22-①新たな日常が始まる
次の日の放課後。グラウンドには、練習着を着たユウキの背中が見て取れた。
ユウキが停学を言い渡された直後から吉川は独自に調査をはじめ、その日の午後には現場であるファミレスのオーナーに防犯カメラの閲覧の許可を得ていた。吉川の持ち帰った映像はその日のうちに審議にかけられ、彼の嫌疑は無事、晴らされたのだった。
幼馴染の元気な姿を見ながらアカネは校門を跨いだ。審議中、彼女の名前が出されることはなかった。登校しても担任は昨日の出来事などなかったかのように接してきた。
「アカネ」
彼女を見つけるなり、ユウキは駆け寄ってきた。
「おかげで停学しなくてすんだよ」
彼はいつものヘラヘラ顔に戻っている。
「私は何もしてないし」
歩幅を緩めずそっぽを向いてしまう。
「いや、お前がいなかったら昨日の時点で諦めていたし」
「解決したのは吉川じゃない」
「俺、本当はお前が話を付けてくれていたことも知ってるんだ」
立ち止まると、彼はすべてを知ったような顔で頷いて見せる。
「結局、私なんて何もしていないことになってるし」
「俺のために動いてくれたじゃないか」
その言葉に少なからず喜びを感じるも、彼女はそんなところなどおくびにも出さない。
「なあ、今週の試合の選抜に選ばれたんだ」
「へえ、それはおめでとう」
興味なさげに言いながら、心はひどく躍った。
「見にきてくれる」
「なんで?」
彼女の問いに、今度はユウキが首を傾げ、考えだしてしまう。
「あんたなんて、通学路が一緒なだけだから」
そんないつもの彼の雰囲気に彼女は微笑みながら、突き放した言い方をしてしまう。
「でも」
それでもアカネは思い切って振り返り、
「時間があったら見に行ってあげてもいいよ」
と笑った。
幼馴染という関係が心地よく、でも、そこから何かが始まろうとする予感にアカネは少なからず心が躍った。
私は上手く笑えているだろうか。ユウキの前で素直な自分を少しでもだそうとしたアカネに、彼はいつもの笑顔で応える。
校庭では金属バットがボールを弾く軽やかな音がした。放物線を描きどこまでも飛んでいく白球の行方を、二人は揃って追いかけたのだった。
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