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乱世の転生者  作者: 情熱のデンプシー
第二部 河の国編  第2章 剣士カナミ
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エスパーラ帝国



 俺がイラリオとファガレスに襲われて、大分たつ。


 すぐにでも飛び込んでくると見立てた衛兵は、影も形もない。


 何故か。


 気配に聡いカナミは、ずっと気づいていたのだろう。



 監視者の存在に。



 草歯にこすれるクツの音が聞こえ、ドアの向こうから二人組みがやってくる。


 こんこん。


「ノックってのは、ドアが閉まってる時にやるものです」


「今回は仕方ないでしょう?もともと開いてましたから」


 フォールだ。


 俺たちをさらったこの知将は、こんな時でも眠そうに目をたらしている。


 そしてその後に……城都レッドフィールの主、ゲイル将軍も足を踏み入れる。


「見ていたんですね。ずっと」


「ええ、なかなか面白い見世物でしたよ」


「それはいいご趣味をお持ちのようで」


「でしょう?おかげであなたの底も見れました」


 いつまでたっても衛兵が来ない。

 イラリオたちの仕業ではないようだった。


 もっと上にいる誰かの企みだと容易に推測できた。


 俺とフォールはうさんくさく笑いあう。


「奇貨、置くべし。それはあなた方の安全を示す言葉ではないということです」


 フォールの言に、ゲイル将軍が続ける。


 彼の言葉には力がある。

 それは獰猛な狼のそれよりも痛烈で、理性的なヒトのそれよりもずっと怖い。



「言ったはずだ、器を示せと」



 ゲイル将軍、間違いなく彼は傑物だ。

 口を開くと重力が生じる。

 恐怖と言う名の重力が。



「イラリオとファガレス。二人の企みは知っていた。しかし、見過ごさせてもらった。俺には、貴様らを救う義理もなければ、ぬるま湯を与えるつもりもない」


「こちらも助けてもらうつもりはない」



 カナミは、初めてゲイル将軍と会った時には委縮していた。


 彼の発する重圧に、ただただすくみ上っていた。


 しかし、そんなカナミが今ゲイルの正面に立つ。

 背筋を伸ばし、胸を張る。


 それは虚勢か、それとも慢心か。



「貴様のおかげで分かった。私の主君はディムル様だ。私は身命を賭してこの方を守る。どんな刺客が来ようとな」


「偉そうに吠える。自分が強いとでも思っているのか?」



 ゲイル将軍が腰の刀に手を添える。


 瞬間、鮮烈な殺気が辺り一面を埋め尽くした。


 言いようのない存在感に、ディムルですらひるむ。


 カナミは、震えていた。

 武者震いではない。

 間違いなく怯えている。


 しかし、決して退かなかった。


 なけなしの勇気を振り絞り、鋭くにらむ。



 そして二人はしばらく視線をぶつけあい、



「ふ、獣が。ようやく飼い犬と言ったところか」



 ゲイル将軍はそう言って、満足そうに肩を落とした。



「貴様達は、見捨てられてもなおエメラルドの血から逃れられない。これからも刺客は後を絶えないだろう。守る気はない。独力で生き延びて見せろ。奇貨、置くべし。価値を示し、器を示すつわものだけが、この世界で生き残る」



 そう言い残して、ゲイル将軍とフォールは去っていった。


 彼らは知りたかったんだろう。

 俺たちの器を。

 底を。


 俺たちを試して試して試して磨き上げ、脂の乗ったところをいただくつもりなのかもしれない。



 奇貨、居くべし。



 手元に置いているだけでは満足せず、激しい環境で叩き上げる。


 まったく、すがすがしいほどに強欲な理屈だ。


「怖いな、あの人は」


 いや。この国、か。


 そう言うと、カナミが俺をのぞき込む。


「殿下。その、大丈夫なのですか……?お怪我は……」


「カナミこそ、血まみれだよ」


「いえ、私のはほとんどが返り血です」


「そっか」


 俺は一息ついたように肩を落とすと、我慢していた血をぐぺっと吐き出す。



「じ、実はさ…。お腹の臓器、治せてないんだよね…」


「ええっ!?あ、えと、『ヒーリング!』『ヒーリング!』……ああ、もう、私の魔法じゃっ!医者あっ!」



 眼をぐるぐると回しながらあたふたとする。


 そんなカナミを見てディムルはおかしくなって吹き出した。


 先程までの鋭い目つきはどこへ行ったのか。

 窮地を抜ければいつものカナミだ。



 生真面目で、どこか抜けていて、頼りになる守り刀。



 いつしか、カナミもくすくす微笑んで、ともに笑いあっていた。





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