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乱世の転生者  作者: 情熱のデンプシー
第一部 乱世転生編  第3章 家族
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愛を求めて


 

 サラ・エメラルドは王の私室を出ると、気を落ち着けるようにふっと息を吐いた。


 父から聞いた話を胸の中で反芻する。


 侍女のオカリナに蠟燭を持たせ、自身の部屋のある北棟へと向かった。


 今夜は月が美しい。

 廊下の窓から差し込む月日は、実に幻想的な空間を演出する。


 そしてそんな中、一人の少年が窓辺に腰掛けていた。

 少年の名は、ディムル・エメラルド。


「こんばんは、姉上」


 腕をぱたぱた振る弟に、サラ姉上は冷たい眼を向ける。


 当然か。

 俺とこの人は決して気の置けない仲ではない。


 ただの姉弟というには確執がありすぎる。


「……どうしたのかしら、供もつけずにこんなところで。陛下に何か御用?」


「姉上に用があって待っていました。少しお話できませんか?」


 姉上は、何とも嫌そうな顔をした。




*




 城内北棟の片隅にある姉上の私室に入れてもらった。


 わざわざここまで連れてきたのは、俺と話しているところを見られたくないということだろうか。


 確かに、俺たちが共にいるというだけで余計な噂を流す輩がいるかもしれない。


「何かしら。聞きたいことって」


「つまらない問いです。本当につかぬことで、ひょっとしたらただの考えすぎなのかもしれないですけど」


「いいから早くいいなさい」


 サラ姉上の刺々しい態度に俺は苦笑する。


 そして聞く。

 父の部屋で姉上が聞いたであろうことを。


 弟として、見逃せない事態を。


「セリア王国に行かれたりしませんよね?」



 その一言で十分だった。



 姉上は一瞬目を丸くして、肩を落とした。



「……本当に、察しが良い子ね」


 やはり、そうか……。


「先ほど、婚礼を申しつけられたわ」


「……お相手は?」


「セリア王国の王子よ。王子と言っても、年は30半ばになるらしいけど」


「そう……ですか……」


 当たって欲しくなかった読みがぴしゃりと当たる。


 昔からよくある手だ。


 窮地の状態にあるエメラルド国がセリア王国と和議を結ぶのに、対等な形で同盟など結べるわけがない。


 相手はいつでもこちらを滅ぼせるのだ。


 ならばこちらは媚びへつらって従うしかない。


 気持ちとして貢物を捧げるのが上策だ。


 友好の証として王女を嫁に出すのが上策だ。



 つまり、ていのいい人質だ。



「姉上は……いいんですか?」


 俺の愚問に姉上は鼻で笑った。


「良いも悪いもないわ。半端物の王族である私には、こんなことしかできない。幸い私は母様に似て見目麗しいから。うってつけよ」


 冗談めかしながらも、姉上は覚悟を決めているのが見て取れた。

 瞳の奥には、芯の強い炎が宿っている。


「哀しいこと言わないで下さいよ」


 それでも、俺は納得がいかなかった。


 この人が何をした。


 生まれに恵まれず、育ちにも恵まれないこの少女が行きつく先がこんなものか。


「ちょっと、人のこと勝手に哀れまないでくれる?嫁入りは女にとって最大の幸せよ」


「それが、事実上の人質でもですか……親と同じくらいの年の人でもですか!なんで姉上ばかり……姉上は誰よりも恵まれず、それでも折れることなく誰よりも頑張っていた人なのに……」


 後から考えれば、あまりに配慮に欠けた物言いだったと思う。


 上から目線の偽善者面であったと思う。



 俺の発言に……姉上はキレた。


「うわっ!?」


 姉上は俺に覆いかぶさり、そのか細い指で首を絞める。


「お前が……それを言うか…。お前がそれを言うかっ!」


 締める力はとても強かった。


 ローランやアイシャとも遜色がないくらい。


 それは憎しみによるものだとすぐにわかった。


「そうよ!私は頑張ったわ!頑張っていれば見ていただけると思って。父上に、みんなに!昔みたいに愛してもらえると思って!!お前が生まれる前みたいに愛してもらえると思って!!学問も剣術も魔法も、死に物狂いで頑張ったわ!でもっ……あなたに何一つ叶わなかったっ!!私より7つも年下で、剣も魔法も私より遅くから始めたのに!何がオリジナル魔法だふざけるなっ!!剣もすくすく伸びて、学問も嘘みたいに優秀で……それなのに他者へ配慮もできて……。能力も、人望も、血も!何一つ叶わない!!ふざけるなふざけるなふざけるなっ!!!」


 姉上はいつしか泣いていた。


 首を絞める力も次第に弱まり、大粒の涙が俺の顔にぼたぼたと落ちる。


「こんな私が愛してもらうには……これしか、ないじゃない………」


 俺は、この人を追い詰めていたのか。


 俺が生まれたせいで不幸に陥れられたこの少女を。


 何故気づかなかった。


 何故考えなかった。


「いい?今回の婚儀でセリアとの同盟はなる。この国を救うのは私よ。父上は、この大役を私におおせつけたのよ!私を選んだのよ!父上はお前ではなく私を!悔しいか、ざまあみろっ!!!これでようやく父上のお役に立てる。ようやく私を見てくださる!!!」


 姉上は立ち上がり、涙を流しながら高らかに笑った。


 俺は笑えなかった。


 姉上があまりに不憫に思えて。


 ああ、分かっている。これは上から目線の憐れみだ。


 ぬくぬくと甘やかされた温室育ちの世迷言だ。


 それでも。それでも……。


 父親に愛されたい、それだけを望むこの少女。

 そのために全てを捧げる少女。



 これではまるで、奴隷のようではないか……。







 俺の中で、何かがはじけた……。


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