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お稲荷様の異世界探訪  作者: 瀧乃助
序章「王都編・お稲荷様の街角探訪」
3/10

プロローグ

開いていただきありがとうございます。


 放課後、学校の帰り道。

 僕こと稲荷いなり狐白こはくは宝くじ売り場にやってきていた。


「いらっしゃい、狐白ちゃん。今回も一等と前後賞の3億狙いかい?」

「うん、そのためにバイトでお金を稼いだんだからね。そのお金で孤児院の家族皆を学校に行かせるんだ。まぁ、何回も当たってるおかげで潤沢なんだけど、その分孤児も次から次にやってくるからお金は直ぐ無くなっちゃうんだよね」

「ふふふ、大変だね。でも狐白ちゃんのおかげであの孤児院も安泰だ。だけど、当てすぎちゃうのも当たりすぎちゃうのも問題だからほどほどにね?」

「うん!」


 僕はとにかく運がいい様で、生まれてからこのかた唯一つの事を抜いて全ての事がいい方向へと進んでいる。

 先程上げた宝くじもそうだろう。

 現在は3~4年に一回ほどしか買う事は無いが、前は事あるごとに買っていた。

 そしてそのすべてが高額当選するのだ。

 これによってよからぬ輩が何度か家の孤児院を襲撃して来たがそれらもやはり運良く(・・・)撃退できた。

 まぁ、この事が起きてからは現在の様に数年に一度孤児院の経営が厳しくなったら、と言うルールをみんなで作ったんだけどね。


「ただいまー」

「お帰り」

「「「「「おかえりー、狐白兄ちゃん!!」」」」」


 現在この孤児院には僕を含めて300人以上の孤児と15人のシスターさんや神父さんがいる。

 孤児のうち、200人ほどが小学生以下で50人ほどが中学生、30人ほどが高校生で15人ほどが大学生、残り5人ほどが就職浪人生だ。

 因みに僕は30人の高校生の内の一人だ。


「院長、宝くじ買ってきましたよー」

「おーう、それはありがたい。そろそろピンチだったんだ」

「そうだと思いました。今回も当たっているといいですね」

「お前さんが買って来たやつだ、当たっているだろうさ。しかーし、神様にお願いも忘れないぞ!」


 院長が宝くじを受け取って神様へと拝みに行った。

 ―――いつも思うんだけど神様にお金を当ててってお願いするのはどうなんだろうね?

