幕間 ――バルフォアに迫る危機
王都セントクロヴィス。
城下町には様々な店が建ち並び、華やかな一方――
同時に、激しい競争にさらされる街でもあった。
「――バカタレ! なんじゃこの質の悪い素材は! わしは『火竜の鱗』を取ってこいと行ったんじゃ、『トカゲの皮』などお呼びでないわ!」
そんな王都の一等地に店を構えている、『錬金鍛冶工房・バルフォア』。
この店は今、存亡の瀬戸際に立たされようとしていた。
「む、無茶苦茶言わないでください親方! 火竜なんて、職人見習いの俺らじゃ無理ですよ! 冒険者を――それも、S級レベルを雇わないと!」
「バカタレ! この程度の素材にいちいち冒険者なんか雇っておったら、みるみるうちに赤字に転落するわ!」
店の主であるバルフォアは、若い店員を厳しく叱りつける。
時刻は昼間、まだ客も多い時間だ。
客前だろうと平気で怒鳴りつけるバルフォアに、客は不快感を示し店を離れる。
そして――
「……くそっ、もううんざりですよ、あんたの無茶苦茶な方針には! 俺らはもう、この店をやめさせてもらいます!」
客前で叱られ続けた店員も、限界を迎えていた。
「な、なんじゃと!? 今、急に……それも、一斉にやめられたら――」
「『王国の盾』の納品に、間に合わなくなるんでしょう? 知ってますよ、だからこそ、今やめるんだよ!」
「ぐ、ぐぬぬ! こやつらぁぁ!」
バルフォアの横暴に耐えかねてか、若い店員らは共謀していたのだろう。
大事な時期に、ボイコットが発生してしまったのである。
「親方が態度を改めるっていうのなら、しばらくはまだ残ってやってもいいですよ」
リーダー格と思われる、筋骨隆々の店員が代表で話を進める。
まだ交渉の余地は残されている。
バルフォアが譲歩すれば傷は最小限で済みそうなものだったが――
続くバルフォアの言葉は、それを踏みにじるようなものだった。
「残ってやってもいいじゃと!? 足元を見たつもりかバカタレ! わしの店は超一流の店で、羨望の店じゃ! 貴様らごときの腕の働き手など、すぐにでも補充できるわ!」
「こ、このっ……好き勝手言いやがって!」
リーダー格の男は感情が昂ぶり、暴力に訴えようとしたが、他の仲間に止められた。
悔しそうな顔を浮かべる一同。
一泡吹かせてやるつもりが、かなわなくなりそうだった。
「やめたければやめればええ。わしは止めん。使えない店員に代わって、使えそうな店員を雇うだけじゃ」
「くそ、くそっ……言われなくとも、やめてやりますとも」
若い店員らは悔しそうな顔を浮かべる。
一方でバルフォアは、薄ら笑いを浮かべ、余裕を見せる。
そして最後にバルフォアは、一言放った。
「フン……これじゃから、最近の若者は使えないんじゃ」
――屈辱的な言葉だった。
自分の人格だけでなく、仲間までバカにされているような、そんな言葉。
「次はもう少し年のいったヤツを雇うかの。今の若者は、知恵もなければ、甘ったれが多くて話にならん」
「ち、ちょっと、ハンク!?」
そんなセリフを耳にしたリーダー格の男――ハンクは、仲間の制止を耳にしながらも、ズンズンと、バルフォアに迫った。
大きな体に迫られた老人のバルフォアは、少し怯えつつも、こう言う。
「なんじゃ、このわしを殴るのか? 勇者の剣を作った、人間国宝様じゃぞ?」
「この……クソジジィ……!!」
ハンクは腕を振りかぶるところまでいったが、こらえた。
「やめときなって!」と、ハンクを止める若い女性は、恋人だろうか。
その言葉のおかげで、ハンクは踏みとどまれたのかもしれない。
「おまけに根性もないときた! 最近の若者が使えんわけじゃ!」
「ああ……俺は根性なしだ」
ハンクはバルフォアに背を向ける。
若い店員らも全員、この店を去る意思を見せる。
「だから……根性なしのやりかたで、やり返してやる」
「フン、なにを言っていることやら」
それが意味することを、バルフォアは間もなく理解することになる。




