落ちたら異世界(1)
開いていただきありがとうございます。
「―――痛たたた」
……ここはどこだろう?
火事になった孤児院の4階から日向ちゃんを先に降ろし次に自分だと決死の思いで飛び降りたら、いきなり足元にできた落とし穴に落ちた。
延々と暗闇の中を落ちていると、漸く目の前に光が現れたと思ったらお尻から見事に着地した。
それが今の僕の状態だね。
「あー、まだお尻が痛い。まぁ、長い間自由落下している感じだったもんなぁ。それにしてもあのいきなり空中にできた落とし穴的な物は何だったんだろう?」
落ちた草原にポツンと一人座りながらぼやく。
因みに勢い良く落ちたからって僕のお尻の所にクレーターなんてないよ、ホントだよ?
少し窪んでるのは元々なんだからねっ。
「はぁ、まぁいいや。よいしょっと」
とりあえずその場に立ち上がり、お尻に付いた汚れを掃う……。
「―――あれ?」
自分のお尻に違和感を感じる。
なんかモフモフしたものが付いて……る?
そーっと自分のお尻の方に首を回してみると、白い綺麗な尻尾が目に着いた。
「わー綺麗なしっ……ぽ?」
うん、確かに尻尾だ。
それに尻尾の先端に行くに連れてだんだんと淡い青色になって綺麗である。
見た目は狐かな?
「―――って、えええええぇぇぇぇぇ!?」
ああ、ああああああの、ぼ、僕のお尻に尻尾、尻尾が生えてますたよっ!?
お、おおおお落ち着くんだ僕。
はい、深呼吸。
すーはー、すーはー……うん、落ち着かないね!
うあああ、と言いながら頭を抱える。
するとどうだろうか、そこにはしっかりと耳も生えていた。
しかも獣耳。
更には、そのときに気付いたのだけど髪の毛も変わっていた。
「わぁお、狐耳も生えてるし、髪の毛も長くなってる。しかも綺麗な白色……」
他にも変わっていないか身体中に触れてみたところ、服装は変わっていなかった。
では、どこが変わっていたかと言うと、胸と……股。
ち、小さいけど胸があるんだよ。
着た記憶も無いスポーツブラの様なものを着てるんだもん、焦ったね。
なんでかって? そりゃそうでしょ。胸はほぼぺったんこなんだ。この程度の御胸様なら男って言っても大丈夫だもん。女の子じゃあるまいし、こんな物はいらないよね!
ましてや男の子の証はついてるしね……ん、アレ?
小さいながら胸はあるけどこれは問題ない。
股間にはちゃんと男の証である物が付いている。
うん此処までならちゃんと僕、男の子です。
だけど、男の子の証の物の下に袋が無い事に気が付いてしまった訳ですよ。
まさか、と思いながら男の証よりも下の方に手を伸ばしてみた。
そこには柔らかい感触と、割れ目があった。
「―――あ、あはははは、女の子まである……これって、何て言うんだっけ? 両性具有? 狐っ娘で両性具有……うああぁぁ」
しかも、本来の自分の体よりも小さくなっている様で、地面が近い。
ロリ……と言う言葉が頭に浮かぶほどのあまりにもマニアックな自分の身体に軽く現実逃避をしたくなった。
はっ、いけないいけない。
そんなことより、まず自分の身体のことは置いておいて此処がどこなのか調べないと。
とは言うものの、僕の周りには全く何も無く草原が続くだけ。
自分の持ち物は……寝起きだったからこれも無いね。
「まぁ、私服で寝る癖があってよかったよ。パジャマじゃないだけましだしね」
とりあえず行動してみようと考え移動してみる。
こういう場合は動かないで助けを待った方がいいんだけど、此処が日本じゃない場合も考慮しないとね。
流石にあの落とし穴的な何かを通っておきながら場所は日本の中ですよってことは無いだろうし。
夜になる前に人が住んでいそうな場所を探して歩いていく。
「―――それにしても地面が近いなぁ。歩幅もなんか狂うし、小さいってのも不便だなぁ」
縮んだ体と今まで無かった尻尾と耳の感覚に悪戦苦闘しながら、とぼとぼと草原を歩く。
まだ周りには何もなく、日はだんだんと傾いてきている。
……これは完全に野宿かなぁ
未だに歩き続けているのに行けども行けども草原ばかり。
道間違えたのかな、それとも歩幅が短いからかな、と思いつつも既にかなり歩いていると思うので流石に戻るわけにはいかない。