 僕はそんな院長を横目に自分にあてがわれた自室へと行く。

 僕の部屋は5階建て孤児院の5階の一番奥の部屋だ。

 何故こんなに孤児院が大きいのかと言うと、僕の当てた宝くじでホテルだった所を買い取り内装だけをリフォームしたからだ。

 部屋が多いので中学生以上は個室で、小学生以下は数人で1部屋としている。


「こーくん、宝くじ買ったんだって?」


 僕の幼馴染且つ昔から孤児院で一緒にいる女の子、海加瀬みかせ奈葉なはが声をかけて来た。

 奈葉は大人し目の子で、顔を隠す様に黒い髪の毛を伸ばしているが、顔はとっても可愛らしい子だ。

 何時も「髪の毛で顔を隠すのはやめれば?」と言っているのだけれど、「こーくん以外は恥ずかしい」と言って何時も僕と二人きりの時以外は隠している。

 可愛いのになぁ……。


「うん、院長も言ってたけどそろそろお金が要るかなって思ってね。まぁ、当たるかは分からないけどね」

「当たらなかった事……無いよ?」

「今まではそうだけど今回もそうとは限らないよ」

「そうだね」


 僕の部屋で二人してくつろいでいると館内放送で『暇な人は晩御飯作るの手伝って~』と聞こえて来た。

 僕らは暇だったので食堂のある1階へと降り、晩御飯作りに加勢する。

 流石に300人以上の量を作るのは大変だし重労働だ。

 量は食べざかりも多くいるのでかなり必要になる。

 こんなに作れば、僕の当てた宝くじのお金などあっという間だ。

 節約できるところはしているが、やはりそれでも出る物は出る。

 就職して一人立ちすれば孤児院から出て行く訳だけど、僕が独り立ちしたらやばいかもね。

 定期的に宝くじを買ってお金を寄付しよう。

 まぁ、まだ先の話だけどね。


「あ、狐白ちゃん、宝くじ買ってくれたんだって? ありがとうね」


 食堂へと着くと院長の奥さんで孤児みんなのママである久美くみさんがやって来た。


「狐白ちゃんからの臨時収入は大助かりだわ。子供にこんなこと頼むのは哀しいのだけど……」

「背に腹は代えられない、ですか?」

「そうよ。狐白ちゃんには悪いのだけれどね」

「いいえ、僕も皆が幸せに暮らしていけるのなら嬉しいですし、笑顔のためなら出し惜しみはしませんよ」

「ふふふ、ありがとうね」


 久美さんと奈葉と僕で戦場である食堂のキッチンへと入っていった。

 ―――2時間近くに及ぶ長い闘いは終わり、今は料理を作っていたメンバーで晩御飯を食べていた。

 今日のご飯はてんぷらだ。

 この孤児院には大きな庭もあるのでそこで院長や久美さんたちがやっている家庭菜園で採れた野菜と少し買い足した野菜、魚介類や肉類を使ったてんぷらだ。

 小さい子たちは野菜に苦手なものがあるだろうけど案外てんぷらだったらいけたりするもので、僕は昔てんぷらで野菜の苦手克服をした。

 ナスが苦手だったけど今は大好物だ。

 因みに油は健康を考えて体に優しい物を使っているからたくさん食べてもだいじょーぶさ。

 運動音痴の僕でも太らない……といいなぁ。


「さて、食器を片付けたらお風呂にしましょうか」

「そうですね。僕はお風呂が沸くまで宿題でもしておこうかと思います」

「じゃあ、私も」


 300人以上の食器を片付け、僕と奈葉は自室へと戻った。

 2~3時間ほど勉強をしていると院長が僕の部屋へと乱入して来た。


「お、やってるねぇ、若人よ」

「何ですか院長。邪魔をするなら出てって下さいよ」

「おうおう冷たいねぇ。じゃあさっさと出てくさ。っとその前に、若人よ風呂に入れよ。もう後はお前ぐらいだぞ、風呂からあがったら後よろしくな」

「……わかりました」


 手を振って出て行った院長を尻目に勉強は予習復習まで済んでいたので直ぐにやめて片付け、お風呂の準備をする……と言っても着替えくらいだけどね。

 お風呂へ向かう途中奈葉と出くわした。

 お風呂上がりなのか髪はしっとりとしつややかで、頬はほんのり赤く染まりどことなく色気を感じる。

 うむ、カワイイ。


「こーくんはこれからお風呂?」

「うん」

「男風呂の方はたぶん今誰も入ってないから、のびのびだよ」

「そっか、久しぶりにゆっくり入れそうだね」

「―――私は、久美さんたちにもみくちゃにされた……」

「あぁ……ご愁傷様」

「ぐすん」


 久美さんたちシスターは奈葉の事が大好きだ。

 僕は何故だか知らないが、とにかく奈葉を構おうとしている。

 ときどき、いや、ほとんど僕と奈葉が話しているときにも視線などを感じる事がある。

 何なんだろうか?

 立ち話をやめ、奈葉と別れると再びお風呂へと向かう。

 女湯の方はまだにぎやかな声が聞こえる。

 しかし男湯の方はシンと静まり返っていた。

 奈葉の言うとおり貸切の様だ。

 来ていた服を棚に入れ裸になり、お風呂の扉をあける。


「いいね、貸切。チビたちの世話なしって……イイ!」


 シャワーと鏡の付いた体を洗う所へ椅子と洗面器を持って行く。

 その鏡に映る自分の姿を見て思う。

 ―――ホント、『ちゃん』付けで呼ばれても違和感無い身体つきだよなぁ。

 鏡に映る僕の体はとても女の子らしい身体つきだ。

 いや、僕は確かに男の子だ。

 筋肉も少しはあるし、何と言ったって男の勲章も付いている。

 しかし、僕は運動音痴なので筋肉量は奈葉などの女子と同じぐらいだし、少し赤みがかった茶色い髪の毛は肩甲骨辺りまであるので女の子に見えなくもない。

 髪の毛が長い理由は久美さんたちシスターズの好みで切らせてもらえないのだ。

 最初は学校でも軽いいじめもあったけど、仲のいい友達や女子たちが僕をかばってくれたおかげでいじめは無くなり、僕の見た目も認知された。

 ただ、女の子っぽい見ためだからと何度か男子から告白されたのには精神的にダメージをくらった。

 中にはそれでもいいから付き合って欲しいと言われた事もあった。

 まぁ、逃げたよ。

 自分でも驚くほどの一発をボディに入れてからね。


「……さっさと体でも洗おう」


 体を洗いお湯につかる。

 あ゛~いい。

 やっぱりお風呂は人類最高のご褒美だよ。

 隣からシスターや久美さんの酔っ払った様な声が聞こえ、嬌声も上がるけど気にしないよ、絶対にしないよ。

 ってかお風呂で何やってんだ!

