錬金術の出来ることと、出来ないこと ②
「じ、人体も錬成出来るだと……!? や、やめろ、俺の腕になにするつもりだっ!」
「言ったろ、俺の技術を解説するって」
ジーノ製の椅子に座らされていたネイトは、胴の辺りを紐でくくられ、両手も椅子に固定されていて、ほとんど身動きが取れなかった。
ジーノに片腕をつかまれたままのネイトは、その言葉の意味することに、恐怖する。
オーラの宿る腕で、物から物へと様々に作り替えた男。
そんな技術を持つ男に腕をつかまれたら――
「や、やめろ、やめてくれぇぇっ!」
ネイトは、椅子が倒れるくらいに暴れた。
やがて本当に倒れると、床に顔を擦りつけながら、惨めな姿で逃げようと足掻いた。
「……リリィもそうやって逃げたのか? 自分が今、お前と同じことをしていると思うと、気分が悪い」
「立て」と、なめくじのように逃げようとするネイトを、立たせるジーノ。
ネイトはもはや恐怖に屈していて、こちらをまともには見られなかった。
ジーノはそんなネイトに、こう言った。
「俺の技術は、物を錬成する技術だ」
片腕をつかむことをやめていたジーノだったが――
もう一度、ネイトの片腕をつかんだ。
「ひ、ひぃっ!」と、ネイトは再び恐怖に襲われる。
「な、なんでも作り替えちまう技術なんだろ……!? それで、ぶっ壊れたギルドも元の姿に作り替えたってんなら、俺の腕だって!!」
「そうだな。今ここで技術を発動させれば、お前の腕は別のなにかになる」
暴れて逃げようとするネイトを、今度は逃がすつもりはないと、離さないジーノ。
ジーノは解説を続ける。
「なにかと言っても、なんでも出来るわけじゃない。木から鉄は作れないように、素材に即したものを、俺の意志で形作るといった感じだ。だから俺が今、お前の腕を肉塊に変えようと思えば、お前の腕は肉塊に成り果てる。――大きな苦痛とともにな」
「一瞬で完成するわけじゃないからな」と、ジーノは恐怖を煽るように補足する。
一拍おくと、こう言う。
「大抵のものは作れるし、治せるんだ」
それを聞いたネイトは、顔をぐしゃぐしゃにして泣き叫んだ。
「わ、分かった、何でも治せるの分かったから、やめてくれぇぇぇっ!」
「なんでも? ……お前は、何も分かっていないな、ネイト」
無表情の男は、それまでの呼び方をやめていた。
この男もクリスティーナと同じく、キレているからだ。
椅子から立ち上がると、ネイトの首根っこをつかむ。
椅子に縛られたままのネイトを、片手で椅子ごと持ち上げた。
そして――叫んだ。
「直せないんだよ、リリィの小説は! 俺の錬金術じゃあ、彼女の作った物語は!!」
本当に悔しそうに――ジーノは叫んでいた。
首根っこをつかむ手に力が入り、オーラが強く揺れ動く。
「俺はリリィの小説を読んでいなかったし、読んでいたところで、ちゃんと戻せる自信なんてない。紙という道具は直せても、そこに書かれた物語を紐付けて直すことはできないんだ……。俺の力はなんでも治せるわけじゃないんだよ、ネイト。欠陥だらけで、万能なんかじゃ、決してない」
ジーノは椅子を――ネイトを床に下ろす。
「お前の体を作り替えたり、真祖の呪いから人を治すことは出来ても――リリィが書いた物語を元に戻してあげることは、錬金術じゃあ絶対に出来ないんだ」
感情を表に出さない――いや、出せないジーノだったが、彼は悔しかったのだ。
それまでは簡単に人を救っていた彼でも、出来ないことがある。
リリィの小説はもう、戻せない。
だから悔しくて悔しくて――それを、冒険者たちに八つ当たりしたのである。
「わ、悪かった、悪かったから……腕を改造するのだけはやめてくれぇ……」
「人間を素材に使うな、生きたままの生き物を素材に使うな。――人の道を外れるな。旅先でよく会う人の教えだし、真祖のようになるのは御免だからな、本当に肉塊にするつもりなんてない」
掴まれている部位などすでになかったが、ネイトは泣いて哀願した。
ジーノは最後にこう言う。
「洞窟で俺は、次はないと言った。これからリリィに謝りに行こう、一緒に。そのあとは、彼女が決める。――それが俺からの譲歩だ」
S級冒険者一人を含む、冒険者五〇人。
ジーノはたった一人で、この戦争に勝つのであった。




