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乱世の転生者  作者: 情熱のデンプシー
第二部 河の国編  第1章 人質
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ディムルの3年


 悲劇の渦中、一人の少女を救うために不利な戦いに自ら挑む。


 その姿は後の勇者の英断か、あるいは哀れな愚者の過ちか。


 それは、この時点ではわからない。


 しかし、「彼」は笑う。

 額に汗を流しながら。



「たった50人、か」



 ……人生は楽しんだものが勝者だ。

 俺のビジョンをかなえるために、当然だが俺の生存は必須条件だ。


 そのために治癒魔法を学んだ。


 自衛のために剣を学んだ。


 この厳しい世を生き残るために。

 生きて大望を叶えるために。



 でも……



(この場において!!そんなものは糞くらえだっ!!!)



 眼の前には、自分のせいで窮地に瀕した少女がいる。


 それを前にすれば、自分の命なんて砂粒よりも軽い。


 例えここで果てることになったとしても、逃げの選択は選べない。


「さ、いっちょかますかっ!」



 元気よく発するディムルの言葉に、一団はあっけにとられ……言葉をなくす。



「王族が、娘一人のために命を捨てるおつもりか?」


「王子である前に、男ですから」


 フォールは頭を悩ませた。

 聡明な王子と聞いていたのに、まさかこの状況で抵抗を見せるとは。


「仕方ない。少し痛い目を見せてさしあげなさい」


「了解」


 下卑た男は剣を構える。


 鮮烈の闘気に一瞬たじろぐ。


(強そうだ)


 エメラルド国の奥深くまでの侵入。

 恐らくは精鋭たちを連れた決死隊だ。


 1人ひとりが訓練と経験を重ねた武人だということが分かる。


(だからこそ、か)


 油断している……。


 眼の前の男は、にやにやといやらしい笑みをうかべ不用意に近づく。


 相手は子供だ。警戒する必要なんてない。とでも言うように。


「坊や。斬られた経験ないでしょ?……痛いよっ!!」


 高速の打ち込みが、ディムルの目前まで近づいた……!









 ……この世界は、俺にとって久しく見る敗北の歴史だった。






 俺は前世において、会社の経営者だった。




 経営者だなんて言っても、最初は個人でやるごく小規模なもので。


 ここだけの話、立ち上げた会社を何度も潰してしまった。銀行から融資も受けられなかった。


 友からは失笑され、妻からは呆れられて、それでも夢を諦めきれず、様々な試行錯誤を繰り返しながら、やがて立ち上げた会社を1部上場までこぎつけた。

 それを世界に誇れる企業へと成長させた。



 ……自信になった。


 30歳を超えたころには、下積みを終えたと実感した。

 だから、自分にできないことはないと本気で思っていた。



 だけど、生まれ変わった途端どうだ?