 でも気にしないよ。

 気にしてるじゃんって言う突っ込みは受け付けないよ。

 ―――……僕は30分ほどお湯につかり、お風呂から上がった。

 少しのぼせたよ。

 溜まってんのかな、シスターたちも……気にしてないよっ。

 脱衣所をきれいにしてお風呂を後にする。

 部屋に戻り着替えを洗濯機に放り込み布団へと入る。

 因みに洗濯機は中学生以上の部屋には全部付いている。

 ……女の子の意見は最優先なのさ。

 それとは別に、偶に新品の女性用下着が僕の箪笥の中に入っているのは何故だろうと思うが、これはまぁ気にしない様にしている。

 スカートやニーハイの靴下なども入っている事もあるがこれも気にしていない。

 気にしたら負けの気がするのだ。


「……寝よ」

 今日も変わらぬいい1日だった。



 ――――――――――§――――――――――



「くひひひひっ、あいつが、あいつが俺の宝くじの当たりを掠め取ってくからいけないんだ!」


 深夜、パチパチと何かが爆ぜる音がする。

 男の目の前には5階建てのホテルの様な建物。

 その建物の陰で人目に着かないような場所に男はいた。


「ははは、ははははは、燃えろ燃えろ! あはははは!」


 先程の爆ぜる音は火の粉の舞う音だった。

 火の手はだんだんと強くなっていく。

 十数分もすると炎は勢いよく燃えあがっていた。

 深夜だったのでなかなか気付かれる事無く燃えていた炎に漸く気が付いた通行人たちは直ぐに消防へと電話をした。

 しかしその時には既に1階の入り口付近は燃え盛る炎で塞がれていた。


「はーはっはっは! いい景色だぜ!」


 火をつけた男は逃げる事無くその場で高笑いをしていたところを駆けつけた消防と警察によって取り押さえられた。

 その男は過去、狐白が手当たりしだい宝くじを買い当てまくっていたときに奥さんが病気になり、なけなしのお金で宝くじを買い当たったら、それで医療費を出そうと考えていた。

 コツコツと貯めていてもそれでも足りない医療費。

 周りにも貸してくれる人などいなかった。

 神頼みしてまで買った宝くじのことごとくは狐白が高額当選をかっさらっていった。

 男の妻はその時亡くなってしまった。

 末期がんだったようだ。

 男は妻の死を狐白の所為にし、居場所を突き止め、この様な凶行に及んだのだった。



 ――――――――――§――――――――――



 何か焦げくさい。

 それに外もうるさい様だ。

 僕は布団から這い出し、部屋を出て匂いの元へと向かう。

 匂いをたどり1階まで下りるとそこは火の海だった。


「くっそ! なんでだよ!」


 ―――ガシャンッ! ジリリリリリリリリッ!

 非常ベルを強く押し、全員へと火事を知らせる。

 勢いよく院長や久美さん、シスターたちや年長者が目を覚まし部屋から出てくる。


「どうした!」

「1階で火事です! 火の海で1階からは出られません。どうにかして避難を!」

「くっそ、なんで火事なんかに……おい、皆チビどもを叩き起こして非常階段から逃げろ! 間に合わねえ奴は2階からでも飛び降りろ。死ぬよりはましだ!」


 全員が寝巻のまま一斉に非難通路へと小さい子を優先的に連れ出していく。

 何人かは2階の窓から外に飛び降り、少し骨折した子もいたが何とか無事に脱出していった。

 外では久美さんや数名のシスター、神父が確認を行っていた。

 そこに院長も加わる。


「全員無事かっ!?」

「ええ、たぶ―――」

「―――院長! こーくんと日向ちゃんがいないの!」

「なに!?」


 日向は耳が悪く大きな音じゃないと聞こえない子だ。

 恐らく非常ベルの音が聞こえず今も寝ているのかもしれない。


「俺が戻る!」

「駄目です、一般の方は此処でお待ち下さい。直ぐに鎮火させます!」

「それじゃ遅ぇーんだよっ! 既に火は4階まで回ってんだ! あの子の部屋は3階なんだぞ!?」


 そういって尚も建物の中に戻ろうとするその時「院長!」と言う声が4階の窓から聞こえた。

 そこには僕が日向を連れてきていたのだ。


「院長! これから日向をそちらに落とします(・・・・・)。しっかりと受け取ってください!」

「―――はぁ!?」


 院長が下で驚いているが一刻の猶予も無い。


「日向、これから院長の元に此処から降ろす。怖いかもしれないけど急がないと危ないから我慢して。大丈夫、院長先生や久美さんがしっかり受け止めてくれる。……いける?」


 心配そうな表情だった日向にそう紙に書いて何をしようとしているか教えた。

 日向は一度コクリと頷いて覚悟を決めた。


「行きます!」


 下では消防士たちが受け止めるためにクッションを用意していた。

 そこの中心に行くように日向を落とす。

 直ぐに日向は下に置いてあったクッションの上に無事着地したようだった。

 怪我は無いが、怖かったのだろう大声で泣いている声がこっちにも聞こえて来た。

 次は自分の番だ。


「おい、狐白! お前の番だ早くしろ!」

「わかってますよ!」


 僕も高所恐怖症ながら腹をくくって覚悟を決め、飛び降りる。

 後は自由落下だ。

 下のクッションにうまく落ちるだけでいい。

 ……が、しかしその瞬間は訪れなかった。

 何故なら2階ほどの高さまで落ちた瞬間、僕の足下に黒い穴の様なものが出て来たからだ。

 スポッと綺麗に僕は黒い穴の様なものに飲み込まれた。


「―――え?」

「「「「「はあっ???」」」」」


 僕はクッションの上に落ちる事は無く空中で消え、クッションの上に落ちたのは僕がちゃっかり持ちだした今回買った宝くじだけだった。




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