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乱世の転生者  作者: 情熱のデンプシー
第一部 乱世転生編  第1章 師弟
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ラモスと言う男


 次の日の午後、自室で本を片手にくつろいでいるとき、来訪者が現れた。

 

 またしてもラモスだ。今度は誰も連れていない。


 瞬間、警戒レベルをMAXにする。

 この男には気を許さないと決めたのである。


「これはこれは、珍しいところでお会いしますなぁ」


「ここは僕の部屋ですよ」


「だから、珍しいのです。殿下はいつも落ち着きなく駆け回ってますからなぁ」


「子供は風の子ですから。それで用件は?わざわざアイシャのいない時間帯を狙って来たんですから、何かあるんでしょ?暗殺とか、誘拐とか」


「相も変わらず察しのよい王子ですじゃ」


 ラモスはうははと笑う。やたら芝居がかった風に。

 警戒心でも解こうってか。


 実は用件はだいたい察しがついている。例の襲撃の時の一件だろう。




『気を失っている相手に催眠魔法をかけていかがするおつもりです?』


『血圧をさげるためです」


『……今儂が刀をあぶっているのは?』


『殺菌です」


『はあ、さいですか』




 …………。



 状況が切迫していたとはいえ、さすがにやりすぎた。


 明らかに腑に落ちない顔をしていた。


 あまりにも未知の単語。怪しすぎる。


 ひょっとしたら本物の王子とすり替わった、遠い国のスパイかなにかかとでも思われているのかもしれない。


(証拠はないんだ。知らぬ存ぜぬ、んな事ありましたっけ?で通してやる…!)


 俺は意を決して構える。


「例の捕虜たちはどうでしたかな?」


 ラモスの軽いジャブ。


「それなりに元気そうだったよ。世話になったね」


「そうですか。これで殿下には借りを返せましたな」


 ところで、とラモスはつなげる。

 さあ、こい。


「殿下の方にも借しが一つありましたな」


「へ?」


 俺がラモスに?


「ほら、イリーナ殿の意識がないときに、胸をもみしだいたり唇を奪ったりしたのを黙っとる事ですじゃ」


 …………。




「医療行為だあああああああああああああああぁぁぁっ!!!!!!!!!」




 何考えてやがるこのじじいっ!ただの心臓マッサージと人工呼吸だってのっ!?わいせつな表現をするお前の方がセクハラ…………あっ……。


 語るに落ちるとはこのことか……。

 もう知らぬ存ぜぬで通せない。


 ラモスはにんまりと笑う。


「なんとも珍妙な医療行為。用語もサッキンなりケツアツなり聞きなれないものばかり。終いには雷にも似たあの光。全てが奇天烈!のう殿下、そなたは一体何者じゃ?」


 ……室内に、おどろおどろしい殺気が充満する。

 肌がピリピリとひりつき、生物としての本能か、死を予感させられる。


 ……いや、死ぬのは肉体的な問題ではない。

 

 瀕死のイリーナに不埒を行ったと世間に流されれば社会的にも死ぬ。

 くそうラモス、俺はこの男に命を二つも握られている……!


 俺は慎重に答えた。


「ラモス、つまりさ、僕の正体は……」


「そなたの正体は……」


「超天才王子です」


 片手の本をパンッと閉じながらにやりと笑う。


「ほう、あくまで自分が考えたものじゃと?」


「もっちろん。そもそも師匠が偉大ですからね。天才少年に名指導者が加われば単なる足し算じゃ終わりませんよ」


「ほお、なるほどなるほど」


 その後、俺は何故あんな医療行為を思いついたのかをそれっぽく語る。

 

 実に穴だらけの論理だ。

 しかし、そこは子供の身。「あ、そこまで考えてなかったですメンゴメンゴ」とでも言えば苦しいながら筋は通る。

 

 そもそもラモスは生まれた時から俺のことを知っているんだ。

 聡明どころか超超天才王子だった、で十分に説得力はある。


 ひとしきり聞くと、ラモスは俺の肩に手をおく。


「なるほどなるほど。面白い、実に面白い」


「納得いただけて幸いです。間違ってもセクハラなんて言いふらさないように」


「それは殿下の今後次第ですじゃ」


 そこまで言うと、ラモスは一足離れて、



 すぱっ!



 一拍遅れて息をのむ。

 

 刀による一閃。


 気づくと俺の手に持った本、「エメラルド国格闘技大全」は縦に向かって真っ二つ。

 本のページの数々は風に流されひらひらと舞う。


「ひとまず納得いたしましょう。正直なところ、そなたが我が国にとって利の多き王族であるならば、些末なことはどうでもよい。しかし、もしエメラルド国に害をなすものであらば、今度はこの一閃……殿下の首に向きますじゃ」


 冷たい刀身が、首筋に触れる。


「そのことを、ゆめゆめ忘れる事の無きように」


 ほほほ、と声を上げ、ラモスは去っていった。


 実に愉快そうに。

 主家を斬ることに、一切の躊躇いのない眼を向け。


 またしても俺は油断していたようだ。



 この世界では、命は軽い。



「っぷはあ……」


 冷汗がとめどなく溢れる。

 鼓動の音で、耳鳴りが起きる。


「本当に嫌だなぁ、乱世って……」


 ここまでくると笑うしかない。

 いつ死が訪れるのか分からない、そんな時代か。


「ほーい王子ぃ、ちゃんといい子にしてましたかん?……ん……ちょっとおおおおおお、それ私があげたプレゼントぉぉぉぉっ!!」


 すぱんっ!ぼこぼこっ!


「……なんかもう、やんなっちゃうな」


 アイシャの誤解を解くのも面倒で、俺は枕を濡らしながらふて寝した。




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