Scene22
リクは学校から帰って来て、玄関のドアを開けようとした。そのとき玄関の脇にある白いプランターに目が言った。そのプランターには土が詰められており、何かの植物の芽が出ていた。
リク(こんなのあったっけ?)
リクは気になったがそのまま家の中に入った。
その夜、リクが2階から降りてくると、父親がリビングでテレビを見ていた。リクは何気なく父親に聞いてみた。
リク「ねえ父さん、玄関の前のプランターって何が植えてるんだっけ?」
父親「うん?そんなものあったっけ?」
リク「いや、あるでしょ。」
父親「そうだっけ?」
そう言って父親は玄関まで行くと、ドアを開けて玄関の脇にあるプランターを確認した。
父親「あんなのあったっけ?父さんは知らないぞ。母さんかな?」
リク「そうなんだ。じゃあ、明日母さんに聞いてみるよ。」
父親「そうか。じゃあ、明日、母さんに花を買ってってくれ。いつも父さんが買って行ってるが、お前が買っていけば母さんは喜ぶだろう。」
リク「分かった。どっかで買っていくよ。」
――
翌日の放課後、リクは病院の近くにある花屋に寄った。
店員「いらっしゃい。」
リク「花が欲しいんですけど。」
店員「どんな花ですか?」
リク(母さん、どんな花がいいかな?)
リク「どんな花がいいですかね?」
店員「え?」
リク「いや、これからお見舞いに行くんですけど、どんな花がいいかと思いまして・・・。」
店員「だったら、こちらで見つくろいましょうか?予算はいくらくらいで?」
リクが店内を見まわしていたとき、ひまわりが目に入ってきた。
リク「2000円くらいで。ひまわりって悪くないですか?」
店員「お見舞いにはピッタリだと思いますよ。」
リク「じゃあ、ひまわりでお願いします。」
――
リクはひまわりを手に母親の病室に入った。
リク「母さん、調子はどう?」
母親「調子はいいわよ。」
母親はリクの手にあるひまわりを見た。
母親「まあ、ひまわりを買ってきてくれたの?」
リク「ああ、どうかな?花なんて買うの初めてだから。」
母親「何言ってるの。相手のことを思って買ったのなら、どんな花だっていいの。」
リクは少し照れながら笑った。
リク「だったら良かった。喜んでもらえるのって何かいいね。」
母親「嬉しいわ。リクに花をもらえる日が来るなんて。」
リク「大げさだよ。」
母親「でも、もうひまわりが咲いてるのね?」
リク「ああ、夏に咲くイメージだね。」
母親「まだ6月だっていうのに早いわ。温室で育てたのかしら?それとも輸入したのかしら。」
リク「じゃあ、これ花瓶に生けるね。」
母親「いいわ。後で母さんがやっておくから。」
リク「そう?」
リクはひまわりをテーブルの上に置いて椅子に座った。
リク「そうだ。ウチの玄関の脇にプランターが置いてあるんだけど、アレって何だっけ?」
母親「玄関の脇?そんなものあったかしら?」
リク「えっ?母さんも知らないの? オレ、何かすごい気になっちゃって。父さんに聞いたら母さんじゃないかって。」
母親「お母さんは玄関の脇になんて置かないわ。全部庭に置いてあるもの。」
リク「そっか。まさかリナじゃないよね?」
リクにはリナという妹がいた。
母親「そういえば、リクが誰かからもらったんじゃない?」
リク「オレ?あれ、オレのなの?」
母親「違ったからしら?」
リク「オレがもらったらさすがに忘れないでしょ。それに誰からもらったんだよ?」
母親「うーん。思い出せないわ。でも誰かがリクにプレゼントしたもののような気がする。」
リク「誰だよそれ。」
リクは笑った。
母親「ごめんね。ちょっと思い出せないわ。」
リク「そっか。まあいいよ。」
母親「それで、そのプランターには何か植えてあるの?」
リク「うん。何か分からないけど芽が出てるよ。」
母親「それって、ひまわりじゃないかしら?」
リク「ええ!そうなの?」
母親「うん。何となくだけど。」
リクは母親にそう言われて自分が買ってきたひまわりを見つめた。
――
それからリクは玄関の脇にあるプランターを気にしながら過ごした。日が経つごとにプランターの植物は大きくなっていった。ある日リクが家に帰ってくると、その植物は大きな頭をもたげていた。リクはその植物をジックリ観察した。
リク(本当だ。母さんの言ってた通り、これってひまわりだ。)
リクはプランターを持ち上げて、もう一度ジックリ見てみた。
リク(もし母さんの言っていることが本当なら、オレはこのひまわりを誰かにもらったことになる。じゃあ一体、オレは誰からこのひまわりをもらったんだろう。)