ムーンストーン一族
「こんのバカ娘ぇっ!!!」
ごーーんっ!
まるで除夜の鐘のように鈍く、きれいな音が響く。
「すいませんすいませんごめんなさいすいません知らなかったんですごめんなさい。殿下に不敬を働いてしまったこと身命を賭してお詫び申し上げますすいません……」
頭に大きなたんこぶを作ったカナミは、目じりに涙をためて頭を何度も下げる。
「あはははははははははははは!!!ぼ、僕もふざけすぎました……、そんなに怒らないであげてください。ひい~おっかしいいっ!あはははは!!」
俺は積み荷の上に横になり、腹を抱えて転げまわった。
「まったくお戯れが過ぎますぞ……」
「す、すみせませ……ふくくく。良いご息女ですね。色々と楽しい時間を過ごせました」
ムーンストーン家当主のアキサメ大将は困ったように嘆息した。
「なあ、おいっ。お前気に入られたぜ。ぷくくく」
「うっさい!兄者は黙ってろ!」
奥ではカナミが体格のがっしりした若い男にからかわれている。
「お初ですね、王子サマ!ナクラ・ムーンストーンっす。腕に自信あるんで頼りにしてくださいよう!」
王子を相手に儀礼もそこそこ。若い男は歩み寄ってくる。
「やー、王子サマって面白いっすね。カナミのあんな顔初めて見たっすわ……ぷっくくく」
「ディムル・エメラルドです。こちらこそよろしく!」
ナクラはにまにましながら俺の手を握った。
そのままぶんぶん振り回す。
「へえ~、シェイクハンドね~。これもおんもしれえっすわ~」
「あはは、気に入ってもらえたなら何よりです」
……驚いた。
岩のようにごつい手の平だ。
剣を振った時にできる剣だこが、できてはつぶれできてはつぶれ、治る間もなく繰り返してきた手だ。
(剣に半生を懸けてきた素振りオタクってところか。軽薄な物腰で侮っていい相手じゃなさそうだね)
「ちょ、兄者っ……!!!なにやってんだ馬鹿兄者!!そのお方をどなたと心得てるんだ」
「おっとー。不真面目カナミがなんか言ってるわ~。王子殿下の頭をはたいた不敬者はだれだっけな~。よっ、天下無法の優等生!!」
「うわーっ!うるさいうるさい大馬鹿兄者っ!!」
ごんごーーん!!
恐父、アキサメ大将のげんこつが響く。
あと105回響けば煩悩は去るだろうナマンダブ。
「あっはは、仲のいい兄妹ですねっ」
「本当にお恥ずかしい。いい年して全く落ち着かない兄妹でしてな。親としては頭が痛い限りです」
アキサメ大将。
俺の父の側近でもある彼だが、どうにも苦労性だな。
さぞ父と気が合うことだろう。
「……隊長」
小さな小さな呟き声が聞こえる。
声の持ち主は影のある雰囲気を持つ壮年の男。
いつから寄って来ていたのか、全く気配に気づかなかった。
アキサメ大将は跪く男を俺と引き合わせる。
「おお、これはいけない。殿下は私以外とはほとんど初対面でしたな。こやつの顔はおぼえておいでですかな?」
「ええ。社交界などで何度か」
「……アキサメの弟、副官も務めます。シグレと申します。覚えておられるなど光栄です。殿下」
さらにアキサメ大将は隊列の中から若い男を呼ぶ。
実直な印象を受ける好青年だ。
「シグレの嫡子、アワギと申します。王子殿下、お会いできてうれしゅうございます!」
その後も一人ひとり、ムーンストーンの剣士たちの紹介を受ける。
誰もかれも礼儀正しく品行方正だ。
背筋をピッと伸ばしながらはきはきしゃべる。
一通り紹介を終えると、アキサメ大将は、はあー、とため息をつく。
「あー、最後に改めて我が子たちをご紹介いたします……。これは息子のナクラです。剣は随一ですが、それしか脳がない愚息です」
「うーっす。剣を振るしか脳のない愚息っす」
大きなたんこぶを作りながら爽やかに笑う。
「こちらは娘のカナミです。まだ元服前の14歳ですが、腕が立つので連れてきました。年も近いですし話し相手としてもお使い下され」
「そ、そのっ。よ、よろしくお願いします、王子殿下!」
顔が真っ赤だ。
大きなたんこぶの上にできた、更なるたんこぶを恥ずかしそうに隠す。
「以上、26名のムーンストーン一族とその配下、総勢150名。小勢ながら、絶対の規律と忠を捧ぐ者たち。ディムル王子殿下のセリアへの旅路、身命を賭してお供仕ります!どうぞ我らが命、いかようにでもお使い下され!!」
こうして、俺はムーンストーン一族との対面を終えた。
なかなか濃い面々。道中も面白そうだ。
こうして、留学への準備はどんどん進んでいく。




