死生観
「おお、これはこれは。ようこそおいでくださいました。ディムル・エメラルド王子殿下」
喪服に身をまとったラモスは、いつもより恭しく頭を下げた。
「ラモス将軍。このたびは誠にご愁傷さまです。ご子息レグ・アメジスト少将は優れた武将であったと聞いています。本当に残念です」
同じく喪服に身を包んだ俺は、あらかじめ習っていた作法に乗っ取り拝礼する。
「ほほ、さすがは殿下。御年7つの童には見えませんな」
「こんなのは一夜漬けで叩き込んだにすぎないですよ。葬儀に参列するのは初めてです。色々非礼な真似をしてしまうかもしれませんがご容赦ください」
レグ少将の葬儀は王城内で行われた。
エメラルド国において、重要な役職の軍人が亡くなった際には城内に備え付けられた祭儀場を使う。
そこで火葬をすることで、霊魂は死してなおエメラルド城を守り続ける、という習わしだ。
転生した自分ではあるが、死についての忌避感は生前と変わっていない。
自身で体験してなお、霊魂の存在や、輪廻転生説を信じきれない。
転生と言う現象が存在することは身をもって立証された。
しかし、次死んだら?
これは俺だけが特別?俺以外の人ならどうなる?
検証できる類のものでもない。
だからこそ、こう考えてしまう。
こんなもの偶然だ、なにかの間違いだ。
人生は一回こっきりだ。
人間、命果てればそこまでだ。
だから、葬儀というものは残された人の心を癒すためにあるもの。そう考える。
だが、そんな俺でも目の前の光景には違和感を覚えるしかなかった。
「ほほほ、殿下。愉快愉快。飲んでいますかな?」
「僕はまだ7歳ですよ……」
明るすぎる……。
武骨で厳かな祭儀場に、ところせましと駆け回る大道芸人。
舞台に上がって歌や踊りを披露する国の重鎮たち。
昼間から酒を飲んでのバカ騒ぎ。
俺の知る葬儀とは違いすぎる。
あまりにも明るすぎる。
「レグ・アメジスト将軍は劣勢にもかかわらず多くの敵を打ち倒し、決して生き恥をさらすことなく見事に果てていった。その戦いぶりは、王陛下により城内慰霊碑に名を刻むことを許されたくらいです。こんな名誉はありません。エメラルド国の男たちは皆このような最期を目指すものです。いやはや、ご立派なご子息をお持ちで羨ましい限りです」
「ほほ、誠にめでたいもんじゃ。愚息じゃ愚息じゃと思っとたが、この年まで生き残っとる儂の方が恥というものですじゃ」
事前にアイシャから教えられている。
この世界における葬儀とは、立派に死んでいった軍人を祝うために行われる宴らしい。
武人にとって、主君のために戦い立派に死んでいくのは最上の美徳。
これはそれを祝うためのパーティーだと。
平和な現代日本とはあまりに違う常識だ。
「悲しくないんですか、ご子息でしょう?」
「うはは、ご冗談を。あやつが元服を迎え軍属に入った時点でそんな感傷は捨てとります」
ラモスはゲラゲラと笑った。
いつもと変わらないように。いつもより少し楽しそうに。
「……将軍は、嘘がうまいですね」
俺は笑えなかった。
ラモスの心にあるほんのわずかな機微に気づいてしまったから。
辺りを見回すと、いない。
広い会場を見回るが、一度も見ていない。
武官・文官、その家族たち。若い将校。
特に子供は多くいる。
しかし、彼が見つからない。
つい先日、兄を師を仲間たちを、そして今度は偉大な父を。
多くの身内を失ったばかりのあの少年が。
ローランがいない……。




