第9話 見知らぬ因縁
王城。
城下街などの現場での混乱とは裏腹に、国王の執務室は驚く程に静まり返っている。
「遂に奴等の襲撃が始まった。イヴァンよ。教会との連携は済んでおるな?」
「はい。既に魔法陣の構築を始めております」
「メルヴィル。冒険者ギルドへの通知は?」
「スカーレット家の使いからの内容を確認し、直ぐに勅令を出しました。冒険者もこの国の為、動いております」
「ならば良い。ラドルファス、あの魔法はどうなっているか進捗を確認したい」
「半分と言った所かと。ですが解析が進めば発動も早まるでしょう」
「よし、オーガスティアに住む者全員が団結し、この国と国民を守るのだ!国に仇なす者達に我々は負けはせん!」
◇◇◇
「だあありゃあっ!」
槍に炎を纏わせ、攻撃を繰り出すアリア。ノアは彼女の脚部とワイバーンの周辺に風魔法を発生させ、援護を行っていた。
ワイバーンは自身に拡がる炎と槍撃による痕で悶え苦しみ、息絶える。
「ふう…これで何体だ?」
「俺がニ、アリアがそいつ入れて三だ。だけどこっからは数えてるような暇ねぇかもな…」
上を見上げると、仲間を殺された事を理解したワイバーンが何体も雄叫びを上げている。
それらも勢いのまま倒そうとしたノア達だったが二人の動きは止まる。
『我が配下を殺したのは貴様らか?』
自分達が今まで倒してきたのとは魔力の重さがまるで違う。
体格も周辺に居る個体とは倍以上の大きさだろうか。
そのワイバーンが乗った一軒家は重さによって半分以上潰れている。
白銀に輝く鱗と両翼を持ち、年季を感じさせる肉体は幾つも傷痕が残る。その中に一際目立つ傷がある。身体の中心に残る、大きく横一文字に付けられた傷だ。
『言葉が伝わらぬか?人間』
「人とやり取りできる魔物なんて久々に見たもんでね…」
白いワイバーンはノアを観察している。
『悪くない武器だ』
「良いだろ。前に折れたからな。王国一の鍛冶屋で買ったんだ。やらねぇぞ」
『要らぬ。人間の持つ武器など…貴様、、ケインか』
「…は?」
『久しいな。我が肉体に傷を付けた数少ない人間。まさか再び相まみえようとは。あの時の契約、忘れておらぬぞ。ここ一度だけお互いに手を引く、とな。契約を破ったのは貴様だ。此度は容赦せぬぞ』
「…ぇよ」
『なんだ?』
「ちげぇって言ってんだ!俺はノア·マクスウェル。あんたにその傷を付けた、ケインの息子だよ!」
『そうか。ならば親の責任、貴様が果たせっ!』
「断る。親父の因縁は知らねぇな。俺があんたと戦うのは俺達の国を襲ってきたからだ!」
白いワイバーンは巨大な炎熱球をいくつも繰り出すと、ノアは避けるように飛び出していく。
「行くぜ、俺の新技-影人形-」
短剣を構えた右手を左手で掴み、スキル名を唱えるとノアが三人に分かれる。全員が同じ構えを取り、魔法を発動させる。
「「「-黒雷-」」」
新調した短剣に黒雷を纏わせ、横一線に剣を振るう。
白いワイバーンは左右からの攻撃を翼の表面に発動させた魔法で防ぎ、正面からの攻撃は自慢の鱗がそれを跳ね返す。
「くそっ!」
『隙だらけだ』
純粋な魔力の塊を放ち、分身したノア達に迫ってくる。
「後ろに飛べっ!」
アリアの言葉を瞬時に聞き取り、ノアは防御魔法を発動させて風魔法で自身を後ろに押し出す。
「スカーレット流槍術、玖-陽炎-」
アリアが槍を立たせ、何かを発動した直後ノアを魔力光線が包む。
『…親とは違うということか』
白いワイバーンは翼を動かし、飛び立とうとする。
「ノアを侮んな!」
ワイバーンの後方には動きを予知していたアリアが待っていた。
『貴様こそ、我を侮っていると見える』
首を彼女の方に向け、火炎放射を放つ。直撃し、消え去るアリア。
翼をはためかせ、上空へ舞い上がる白いワイバーン。
