↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乱世の転生者  作者: 情熱のデンプシー
幕間 悪童アイシャ
PR
49/99

それから1年


 城に来てから1年がたった。


「アイシャー。休憩入っていいよ」


「まだいいよ、まだまだ体力余裕。せめてここの頑固汚れは落としたい」


「うわはー、全く働き者だねぇ」


「モニカがモノグサなんだよ、モノグサ」


「ほーう、言うようになったなぁ。これは私の恐ろしさを見せつけるしかなさそうだ。ほちゃーっ!」


「ぬ、はちょーっ!あっはは。私に当たるわけ無いっしょ!」


 いつも通り、真面目に働き、時にはブラシで同僚とちゃんばらをし、上役から怒られる。



「かーっ!この一杯のために生きてるねえ!」


「相変わらず、上手そうに飲むもんだな」


「そら、んまいすからよシェッフ!!酒だけでなくこの煮込みも最高―!」


「おいおいお子ちゃまアイシャ!酒なんて飲んでてもいいのか!?」


「いいんだよ、ロニー。なぜなら私はU15.先月元服したのです!どうだ、恐れ入ったか!」


 労働の後には上手いものを食べ、時にはぐびぐびと酒を飲む。



「おー、アイシャっち。また大きくなったんじゃないか。これは男の気配だね。毎夜毎夜殿方にもまれてるコースだね」


「あは、ばれた?」


「え、マジ?」


「わわ、アイシャん問題発言だよっ」


「あっはは。冗談なのにすぐに真っ赤になる。気娘たちは単純だね~!」


「うーわ、見下し入りましたよ、これは」


「びっちのくせに!ビッチのくせに!」


 風呂に入って一日の疲れをいやし、同僚とまたふざける。


 その後、明日に備えてぐっすり寝る。



 人から見たら何でもない日常なのかもしれない。


 それでも私は知っている。

 こんな日常こそが幸せなのだと。


 餓える心配も、殺される心配もない。

 衣食住、すべてが満たされる。


 人間は食って働いて寝る生き物だ。


 そんな生活こそが至上の幸せだ。



 私は、幸せを手に入れた。



「ふふ、アイシャちゃん。今日も元気ね」


「うおー、こんばんはっすミーア先輩!明日もファイトっす!押忍!」


 半年ほど前、若くして姫殿下の守り役へと選ばれたパイセンだ。

 1人でいるのを見るなんて、相当珍しい。


「姫様はもうおねむよ、ふふ。寝顔が愛らしかったわ」


「そういう先輩こそ、すっかり保母さんの顔っすねえ~」



 弱者は死ぬ。

 そんな残酷な乱世において、私は幸せを手に入れた。



 その幸せは自ら掴んだものではない。与えられたものだ。


 それを与えてくれたのは……



「しっかし、こっちの棟に来るなんて珍しいすね」


「アイシャちゃんに会いに来たのよ」


「うえ、説教すか、今日は何もやってないすよ」



 それを、与えてくれたのは……。



「もう、違いますぅー。呼んで来いと命じられたのよ」


「誰にす?」


「陛下にす」


 顔を真っ赤にする私を、ミーア先輩はくすくす笑った。


*


 この1年。

 私は寝る間も惜しんで誰よりも働いた。


 毎日3食出る暮らしはありがたいものだ。


 布団でぐっすり寝られる毎日は素晴らしいものだ。


 命の危険の少ない毎日は、世界を美しく彩っていく。


 先輩をつかまえ、仕事をどんどん覚えていった。

 毎日毎日身体が動かなくなるまで働いた。


 目いっぱい働き誰かの役に立つ、これは決して悪くない感覚だ。


 城に来てからの充実した毎日は、濁り切っていた私の心をあっという間に溶かしていった。


 無意味で無価値だった悪童は、エメラルドの若き王に拾い上げられた。


(誰よりも忠を尽くそう)


 ただ死にたくないから生きてきたこの命。

 どうせなら、陛下へのご恩返しに使いたい。


(身も心も捧げよう)


 私の身命は陛下のためにある。



『お前、なんで生きてんの?』



 いつしかの問いに、今なら答えられる。


 私は陛下のために生きて、陛下のために死ぬのだ。




 主君への御恩と感謝が、恋慕の情へと変わるのに、そう時はいらなかった。




「顔を見るのは、久しぶりだな」


「はははは、はいいっ。き、恐悦至極に存じる所存でございまする!」


 うあー、静まれよ鼓動―っ!


