: 森のうさぎ
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第8話


10年前のミメルト王国。


この頃の国王はアレスではなく、エギル・ミメルト国王が統治していた。


熱い、夏の日の朝のことである。

その日はとても天気が良く、日差しがまぶしかった。


ミメルト王国の商店街を歩く、16歳の少女。

名前をベルジュ・フランドールという。


ベルジュは母親に頼まれて買い出しに出かけている帰りだった。


「おーい、ベルジュ!」


声をかけてきた少年はルシオ・ショーテム。

ベルジュの幼馴染で16歳の赤毛の少年である。


「なに?どうしたのルシオ?」

「買い出しの帰りか?まぁいいや、ちょっと来なよ!」


ベルジュの買い物かごの中の果物がゆさゆさと揺れながら

手を引っ張られ、ルシオに連れていかれる。

ルシオが案内した場所は、路地裏だった。


「へへー、聞いて驚け、見て驚けよ!」

「なぁに?」


すると、ルシオは銀色のナイフを小さな鞘から抜いた。


「じゃーん!」

「ルシオ!?そんな高価そうなものどこから!?」

「俺さ、お前には黙ってたけど、ずっと親父の仕事手伝って働いてたんだ

 ようやく手に入った給料で手に入れたのがこれさ!」


赤毛の少年ルシオは得意げに笑った後、話を続けた。


「ほら、今は銀の価値があがってるだろ?

 貴族たちが買い占めてるから、需要があっても供給がないってさ

 ……これから、もっと銀の価値はあがると思うんだ」


そういって銀のナイフを鞘に納めたルシオは、そのナイフを

ベルジュに手渡した。


「え……?」

「ガキの頃、約束したよな?大人になったら一緒に暮らそうって。

 その時にそのナイフ売るから大事に預かっておいてくれよ」


左腕には果物が入ったバスケットを担ぎ、右手にはルシオに手渡されたナイフを握りしめたベルジュは

顔が赤くなった。


「それってさ、け、結婚ってことだよね?」

「……そうさ」


本当に私でいいのだろうかと、ベルジュはつぶやくと

ルシオはお前しかいないと答えた。



だが、その夜は激しい雨と風が強かった。

木の葉が舞い、かみなりと激しい雨が降り注いだ。


そんな中、街の中に降り注ぐ大砲の砲弾。

その日、ミメルトが襲撃されたのだ。


ベルジュの家は焼け、両親は建物に押しつぶされ、

彼女だけが生き残った。


隣の家に住んでいた赤毛の少年ルシオはベルジュの手を握りしめ

王宮に避難しようと雨の中を二人で手をつないで走る。


「ルシオ!どこに行くの!?」

「もう避難するところなんて王宮ぐらいしかないだろ!

