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乱世の転生者  作者: 情熱のデンプシー
第二部 河の国編  第2章 剣士カナミ
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守り刀




 守り刀、ムーンストーン。



 剣に優れ、警護に長けた守の一族。


 カナミはその二つの力を存分に受け継いでいる。



 速く鋭いその剣技。


 そして気配の探知。



 そんなカナミは湯あみを終え、庭園に差し掛かったところですぐに気づいた。


 血の匂いに。

 殺しの音に。


 離れの小屋で戦いが起こっている。



 瞬間、カナミは駆けた。

 しめった長髪を振り乱し、稽古用の使い古された木刀を握りしめ、迷うことなく窓ガラスに飛び込んだ。



 そして今、カナミはイラリオとファガレスの前に立ちふさがる。


 

 血だまりに沈む、ディムルを背に。




 「ゆる、さない……」




 ぶるぶると、肩を震わせる。


 そんなカナミを前に、イラリオは口角を釣り上げた。




「いいね、その表情……」




 取れた耳から血を垂れ流しながら、好色な笑みを浮かべる。




「邪魔するんじゃねえよ……」




 ファガレスは、折れんばかりに歯を食いしばる。




 そしてカナミは……




「ほあっ!?」




 わき腹を突つかれ、すっとんきょうな声を上げた。

 ディムルはクツクツと笑う。


「殿下っ。状況っ!お戯れがすぎるっ!」


 シリアスな空気が一瞬でぶち壊され、カナミは本気でいらっとした。


 笑うディムル。

 彼はしばらくすると急に真顔になり、


「助かった」


 カナミの前にずいと出る。


「カナミ。彼らは上の命令に逆らい俺を襲った造反者だ。まともにやり合う必要はないよ」


 未だに治りきらぬ足と腹。おくびにも出さずに剣を下段に構える。


「援軍を呼んできてくれ」


 ニッと笑った。それは頼もしい顔で。


「俺はここで時間を稼ぐ。その間に助けを呼ぶ。告げ口作戦さ。この役目は速さのある君にしかできない」


 ファガレスとイラリオの動揺が見て取れた。


 彼らにとってみれば、悪魔のような策だろう。


 カナミはその指示を聞き……



「嫌です」



 っておーい!


「上手いこと言って、私を逃がそうというお考えでしょう?」


「あ、ばれるか」


 傷は深い。

 魔力切れも近い。


 負けを認める気は毛頭ないが、今の俺にできることは多くないのは確かだ。


 これではカナミを守れない。


「前に言ったね、俺には君を守る責任がある。だからお願いだ」


「嫌です!」


 きっぱりと告げ、すぐさまカナミは動き出す。



 狙いはファガレス。



 鍛え上げたフットワークで距離を潰し、木刀を払いあげる。


「猿がっ!」


「カナ……!」


 追おうとした俺は、足がもつれて膝をついてしまう。


 傷が深いっ、まだ治っていないのか!


「カナミ!これを見ろ!」


 動けない俺を先に始末しようと、イラリオが剣を向ける。



 しかし、



「ぐおっ!?」



 カナミはわずか数歩で距離を詰め、勢いをつけた飛び蹴りでイラリオを吹っ飛ばした。


 あまりにも速い。


 純粋な技量なら、この場にいる全員を圧倒している。



 しかし、相手は二人だ。

 いくらカナミでも……。



 俺は悲痛に叫び懇願する。



「やめろカナミ!これは俺のミスなんだ。俺の責任だ!!」



 そう、俺のミスだ。


 自分に価値さえあれば手は出されない。そうタカをくくった俺のミスだ。


 そんなものに、カナミは巻き込めない。



「俺が時間を稼ぐから、ゲイル将軍の元に逃げ込め。大丈夫だ。なんだかんだ言ってあの将軍はカナミをかっている。忠誠を誓えば、悪いようにはされないさ」



 ファガレスの斬り払い、後ろに飛び去り距離を開けるカナミ。


 目が合い、俺は強い眼差しを送る。



「頼む」



 カナミは、目を細めて鼻を鳴らした。



「殿下は真面目すぎる」



 カナミに言われたっ!?