『こんなものか…さて、後は此処を破壊すれば終いー』
「スカーレット流槍術、捌-竜爪撃-」
先程の攻撃で消えた筈のアリアが上空より無数の槍攻撃を行う。完全に油断していたワイバーンは彼女の攻撃を諸に食らい、落下してしまう。
「-全剣黒雷-」
落ちた先には建物の影に避けていたノアが短剣を構え、待っていた。
ありったけの力を込めて放ったその一撃は父が遺した傷の上から被さり、ワイバーンに十字の痕を付ける。
「やるじゃんかノア」
「いや、アリアのおかげだ」
『侮っていたのは…我の方だったか』
二人の攻撃でかなりの深手を負ったようだが、ワイバーンを倒すまでには至らなかった。
息も絶え絶えのなか、咆哮を上げだす。
「な…なんだ突然!」
『我には…この街の破壊という使命がある…』
周囲に滞空していたワイバーンの群れが動き出す。
「違う!お前らワイバーンにそんな使命ねぇよ!何もこの国にないだろ!?あるのは俺の親父との因縁だけだ!」
ほぼ瞑りかけていた瞳を大きく見開く白いワイバーン。
『…その通りだ。我は何を躍起になっている?この国を…人間を再び襲えば容赦せぬと契約した…。先に契約を破ったのは、我であったか。ケイン…』
-もしまたお前達が俺の周りに迷惑掛けたら容赦しねぇからな!俺のガキに迷惑掛けたら俺のガキがお前をぶっ倒す!覚えとけよ!-
再び咆哮を上げる白いワイバーン。すると上空に居たワイバーンの群れは踵を返し、一方向に飛び去って行く。
『ケインの息子…ノア、と言ったか』
「あぁ」
『娘…名は?』
「アリア。アリア·スカーレット」
『アリア、か…良かろう。そなたら二人に我の身体全てをやる』
「「!?」」
『我が肉体…そなたらが使う武器の素材に、悪くない筈だ…』
「いや、俺はこいつがあるし…」
「あたしもこの槍まだ使えるから…」
『我等ワイバーンと戦った武器はただでは済むまい…。そのままではこの先戦えぬ…』
その発言に黙ってしまう二人。先程の攻撃で武器にかなりの負担を掛けてしまい、この戦いが終わるまで持つかさえ危うい状態になっていた。
「…分かった。あんたの肉体を素材としてもらう」
「ノア!?」
「でもあんたをわざわざ殺す気はねぇ。寧ろ俺の仲間を呼ぶからこのまま治してやりたいぐらいだ」
『我を…許すと?』
「許すも何も俺達皆巻き込まれてるだけだ。あいつらにな!」
ノアが指を指す方向からアルバが現れる。
「ほぉ…いつから俺の存在に気付いていた?」
「そこの影から出てくる時にやっとな。悪意みたいなもんを感じちまったんだよ」
「困るな、蜥蜴の王よ。遺物のおまけ二人程度にやられるとは。こうも弱くては使い物にならん」
『貴様…思い出したぞ。我等ワイバーンの住処にやって来て、何か力を使ったな…』
「ほぉ、思考誘導が解除されたか。どうやらお前の死は近いらしい」
「なんだと…」
ノアがアルバの言葉に反応する中、彼の顔の真横を何かが通り過ぎる。
アルバはそれを難なく避ける。
「ちっ、外したか。何もないか?」
「ロベルト副団長!?なんでここに…」
ノアの後方には馬から降りて銃を構えているロベルトが居た。
「貴様…何をしに来た」
「心配なんでな。助けが要るかと思ってまでだ」
「副団長…助かったぜ。てか持ってるその変な棒はー」
「そんなものは要らん。お前は指令通りの行動をしろ」
「最終的にやっておけば良いだろう?それまでは俺の好きなようにやらせてもらう」
「…は?」
「ノア、お前に恨みは無い。俺は奴等の苦しむ顔が見たくてたまらないだけなんだ」
銃を構え直し、ロベルトはノアに向けて弾丸を発射する。
ノアは銃という物の概念を知りません。まずいですね。
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