「ここはどこなんだよぅ」
疲れたのでその場に座って膝を抱える。
行けども行けども周りは草原。
そして周りは真っ暗。
―――はあ、どうしてこんな目に……。
そのままの姿でボーっとしていると、どこからか車の排気音が聞こえ、そちらの方に目を向けた。
車―――ちょっと豪華なキャンピングカー―――と数台のバイクが並走していた。
「あ、車とバイクだ。よかった、少し異世界かと思っちゃったよ。よく本とかでも読むよね、異世界に来ちゃいました……とか言うやつ。僕が狐っ娘化してるからまさかとは思ったけど、車もバイクもあるから、異世界じゃないだろうし。……だよね? そうだといいなぁ」
一人が寂しいのでついつい独り言をつぶやいてしまう。
「でも……あれはどういう状況なのかな?」
先程から見える並走している車と数台のバイクは、車の周りにバイクがまとわりついて攻撃していた。
不可思議な状況に呆然としながら車とバイクの方を見ていたら、窓ガラスの割れる音がして車が停止する。
運転席から降りてきた初老のお爺さんと車を襲っていた男たちがバイクから降り、数人が運転手のお爺さんに襲い掛かり他の数人が車の後部座席の方に乗り込んでいく。
車の中から女性の悲鳴が聞こえてきた。
「……え、これって本とかで読んだ『盗賊に襲われている女性の乗った馬車』の現代版?」
などと言っているうちに女性の悲鳴が再び聞こえてきた。
「助けた方がいいんだろうけど、運痴な僕だと邪魔にしかならないしなぁ……まあ、行くだけ行こうっと」
膝を抱えて座るのをやめ、走って車の方へと向かう。
その時、自分の足の速さが速くなっていることに気付く。
……え、ちょ、速っ。
運動音痴の自分がこの速さに慣れているはずも無く、前のめりにコケそうな状態で走る。
「―――あいたっ!」
車のところに着くと同時に走ったままの勢いで男の一人に頭から突っ込む。
「うぐおっぅ……」
男の背中に僕の頭突きが決まり、エビ反りで吹っ飛ぶ。
この残念な人を男Aとしよう、と心の中で命名する。
男Aが吹っ飛び、車にぶつかって気絶した。
周りの他の男どもが何事かとこちらの方を見て来る。
しかし僕も頭を押さえ悶絶していた。
「なんだぁこの餓鬼は?」
悶絶しているところに首根っこを掴まれ持ち上げられる。
「ほぅ、中々いい餓鬼じゃねえか。こいつも連れてく―――」
「まだ痛いけど、我慢して―――えいさっ!」
「ぶぅえっ!?」
首根っこを持たれたまんま僕を持ち上げた男に顔面パンチをプレゼント。
手を離しうずくまったところを男の股間に蹴りをぶっこむ。
「―――あはん」
男Bは股間を押さえながら語尾にハートマークが付きそうなほどの気持ち悪い声を出し、その場に崩れ落ちる。
なんかクネクネしているが無視しよう。
他の男どもは痛そうに股間に手を当てているけれど。
そこで運転手のお爺さんが奮起し、周りの股間を押さえている男たちを殲滅していった。
「若いもんにはまだ負けませんぞっ!」
むんっ、とお爺さんはマッスルポーズを決める。
若いね。
それはさて置き、次は車に乗り込んでいった奴等なんだけど―――
「おい、貴様。こいつがどうなってもいいんだろうなあ!」
―――ですよねぇ。
車に乗り込んだ男どもが、車に乗っていた女性に刃物を突き付けこちらに見せつけてきた。
よくあるそのパターンが来ると思いましたよ。
下種めっ……おっと、いけないいけない。
つい汚物を見るような目で見てしまった。
心は清く、これモットー……よし、大丈夫。
さて、どうするかなぁ。
「お、お嬢様……」
「じ、爺……」
「はん、これで形勢ぎゃくて―――」
「殺っても大丈夫ですぞ!」
「わかりました!」
「「え?」」
僕と女性を羽交い絞めにしている盗賊の男の疑問の声が被る。
その瞬間、女性は何時の間にか手に持っていた杖らしきものを使い、魔法を使った。
男の足下から蔦が生えてきて男を捕え、ギリギリと縛り上げた。
「こんなものですね」
「お見事ですぞ、お嬢様」
お爺さんと女性はハイタッチを交わしている。
仲の良いお爺さんとお孫さんなのかな?