 ショックを受ける俺に向かって、カナミはイーっと歯を向ける。


 そして二人に向かって斬りこんだ。


 純粋な技量ならカナミの方が格上だ。


 しかし相手は二人。

 なすすべなく斬り刻まれる、カナミの衣服に赤いしみが広がる。


 カナミは苦悶し、ぎりっと歯を食いしばり、がなるように叫んだ。



「…………殿下は!真面目すぎるっ!」



 カナミはフットワークを活かして、狭い室内を縦横無尽に動き回り敵の二人を翻弄する。


 しかし、ディムルには次第にカナミの動きの規則性が読めてきた。



(守られているっ!?)



 カナミは、いつでも自分をかばえる位置取りにしか動かない。


「……ムーンストーン家は!エメラルド王家の守り刀ですっ!我ら一族は、王陛下から殿下の警護を仰せつかった。これは我ら一族の使命であり、職務です……っ!」


「……そのためなら、死んでも良いっていうのか!」




「そうです」




 ぴしゃりと言い切る。

 カナミの眼には、迷いがなかった。



「……我らは巻き込まれた可哀そうな被害者ではない。我らはまごうことなき当事者です……一族の死に、殿下が責任を感じられる必要はありません。ならば此度の一件、私は殿下に救われただけっ!!」



 そしてカナミは再び駆ける。

 とーん、とーん、とステップを踏み動き出す。


 そんなカナミの必死な姿を見て、ディムルは分かった気がした。



(この子を止めようとしても無駄だ)



 きっと死んだって止まらない。


 その姿は、自分とよく似ていることに気づいた。



 俺がサラ姉上を守りたかったように。


 彼女にも譲れないものがある。



(なるほど。真面目すぎる、か)



 ディムルは苦悶した。


「……似た者同士ってことかな」


「全然違います。姉君にたいして、生まれただけで負い目を感じるなど、取り違えるにもほどがある!」


 またしてもぴしゃりだ。


 頬を膨らませたカナミは、俺の目前まで飛び下がってきた。

 イラリオやファガレスとは大きく距離が空く。



「重ね重ねの無礼を承知でもう一つ。殿下は私のことを子ども扱いしているようにお見受け致します」



 二人に対して刀を向け剣先を固定する。そして、ジト目でこちらをのぞき込んだ。



「私の方がお姉さんです」



 …………。



 ディムル  →  11歳

 カナミ   →  14歳



 なるほど、確かに。



「ふくくくくっ」


「な、なにがおかしいんですか!」



 顔を真っ赤にしてカナミは怒り出す。


 空気を読まず、俺は笑い転げた。


「いや、失礼。おかしくないよ。君は何にもおかしくない」


「ならっ……!!」


 カナミに対して、俺はにっこりと笑った。


「任せる」


「…………御意っ!」



 そこからのカナミはすごかった。


 速く、鮮やかなその剣技。

 冷たく熱い、その感情。


 振り乱す青い長髪は、湯あみから乾いておらず湿っていた。


 汗を滴らせながら、懸命にあがく。

 

 そんなカナミの姿は、とても美しかった。



「だから、へし折りてえっ!」



 イラリオは嬉々として剣を向く。

 しかし、その剣が何かにひっかかったのを感じた。



「油断大敵♪」



 振り向くと、ディムルが刀身を掴みにんまり笑っていた。


 未だに治らぬ足を引きずり、掴んだ右手から血が溢れる。




 さあ、ありったけの魔力を込めよう。





『エルショック!!!』




 ほとばしる電流。

 それは剣の刀身を通して、イラリオの身へと流れ込んでいく……。



「あ……がっ……」



 筋肉がけいれんを起こす。

 膝をつき、全身が震える。



「たはあー、魔力切れ……」



 同時にディムルの魔力はほぼほぼ底をつき、『痛覚遮断』の効果も切れた。



 ずきん、ずきん!



 身体中が悲鳴を上げ、未だ治らぬ足と腹の痛みに眩暈がする。



「なん、が……」



 イラリオもまた、身もだえしていた。



 『ショック』を浴びせても、意識までは奪えない。


 この魔法で意識を刈り取るには、肩や首、脳の近くに触れなければならない。


 どれだけ魔力を込めようと、触れたのは刀身だ。

 一時的に動きを止めたにすぎない。



 それでも、



「わ、私に任せるって言ったのに………殿下は嘘つきだ」



 別の意味でショックを受けていたカナミに俺は叫んだ。



「一対一の舞台は作ったよっ!負けんなっ!カナミっ!!」





「~~っ!御意です!今度こそ御意っ!!」






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