 イリーナには守られ、足を引っ張るだけしかできなかった。


 でかい口叩いて、ローランには一度も勝てなかった。


 サラ姉上の嫁入りを止められず、みじめにわめくだけしかできなかった



 俺は、無力だ。



 偉そうなことばかり言って、何一つできない。


 周りに守られてばかり。

 ずっと誰かの力で生きてきた。


 そして一番ムカつくのが、危機感も悲壮感もなく与えられた環境をよしとして、ぬくぬくと過ごしてしまったことだ。



 だから、失った。



『さようなら、ディムル。いい王様になりなさい』



 サラ・エメラルド。


 俺が守らなければならなかった存在を。

 俺のせいで不幸になった少女を。



 ……この世界に生まれ落ちてから、本当に負けっぱなしだ。



『ブースト!』



 十八番である肉体強化の治癒魔法。


 加速した俺は、眼前の剣をすれすれでかわし、男の死角に回り込む。



 もう、失いたくない。

 だから、力をつけた。


 今度こそ、守れるように。

 眼の前の困難を薙ぎ倒すために。



 あの日から3年。


 それでもまだまだ未成熟な子供の身体。



 それでも、


「今の俺はもうっ!!!守られるだけのガキじゃないっ!!!!!」



 小さな掌で懸命に男の顔面をわしづかみ、彼は叫ぶ。


『ショック!!』


 ほとばしる電流は、脳へ向かって駆け巡り、男の意識を奪っていった。

 糸が切れた人形のように、ゆっくりと倒れる。


 ディムルはそれを冷たく見送った。



「次」



 強くにらむ。


 エスパーラの一団からは、動揺がはっきりと見て取れた。


 俺は腰に差した剣を強く引き抜く。


 王都を出る際、餞別としてラモスからかっぱらってきた小剣。


「ほら、次。空気読んで、テンポよく来ようよ。残り49人も倒さなきゃいけないんだからさあ」


「へえ、倒すの。全員?」


 出てきたのは長身の男。

 肩に大剣をかつぎ、全身からは余裕を感じる。


「そりゃすげえ。是非是非やってみ?」


 勢いよく振り落とされる大剣。俺の剣とかちあう。


「ファガレスっ!」


 敵の頭であるフォールが叫ぶ。


「わぁってますよ。殺しはしませんて。ちょいと痛いめ見せるだけですよぉ!!!」


 そう言って、上段から幾度となく振り下ろす。


 そして俺は、その打ち込みを全てさばいた。


「あん?」


 長身の男とは対象に、ディムルの構えは低い。


 脚の幅を広げ、腰を落とし、地面すれすれに剣を構える。


 子供の小さな体を、限界まで落とす低空の構え。



「どうだい?秘儀、超下段の構え~」



 とぼけた態度にいら立ったのか、長身の男は打ち込む、打ち込む。リズムを変えて薙ぎ払い、突く!


 しかし、刃の刀身はディムルに一触れもしなかった。


『ほほ、守りだけはいっちょ前になりましたなあ』


 とはラモスの言だ。



 ディムルの剣は自衛の剣。



 どんな敵にも守り勝つことをビジョンに据えて、この3年磨いてきた。


 そして、


(ラモスよりもずっと遅いっ!!)


 一瞬の隙。


 ディムルは身をひねって懐に飛び込み、掌を男の胸に押し当てる。



『ショックっ!』



 びくんっ、と身体を震わせて、長身の男は意識を奪われた。

 

 残り48人。



「刻ませてもらう。悲鳴を上げてよがれ」


「王族をいたぶれるなんてめったにない機会です。役得役得♪」



 次に出てきたのは二人。

 敵の中でもひと際若い男女だ。


 いくらなんでも二人がかりの刃は防げない。

 頬が、肩が、背中が斬り刻まれ血を垂れ流す。


 しかしディムルは、一切の反応を見せなかった。


 痛みによる苦悶も、出血による動揺も。


 ただ、落ち着き払った強い眼で勝機を探るのみ。



 イリーナ師匠が言っていた。全てはイメージだと。

 だから、イメージした。


 体内で暴れ狂うアドレナリンを。

 多量に分泌されたそれは、出血を押さえ、集中を阻害する苦痛を取り除く。



 ローランとの立ち合い。俺は負けっぱなしだった。

 だから、ローランと別れた後、今度はいいようにやられまいと考案した、


 俺の第二のオリジナル魔法。



『痛覚遮断』



 痛みの全てに無反応。


 どれだけ刻まれても、身じろぎ一つしない。

 痛みの感じない身体は、思考に冷静さを与えてくれる。


(こいつらは、俺を刻むだけ。殺すつもりはない。その余裕を利用する…!)


 多少のダメージは無視。強引に身体をねじ込む。



『ショック!』



 首筋を掴まれた女戦士は、一瞬で気絶する。


「てめえっ!!」


 キンっ!


 焦燥するもう一人。

 剣と剣が噛み合い、キリキリと騒ぐ。


 所詮は子供、力勝負なら。……そう思っているんだろう?


『エルブースト』


 中級魔法による筋力増強。

 急激に伸びる力の緩急。相手がとまどった、その一瞬を見逃さない。


「ふんっ!!」


 子供と大人の身長差を活かし、男の股間を握りつぶす。そして、



『ショック!!』



 男はぶくぶくと、泡を吹いて倒れる。

 これで残りは46人。







『エルヒーリング』



 暖かな薄緑色の光がディムルを包む。


 フォールは感嘆の声を上げた。


「それで全て元通りですか。無詠唱に治癒技術、独特な剣技にオリジナル魔法。噂にたがわぬ天才ぶりですね」


「少しだけ、努力しましたから」


「それで?これからどうするつもりですか?」


「もちろん。残り46人倒そうと思います」


 フォールは観念したように息を吐く。


「計画の大締めまで外注に頼るのは不安なんですが。仕方ありませんね」


 フォールは呼んだ。

 離れた場所から、面白そうに事の次第を見守っていた男を。


 恐らく、この場において最も厄介な相手。



「仰せの通りに。雇い主様」



 ナクラ・ムーンストーンが前に出た。



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