目が覚めると、
「おはようございます」
いつの間に眠っていたのだろうか。
白いシーツの中で目を覚ます。
(病棟?)
城内の病棟だ。
軍の上級官職や要人などが入院する場所。以前忍び込んだことがある。
半覚醒状態のぼやけた頭でそう思う。
えっと、俺は何でここにいるんだ……?
整理しろ、こんな時こそ言語化だ。
ここが病棟なのは間違いない。
真っ白なシーツ、あけっぴろげな窓。風邪でゆらめくカーテン。ほほ笑むイリーナは松葉杖をついている。
……確か俺は、敵をおびき出す餌にされて、イリーナが死にかけて、電気治療を試みて……
「ってイリーナぁっ!?」
俺は野球投手のワインドアップのように大きくばんざいをする。
「なんでっ……ええっ?……夢?」
動揺する俺を見て、イリーナはくすくす笑った。
「……身体は大丈夫なの!?」
「右手の拳は複雑骨折、左膝は靭帯が凝り固まって曲がりません。内臓も傷んでいるそうで、完治まで3か月はかかるそうです。あとなんかビリビリします」
大怪我じゃないか。
これだけ複雑な症状の完治となると、治癒魔法もお手上げだ。
全て俺を守るために負った傷だ。
謝ろうと思った。
でも、すっきりとした表情のイリーナを見ると、それはなんか違う気がした。
「ありがとう」
「それはこちらのセリフですよ」
そう言って、俺たちは笑いあった。
*
「僕、3日も寝ていたんですか!?」
「ええ、普段味わわない疲労にストレス、一番大きな要因は初めて経験する魔力切れですね」
オリジナル魔法か。
心肺蘇生器具であるカウンターショックを再現しようとした魔法だが、確かにあれを使った後は記憶がない。
他の魔法と比べ、けた違いに燃費の悪い魔法のようだ。
「一度止まった心臓を動かすなど、古今東西聞いたことがございません。素晴らしい魔法を生み出されましたね」
「いや、一回使っただけでこれじゃあ使えたものじゃないですよ。もっと研究しないと」
「お手伝いしますわ殿下。効率の良い論理式を考えましょう。幸い、完治まではここにおいてもらえるそうなので」
「え、本当ですか?」
そんなことを話していると病室の扉が開いた。
げ、ラモスだ。
珍しく付き人がついている。
それなりに上級官職の軍人・文官たちがぞろぞろと入ってくる。
「おお、王子殿下。これはこれは。眼を覚まされましたか」
「……なんの用かな?」
俺は毛を逆立てた猫のようにつんけんした様子を見せる。
こいつ嫌いだ。
ラモスはあの時あっさりとイリーナを見捨てようとした。
どの面下げてイリーナの前に現れたのか。
と、俺はこの世界に生まれて初めて人に敵意を向ける。
「いえ殿下には用はないんですけどね、イリーナ殿に用があってまいったのです。専用の病室にいないのでここかな、と」
俺の悪態をひょろっと避けてイリーナに向かう。
「私にですか?」
「ええ、見舞いにと思い。事後処理に追われてなかなかこれませんでなぁ。お加減はいかがですかな?」
ラモスはにこにことほほ笑む。
「良いわけ無いでしょ!あんなに無茶したんですからっ!まあ、それでも?誰かさんの言う通りに見捨てていたらお加減どころじゃなかったですけどね!」
「全くもってその通りですじゃ」
苛立ちをかくさない俺の挑発。
いつもなら相手にしなさそうなラモスだが、どこか様子がおかしい。
よこらせ、と座り込むラモスに拍子抜ける。
嗤いながら人を斬る。
6歳児に社会勉強としてヒトの死にざまを見せつける。
死にかけているイリーナをあっさりと見捨てる。
普段からのつかめない性格といい、俺にとっての恐怖の対象である超絶サイコパスの彼だが、どうしたことか。
いつになく真剣な表情を見せる。
「殿下のおっしゃる通り、儂の見立ては間違っておりました。イリーナ殿、儂はそなたを見殺しにするところじゃった」
ラモスは、深く息を吐くとゆっくりと頭を下げた。
「このたびは申し訳ござらんかった……!そして、国を代表して申し上げる。我が国の王子殿下をお守りいただき、誠にありがとう!」
「うそぉ」
俺は声を上げて驚く。
醜悪、サディスト、サイコパス、3Sのラモスが謝った。
何と感謝まで伝えた。
いつもすっとぼけている、この男が……。
気づけばイリーナもひどく慌てている。
彼女にしては非常に珍しく、ラモスに続いて跪く上級官職たちに、おろおろと伝える。
「あ、頭をお上げください、皆さま!私のような雇われ風情にこの態度。誰ぞに見られたら何と噂されるか……」
「主家の恩人に頭を下げて、何の恥がありますじゃ。そなたはそれだけのことをして下さったのです。後日、宰相の方から正式に表彰いたすそうです。どうぞ、怪我が治るまで、我が国にてごゆるりとご滞在を」
そこまで言うと、ラモスは立ち上がって背を向ける。
「殿下にも、此度のことで借りができましたな」
そう言ってラモスは去っていった。
軍人・文官たちもぞろぞろと後に続く。
ぽかん、とする俺たち。まるで嵐が去っていったように。
「な、なんか意外でしたね。裏があるんじゃないかな」
そう言う俺に、イリーナはくすりと笑う。
「もともと、悪い人ではありませんよ。普段は少しばかり照れ屋なだけです」
あの3Sを照れ屋とは、我が師匠の懐の深さには恐れ入った。
あ、でもあれか。イリーナは300歳すぎで、ラモスよりずっと年上になるんだ。
イリーナから見たら、ラモスも可愛いお子様に見えるのかもしれない。
「お・う・じぃぃいいいいいいいい!!」
次に入ってきたのはアイシャだ。
入ってきたというより飛び込んできた、が正しいか。
「王子王子王子ぃっ!!眼を覚ましたんですねぇっ!!もう、心配かけさせんなやバカーっ」
くしゃくしゃに涙を流し、アイシャが俺を抱きしめる。
もんのすごい力で。
骨がミシミシと音を立てる。
「ふふふ、私もやられました」
それは、傷んだ内臓に悪そうだ。
しかし、イリーナは嬉しそうにほほ笑む。
また、3人で集まることができて本当によかった。そう口ずさんで。