 ともかく逃げるんだ!」


焼かれるミメルトの街、逃げ惑う庶民と

避難し終わった貴族たち。

騎士たちは攻め込んでくるガストラル帝国の兵士たちと戦っていたが

討ちもらした暗殺者たちが街へ入り込む。


そのうちの一人がベルジュにむかってナイフを投げる。


「ひっひ、死ね!」


殺人を楽しむ暗殺者、その男は名をジラボック・グーファンという。


「ベルジュ、危ない!」

「ルシオ!!」


飛んできたナイフに対してベルジュをかばったルシオは深くナイフが胸に突き刺さった。

そこへ騎士たちがやってきて、ベルジュたちをかばう。


「ちっ、邪魔が入ったか」


その青い髪の暗殺者は舌打ちをすると、その場から立ち去った。

騎士たちがその暗殺者を追いかける。


「ルシオ!しっかりして、ルシオ!」

「あ……ベル……ジュ……無事なんだ……な」

「血が、止まらない……!イヤ!イヤよこんなの!!」


口から血を吐いて、胸からも血を流しながら

ルシオが最期の言葉をつぶやく。


「ベルジュ……お前だけでも……生きて……幸せ……に……」

「イヤ!あなたと一緒じゃないと、イヤ!イヤよ!!」


ルシオの目から光が失われ、ベルジュの頬をなでた手がぐったりと地面に落ちた。


「ルシオ!ルシオ!!」


何度呼びかけてもルシオは目を覚まさない、もうそれは息をしていなかった。


「……ふ、ふふ……」


涙を流しながらベルジュが笑う。


「あは、あははははははっ!!」


その腕に抜け殻の恋人を抱きしめながら。

そして、ベルジュは感情を失った。

心が壊れてしまったのだ。



その後、ベルジュは狂ったように剣を振り

修行を重ねた。

イノシシと戦うこともあった、トラと戦うこともあった。

全ては鍛えるため、全力をかけて死ぬため。


復讐するということ以外が頭になかった彼女は何年もかけ

自己流でおのれを鍛え上げた。

復讐の先に死が、ルシオがいると信じていた。


数年後、ミメルトの王が暗殺され王が交代したらしいが

ベルジュにはそんなことはどうでもよかった。

ただ、相手を殺し、強くなることだけを考えていた。


ベルジュは闘技場の大会に参加した。

一回戦の相手は優勝候補の上級騎士だった。


「……」

「女相手に本気になることもないと思うが、まぁいい。

 相手をしてやるよ」

「はじめっ!」


ベルジュは木剣を握りしめ、立っていた。

相手の騎士は余裕そうにベルジュを見て一言。


「先手を取らせてやるからかかってこいよ」


その余裕があだとなった。


ベルジュは木剣を全力で騎士の頭に当てた。

とんでもない速度の斬撃。

頭から血を流しながら騎士は後ろに倒れそうになったが

その後ろに回り込んだベルジュは再び背中に木剣の一撃をいれ

無理やり立たせた。

そして今度は、後ろから騎士を足で踏みつける。


「ふふ、ふふふ……」


楽し気に笑うベルジュ、しかし目は笑っていない。

倒れた騎士に蹴りを入れ続けるベルジュ、このままでは騎士が死んでしまう。


「や、やめい……やめ……ひっ!」


審判の言葉を聞いたベルジュは騎士を何度も踏みつけながら不敵に笑い

審判の方を見た、まるで亡霊のような微笑みと死んだ目をしたベルジュ。

その光景をよく見ていた少年がいた。


「やめろ!」


一人の少年の叫びがベルジュの行動を止めた。

15歳ぐらいだろうか。その少年はアレス・ミメルト。

暗殺された前国王、エギル・ミメルトの王子で現在は国王陛下の座にいる人物だ。


闘技場の王座から見ていたその少年は、闘技場の会場に飛び降りた。


「私が相手になろう」

「ふふ、ふふふ……」


足元に転がる木剣を足でけり上げ、降ってきた木剣を右手で受け止めると

すぐさまベルジュは向かってきた。

その姿はまるで獲物を狙う獣のようだった。


ベルジュの一撃と少年、アレスの一撃がぶつかる。ベルジュからの二撃目を紙一重で避けると

アレスは反撃の一撃を入れようとするが、その攻撃も軽く回避されてしまう。

にらみ合う二人、お互いに隙を狙っていた、アレスは足元の闘技場の砂を足で蹴り

ベルジュに砂をかけた。ベルジュが目元を片手でかばうと

懐に飛び込んだアレスが脇腹に木剣を一撃入れた。


「ぐっ……」

「勝負あったな」


審判が叫ぶ。


「し、勝者 アレス国王陛下!」


その言葉に一瞬、驚きと喜びを隠せないベルジュだった。


「ふふ、あははははっ!ついに現れてくれましたわね。

 さぁ、貴方の勝ちです。わたくしを殺してください」

「……」


無言のアレス、そして木剣を地面に突き刺し、倒れている騎士にかけよると

審判に救急隊を呼ぶように指示を出すと、

その場から立ち去ろうとする。


「貴方の勝ちですよ?殺してください、殺せ、殺せよ!さぁ!」


怒りに満ちたベルジュは咆哮ほうこうする。

背を向けた少年、アレスが答える。


「それほどの覚悟があるなら、君にとっていい場所がある。

 私の直属の部下になれ」


意味がわからなかったベルジュは、混乱していた。


「そこへいけば、わたくしは全力を出して殺してもらえるんですか?」

「そうだ、君の力は必要だ。ベルジュ・フランドール」


そういって振り向いたアレスのまなざしは、とても強かった。

一瞬、その姿がルシオと似た優しく強いまなざしに見えたベルジュだった。


………

……


夜のミメルト王国、その王宮のベルジュの部屋でドンドンと、扉を叩く音が聞こえる。


「ベルジュ、いないのか!?……ってなんだよカギかかってないじゃねぇか」


入ってきたのはアレス直属の部下、スカーム・オルフェズだった。

ぼーっとしていたベルジュは我に返った。先ほど戦った暗殺部隊の総長のことを思い出して

ルシオのことを思い出してそれから、ルシオの銀のナイフの小箱を握りしめていたからだ。

真っ暗な部屋で、涙を流しているベルジュ。


「あ、取り込み中だったか?……すまん。

 だが、坊ちゃんがお呼びだ。作戦会議に出席してくれ」


「スカーム……。わかりました、すぐに行きます」


気まずそうにスカームが扉をあけたままその場を去ると

ベルジュは小箱から銀のナイフを取り出して小さな鞘に納め、太もものナイフホルダーに入れた。



ベルジュの過去の話ですね。

全力で死ぬために生きてるのがベルジュさんですから……。


ちなみにベルジュの名前の元ネタは

フランベルジュからです。


死よりも苦痛を与える剣らしいですけど

恋人に死なれて、死よりも苦痛なのは本人ですけど(苦笑)


ルシオはファルシオンからです。

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