 陛下を前にすると、何で私はこうなんだ……。


 年がら年じゅう国境戦線に出陣している陛下だが、西のセリア王国との戦争が若干下火になり、東南のアブソーブ女王国と和平を結んだことにより、帰還してきた。


(また、お痩せになったな……)


 久しぶりにお会いする陛下の顔は、少しだけこけていた。


 戦争が一区切りしても、それはあくまで次の戦争のための準備期間でしかない。


 年中戦争ばかりしているせいで、重税や徴兵、国民の不満はたまるばかりだ。

 特に我が国は金はあっても食料が少ない。

 貧民層は今でも餓えに苦しんでいるだろう。


(それに、あの事件もあったしね)


 まだ7つにもならないサラ王女殿下の起こした暗殺未遂事件。

 陛下のご心中は察して余りある。


「アイ……」


「陛下!」


「……」


「……」


 しばし沈黙。

 いけない。陛下が口を開いた瞬間声をかぶせてしまった。


 陛下から促され、私は慌てて言を続ける。


「さ、サラ王女殿下。こないだお見かけいたしました。どんどんお綺麗になりますね。将来は絶世の美女間違いなしですよあれは!将来が楽しみですよ!」


 あほか、私。

 サラ殿下のことは今触れちゃいけないでしょ


「でぃ、ディムル王子殿下も、きっと将来は陛下のような勇猛果敢な武人になるのでしょうね!将来が楽しみすよ!」


 いやいや、ディムル王子殿下も際どい。


「さ、サーシャ殿下も!なんか何気なくいい感じですよ、将来が楽しみっすわ」


 テンパる私。

 陛下は顔を伏せた。


 怒ってるのかな。

 一瞬不安になるが杞憂のようだ。

 必死に笑いをかみ殺してるのが見えた。


「そ、そんな面白いこと言いましたかね……?」


「いや、話してる時のそなたの顔がな……」


 陛下はまた笑い出した。

 この方が笑みを浮かべるのは珍しく、笑わせることができたのは少し誇らしい。


(でも顔が面白いて……面白いて……)


 ぬあー!!私は所詮お笑いキャラなのかいっ!!


 羞恥でもだえる私に気付かずか。陛下は続けた


「大したものだな。たった1年で、そなたは見事に城に溶け込んだ。仕事を覚え、作法を覚え、小粋なジョークも覚えて使用人たちの中で馴染んで見せた。官職の中には未だに悪く言うものもいるが、図太いそなたなら問題なかろう。実にあっぱれだ」


 そう言う陛下は、少しだけ寂しそうな顔をした。

 居場所を作ることができなかった、亡き王妃様のことを思っているのかもしれない……。


 その顔を見ると、胸が苦しくなる。


 この方には、少しでも笑っていてほしい。

 内に抱える王族と言う名の呪縛を、私は少しでも軽くしてあげたかった。


「アイシャ。そなたをここに呼んだのは他でもない。頼みがあるからだ」


「……頼む必要なんてありません。一言命じるだけでなんなりと。アイシャは陛下のしもべにございます」


 陛下のために生きて、陛下のために死ぬ。自分のすべてを使ってご恩返しをする。


 この方に死ねと言われれば躊躇なく死ぬ、アイシャにはそんな覚悟があった。


(どんなご命令でも、どんと来いだ!)


 しかし、


「嫡男の、ディムルを頼む」




 こればかりは予想外だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。