ジーノVS真祖 ② ――古の錬金術師と、無職の錬金術師
今や城とはいえない建物の中。
上の階からはジーノが。下の階からは真祖が、視線をぶつけ合っていた。
「不可思議な道具を作る技術……貴様も、錬金術師だったか」
「も? お前も錬金術師なのか」
自慢の技術をやぶられた真祖だったが、その態度にはまだ余裕があった。
首肯した真祖が答えた。
「フ……もういつの時代だったかも覚えていない昔の話よ。貴様の両腕で作り出すやり方があまりにも型破りでな、今ごろ貴様の正体に気づくとは、余も耄碌したものよ」
「そうか。残り二時間を切っている、早く灰になれ」
ジーノは片手で地面に触れる。
石の杭が真祖を襲う。
真祖は、よけることをあきらめたかのように、そのシンプルな攻撃をくらっていた。
「なんだ、あきらめたか――ん、ここは……」
「フフ、まだ戦いをやめるつもりはない。貴様を案内したかったのだよ、余の錬金工房に」
壁をぶち破った真祖を追うジーノは、ある部屋に導かれていた。
真祖がかつて研究に明け暮れていた、錬金工房だった。
「どうだ、〝無色の錬金術師〟、余の錬金工房は」
「ここが錬金工房? そうは見えない」
「フ、確かに、ある研究を成功させて以降は、錬金術を追うのにも飽きてしまったからな。使われなくなって、ほこりにまみれている」
「そうじゃない。ここは――」
いつの時代かも分からぬ古城の一室。
誰も使った形跡がないから、ジーノには工房と見えなかったのか。
「拷問部屋だろ」
いや――違う。
錬金術をするには、並ぶ道具が常軌を逸したものばかりだったからである。
「人体を切断するノコギリに、血を吸い出す鉄の処女。なにを言う、これこそ余の錬金工房――ヴァンパイアの真祖が生まれた、究極の実験施設よ!」
真祖は両腕を広げて、興奮気味に言った。
「錬金術師がなにかを生成するには、ツールが必要だろう? 余のツールはこれら――貴様がいう、拷問器具なのだよ。そして――」
腕をおろしていた真祖は、反して静かにこう言った。
「余が使っていた素材は、生きた人間の体と、その人体」
ジーノは静かに真祖を見る。
一つ、たずねる。
「それでお前は、なにを作った」
「永遠の命」
短く答える真祖。再び、興奮を隠さずにこう続けた。
「そうだ、余は研究に成功した! 多くの人間を調達し、消費し、ゴミに変えたものの、余は今も生き続けている。老いもしていない!」
残虐な行為。
そんな残虐な行為を聞かされていても、ジーノはただただ無表情に、真祖に視線を送るだけ。
「もう気づいているだろう、余は元々は錬金術師で、そして脆弱な人間でもあったのだ。フフ、つい長話をしてしまった。久しぶりに――実に数世紀ぶりに錬金術のことを語れる同業者に巡り会ったのだ、懐かしき時代よ」
どれほど昔を思い出しているのか、真祖は語った。
黙って聞いていたジーノが、口を開く。
「お前は、人の道を外れた、ということだな、〝古の錬金術師〟」
ジーノは無表情のまま、こう続けた。
「俺は今、怒っている」
「なに……?」
怒っている――その割りに無表情だったジーノを見て、真祖は不思議に思う。
ジーノは、ある人の言葉をを思い出しながら語る。
「人間を素材に使うな、生きたままの生き物を素材に使うな――。旅先でよく会う人に錬金術を教わったとき、俺はそう叩き込まれた。お前は誰かから学んだとき、そう教わらなかったのか」
「教わった。実にくだらんと思った。それだけだが?」
ジーノはそれを聞き、無表情だが――怒る。
「〝人の道を外れるな〟。俺はあの人にそう教わった。その理由がよくわかった。――真祖みたいになるからだ!」
彼の眉がわずかにつり上がった。
炎のような両腕のオーラが、激しく揺らぐ。
ジーノは拷問器具を素材に杭を作り出し、真祖を押し潰さんとする。
「く、勢いを増して――型破りな錬金術師め! 技術・時間停止!」
真祖は隔絶された時間の中で動き、ジーノの首を落とそうと狙いをつける。
この男を拷問にかけることは、もうあきらめていた。
「――もう一つ聞かせろ。どうして少女だけお前自らが噛みついた」
時間が動き出すと、ジーノはどうやってか反応し、回避していた。
真祖は、恍惚な表情でこう答えた。
「余は、幼女の肢体が大好きだ」
古の錬金術師と無職の錬金術師。いよいよ決着が訪れる。




