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乱世の転生者  作者: 情熱のデンプシー
第二部 河の国編  第2章 剣士カナミ
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ビジョンが見えた



 その日からしばらく。


 庭園の中のこじんまりとした離れの小屋で飯を食う。

 カナミと一緒に。


 当初こそ生活リズムが合わずにあまり顔を合わせなかった俺たちだが、今は違う。


 刺客の襲撃に備えて、カナミが早めに帰ってくるようになった。


 それはいいことだと思う。


 食事も一緒にとれるし。



 主君と一緒に食事をとることを、真面目なカナミは嫌がった。


 しかしこの国の文化では食事の時間と身分の貴賤は関係ないらしい。

 同じタイミングで食事が持って来られる。


 折角作ってもらった料理を冷めてから食べる方が失礼だ。


 そう言うとカナミはどーんとショックを受けたように青い顔をする。



「わ、私が非礼……」



 貴族として譲れないものがあったらしい。



 そんなこんながあり、俺たちは卓を挟んで食事タイム。

 

 もぐもぐと食べ、食後には紅茶を飲みながら色々な話をする。


 今日初めて長槍相手に一本とれたとか、こっちの剣技は祖国のものとだいぶ違うとか。

 以前に比べ、ずいぶん心を開いてくれたと思う。



「殿下は、本日何をされていたんですか?」



 俺は淡々と告げた。



「イラリオとファガレスに会っていた」



 カナミの顏から笑みが消える。


「ようやく会う許可が下りたんだ。正確には、二人の骨にだけど」


 イラリオとファガレスの遺体は回収され、首を城下にてさらされた。


 据え置かれた生首は、時間をかけて腐り落ち、カラスの餌となり、白骨だけが残った。



 二人は造反者だ。



 俺たちを生かす判断を下した皇帝の命に逆らった。


 自尊による憎しみや嗜虐的な色欲におぼれ、俺たちを殺そうとした。


 規律を守るためにも、造反者には制裁が不可欠だ。


 ゲイル将軍の本心がどうであろうと関係ない。


 周囲へ見せしめを行うことで次の造反を防止する。


 封建社会における典型的なシステムだ。


 乱世の教えだ。



「ファガレス・ブロード。憎しみで狂ったけど、もともとは勇敢で頼りがいのある兄貴分だったらしい。イラリオ・キーチマン。色欲にまみれた下種だけど、憎みきれない気の良い男だったらしい」



 俺は、彼らのことを聞いてまわった。


 彼らと親しい人、嫌いな人、関わりの薄い人、同僚部下上司。

 彼らのことがとにかく知りたかった。


 俺は知らなければならない。

 忘れてはならない。

 殺した者の責任として。


 それが俺の殺人に対する向き合い方だ。


「やはり殿下は真面目すぎる。向かってくる敵を討って、何の責があるのか、私にはわかりません」


「分からなくてもいいさ。俺の中の無駄な流儀だから。合わせる必要はないよ」


 カナミはきゅっと唇を絞り、俺は困ったように笑った。


「いずれ、俺も首だけになるかもしれないね」


「なりません。私が絶対にお守りいたします」


「うん、信じてるよ。でもさ、いつまで守ってくれる?」


 机をはさんでカナミにほほ笑む。

 紅茶をすすり、何でもないことのように言った。




「俺の野望は、乱世を終わらせることだよ」




 びくっ。


 少しだけ震えて、カナミは目を丸くした。


 しかし、それは一瞬のことだった。


「俺の敵は時代そのものだ。あまりに強大だ。生きている間に、俺に平穏は訪れないかもしれないよ」


 大望を果たすまで、ずっとずっと戦い続ける予定。

 そう試すように言った。


 俺の意図に気付いたのか、カナミはいたって真面目に、真摯な姿勢で返す。


「武人とは、武をもって忠義に生きる者。忠義とは、御恩と奉公です。救ってもらった御恩は忘れません。あなた様が時代と戦うというのならば、私も共に戦います。御身だけでなく、そのお志もお守りいたします。カナミは、ディムル王子殿下の……いえ、」


 カナミは、鞘を掴み、刀の柄を俺に向けてひざまずく。



「ディー様の臣ににございます」



 そう言って、強い眼差しを送る。

 長い髪を揺らめかす。


「国に切られた俺は、エメラルド王家かどうかも疑わしいよ?」


「ええ、ですからディー様です。私もムーンストーンへのこだわりを捨てましょう。ただのカナミとして、ただのディー様にお仕えいたします」


 愚問だったか。


 どうやら、もう突き放すのは無粋のようだ。


 彼女は子供じゃない。

 俺に巻き込まれた可哀そうな被害者でもない。


 あれほど誇っていた一族の名すら捨てられる、覚悟の座った俺の忠臣だ。



「カナミ、君には大切なことを教えてもらえた気がする」



 この世界は俺にとって、敗北の歴史だ。



 イリーナには守られるだけ。


 ローランには一度も勝てなかった。


 姉上は救えずに、父に対してわめくだけだった。



 勝ちたいときに勝てず、負けられない時に負ける。


 それが何故か、ようやく分かった。



「一人じゃあ、何にもできないよな」



 それは、俺にとって最も大切な事。

 忘れてはならない最も基本的な事だった。


 前世だって、株主、社員やクライアント、いろんな人たちのおかげで事業が成功した。


 なのに、忘れていた。


 いや、分かっているつもりで分かっていなかったんだ。



 俺がやらなきゃ。俺が守らなきゃ。俺が救わなきゃ。俺が俺が。


 馬鹿かっての。



「TEAMのスペルにはIはないんだよね!」



 アイシャイリーナラモスアザールローラン姉上父上オカリナばあ様サンチェス、そしてカナミ。


 今生において、出会ってきたみんなの名を口に出す。

 さあ、次こそ勝とうか!



「ビジョンが見えたよカナミ。この国で俺がなすべきことが!」



 一人じゃあ何もできない。


 大望を遂げるには、仲間が必要なんだ。


 それは、嘆願書を書いてくれたり情報を流してくれたりするだけじゃない。


 俺と苦楽を共にして、命だってかけられる、同じビジョンを見据える利害共同体が。



「仲間を作ろう。共に時代を変える仲間を!」



 敵国に囚われ自国に切り捨てられた哀れな王子。


 敵地の中での仲間探し。


 いい感じの逆境。

 燃えるシチュエーション。



 うん。わくわくしてきたね!






 「彼」が最初の臣を手に入れた。

 エスパーラにおけるビジョンを手にした。

 それは若葉の萌える春の終わりのことであった。



 時は、大陸歴1541年。



 乱世の夜明けは、まだまだ遠い。





これで第2章「剣士カナミ」は終わりです。

いかがでしたでしょうか?


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