でも、お嬢様とか言ってたね。
「くそっ、覚えてろよ!」
盗賊たちがやられた数人の仲間を放置して乗って来たバイクに乗って逃げて行った。
「さて、危機も去りましたね」
「そうですな、それもこれも好機を作ってくれたこのお嬢さんのおかげですな」
そう言って僕の方を二人が見てくる。
「いえいえ、僕はただズッコケて相手にぶつかっただけですよ」
「そんな事はありませんぞ。そのお陰で私が戦える状態になったのですからな!」
「そうです。ありがとうございました。そうだ、お名前は?」
「え、えーと……」
「あ、私たちがまず名乗っていませんでしたね。私は森之宮鈴音と申します。こちらは執事長の山城仁です」
「今お嬢様に紹介していただいた、山城と申します。よろしくお願いしますぞ」
「あー、僕は稲荷狐白と言います。宜しくお願いします。……そ、それで、あのぅ」
「なんですか?」
とりあえず自分の状況がわからないのでこの人に聞いてみよう。
迷子……と言う事にしておけばいいかな?
「此処ってどこでしょう? 迷ってしまって……」
「あ、そうだったんですか。それで私たちが助かったのは何と運がいいんでしょう!」
「そうですな。っと、此処がどこか、でしたな。此処は草原ですぞ」
「……見れば分かりますよ?」
「はっはっは。それはそうですな。まぁ冗談はこの辺にして、此処は王都近くの草原ですぞ」
「もしかして王都へ行く途中だったのですか? それなら一緒に行きましょうよ」
「え、いいんですか?」
「私たちを助けて下さったお礼です。さぁさぁどうぞ」
返事をする前に車……キャンピングカーの後ろへと押し込まれた。
中は広く、且つかなり大きかった。
孤児院の僕の部屋より少し大きいのではないだろうか。
僕の部屋より大きいって……。
「あ、そういえば、僕の姿を見て誰も疑問を持ちませんね?」
「ふふふ、獣人族はこの国では当たり前に居ますよ? 他の国には獣人が差別されたり、入国できないところもありますけどね」
え、今狐っ娘……というより獣人は当たり前だって言わなかった? ということはここはやっぱり異世界!? でも、車やバイクはあるし……どういうこと?
「さて、車がボロボロになってしまいましたな。どうしましょうか、お嬢様」
「そうですね……運転席の窓ガラスは割れていても車自体には問題はなさそうですし、このまま乗って行きましょう」
「了解ですぞ。では、運転席を綺麗にいたしますので少々時間をいただきますぞ」
「わかりました」
僕が混乱している間に運転席から顔をのぞかせた山城さんと鈴音さんは車の現状を確認していた。
「それにしても豪華ですね。こんなに広いですし」
「そうですか? これでも貴族では小さい方なんですよ? なんせうちは貧乏なので……っと貴女には関係の無い事でした。それにしても、こんなに可愛い命の恩人と知り合えて私はとても幸せです」
「は、はぁ、それはどうも」
「ふふっ……爺、車の方はどうですか?」
車のエンジンがかかった時の低い音が聞こえる。
「いつでも行けますぞ!」
「そうですか。では行きましょう」
「あ、あの。この人たちは……」
「置いて行きます」
「そ、そうですか」
悲惨な姿で放置される数人の置いて行かれた男たち。
でも、同情の余地は……ないと判断した。
しかし、バイク―――所謂、原付と呼ばれるもの―――は置いておくのは勿体ない。
もらって行けないかな。
よし、聞いてみよう。
「このバイクはどうします?」
「私はいりませんが……そうですね。あの一番新しそうなものを貴女がもらってもいいのではないですか?」
「ふぉふぉふぉ。そうですな。盗賊退治の報酬として貰って行っても問題はないでしょう。車に乗せますかな?」
「はい、お願いします!」
やった、バイクをタダでゲット!
しかも新品なのかとてもきれいで変てこなマークや模様は付けられておらず、いろいろと改造されているからスピードも出る上に見た目もかっこいい。
儲けもんだね。
ついでに男たちの持ち物もいい物は拝借しておきますか。
これも報酬、そう……報酬なんだ!
「―――さて、バイクも乗せたことですし、そろそろ行きましょうか」
「はい」
「了解しましたぞ」
僕は鈴音さんと山城さんの車に乗せてもらい、一路町まで便乗させてもらうのだった。
盗賊の男たちを残して。
「―――ところで狐白さん、町に着いたらどうするのですか?」
「あー、何も考えていませんでした。突然こっちに来たもので……」
「突然?」
「ん、あ! いや、なんでもないです」
「? そうですか。では家に寄っていきませんか? 助けて下さったお礼です。持て成さして下さい」
「いえいえ、そんな訳には」
「いいんですよ! 私がそうしたいんです。えいっ」
ギュッと鈴音さんに抱きつかれてしまった。
ああ、柔らかい。
この抱き付き攻撃の所為で頭はうまく回らず、「ふぁい」と答えてしまっていた事に気が付かなかった。




