第17話 名前を考える
1週間が経った。村からの道作りは順調に進んでおりこの調子ならじきに街道に辿りつくだろうと村人は予測していた。
ここ最近は毎日キャンプをしていたがマジックアイテムの特訓や空いた時間に村人たちに色々と教えていたのでなかなか充実した毎日だった。まあひと月以上こんな暮らしをしたらさすがに飽きるだろうがこのくらいの日数ならば楽しく過ごせる。
しかしマジックアイテムの訓練は意外にもつまずいていた。『蝙蝠の音を拾う者』を使っての周囲状況の把握は半径200mを超えたところで止まってしまった。そう言うのも脳の負担はさほど問題はないのだが得られた情報をうまく扱えないのだ。
反響した音波を脳内で地図化すると細かい草や鳥などの情報が入ってくる。その情報を全て一度に解析するのは不可能に近い。半径200mの鮮明な地図から1羽の鳥を探そうにも他の情報が多くパソコンを使いでもしない限り情報を扱えないのだ。
なので今は探知範囲を限定しその中の情報を限りなく全て把握し利用できるようにする訓練を行っている。おそらく不可能かもしれないがこの経験は他のマジックアイテムでも役に立つはずだ。ならば少しでも頭を慣れさせておくべきだ。
探知系のマジックアイテムの使用に関しては別に情報を解析できるようなマジックアイテムを作成する必要があるだろう。そんなマジックアイテムなどこれまで必要としていなかったためゼロからの開発だが何とも面白そうでありやりがいのある作業だ。
それと最近の練習で『神殿の世界樹』を自在に操れるようになってきた。一番扱いの簡単な世界樹とはいえ命令を与えるのではなく自身で直接動かすことができるようになったと言うのは嬉しい。しかしまた動かせるのは一本だけ。しかも動かしている間は動かすことばかりに注意がいってしまい自身が動けなくなってしまう。
しかしこの一歩は大きい。魔法を自身で直接細かく操作すると言うのは高ランクプレイヤーにとっては必須の条件。ただひたすらに命令だけを与え細かい動きをAIに任せたプレイヤーというのは格好の獲物だ。
AIに細かい動作を任せるというのは序盤などでは全く問題はないが徐々にどのプレイヤーもAIの癖となる動きを見つけてしまい対処方法が確立してしまうのだ。そうなるとマジックアイテムによる魔法の全てがただの陽動や目くらまし程度にしかならない。
なぜこんなことが可能になったかというと道路造りのおかげだ。正直なことを言えば道路なんて一瞬で作ることが可能なので特に意識することなど何もない。道路に関しては既存の作成までの全ての術式と動作を一つにまとめてあるので発動すればあとは作りたいと選択された場所に自動的に作成される。
しかしそれをわざと一つ一つ自分で術式の制御や発動範囲など行っていたので作業がかたつむり並みに遅かった。制御はある程度職業スキルによる補正によって簡単だったがそれでもやはり慣れない作業ということで順調にはいかなかった。
それに道路の構造にも問題があるだろう。わざとめんどくさいものにしたのだ。道路は赤レンガ調のおしゃれな作りにした。しかしレンガとなると土台の部分もしっかりとしておかなければならないので2重3重に面倒だった。
まあそのおかげでマジックアイテムの制御がうまくなったのなら文句はない。今も下地を作った後にレンガを一つ一つ作成し並べていっている。正直この作業は世界樹などを操作するよりも楽だ。何というか自分の手足のようにまではいかないがそれに近いくらいには扱えている気がする。
今もレンガを複数作成しながら出来上がったものをどんどん並べていっている。木こりが道を開くペースとほぼ同じくらいまでには成長した。初めの頃はみんなが寝ている間に作業を進めて追いついていたがこの調子ならそのうち暇ができそうだ。
「旦那の魔法はいつ見ても鮮やかですよねぇ。さすがですわ。」
「こんなもんじゃまだまだだな。こんな遅い速度じゃ実戦では何の役にも立たん。」
「実戦って…むしろ実戦にはこれ役に立たないでしょ。」
「役に立つぞ。例えば軍が行進するときにぬかるんだ道を整備したり巨大な兵器を運ぶためにしっかりとした地面が欲しいときなんかには重要だぞ。むしろそれで戦争が決まる可能性もある。」
「…旦那は戦争でもする気ですかい?」
不安そうに聞いてくる。周囲で聞いていたものも気になるのか動きを止めた。若干の静寂ののちに俺は答えた。
「やだよめんどくさい。勲章に興味はないし。それよりも商売でもして儲けた方が何倍もいい。この作業だって商品の配達に役に立つからやっているだけだ。これは商品を積んだ馬車がやられたときに道を作って逃げるのにも使えるだろ?それも実戦だからな。役に立つこと間違いなしだ。」
「へへっ。旦那らしいや。」
皆安堵した表情で各々の作業に戻る。どうやらこの理由で納得したようだ。まあこの理由も間違ってはいない。間違ってはいないのだがもっと大きな理由は他プレイヤーとの戦闘のためだ。
一つでも引き出しが多い方が戦いに勝つからな。それにプレイヤーの中で戦争を引き起こすような奴がいた場合…俺自身も戦争に巻き込まれる場合があるからな。だったら道路作りは役に立つ。
その日の作業が終わり夕飯も食べ終えた頃いつものように寝る前の歓談をしているときにある質問をされた。それは俺が今まで決められていなかったことだ。
「そういやぁ…いい加減旦那の名前教えてくださいよ。」
「俺の名前かぁ…前にも言っただろ?本名はこの辺りの言葉ではうまく言葉にできないんだよ。」
そう俺の名前である。今まで俺の名前はここいらの言葉では表しにくい言葉だと言ってごまかしてきた。正直とっとと決めればよかったのだがせっかくの新しい名前である。少し考えておきたかったのだ。まあ考えすぎて今でも決められていないのだけれど…
「そうは言ってもねぇ…どうせ街に入るときには名前や身分証明が必要ですよ。」
「あ…それもそうか。商売する上でも名前はいるしな。」
すっかり忘れていた。いい加減先延ばしにしていたこの作業もいい加減終わらせなければ。名前の候補はいくつもあるけどどうしようか。本名はここに日本人がいるとバレて他プレイヤーと問題が起こる。プレイヤー名も知っている人間がいる場合もあるので却下。
どうせだったら仲の良いプレイヤーにならわかるような名前がいいかもしれない。そうなるとあだ名だな。俺のあだ名もいろいろあったけど一番みんなが使っていた、もしくは仲の良い奴だけ全員知っているあだ名。そうなると…
「クロ。」
「え?」
「クロだ。うん、俺の名前はクロ。今後はそう呼んでくれ。」
「いいんですかい?何だかペットにつけそうな安直な名前ですけど…」
そう言われるとそうかもしれない。犬や猫につけそうな名前だ。まずいかな。しかしこれならもしかしたら気がつく奴もいるかもしれない。それになんか可愛らしくていいだろ。呼びやすいし。みんなにフレンドリーに呼んでもらえるような名前だからこれでいいだろ。
「いいさ。俺が決めたんだ。苗字はなくていいんだろ?別に俺は貴族でも何でもないし。」
「そうですね。大体のやつは村の名前とかつけているんで旦那も俺たちと同じようにハンガってつけとくと入国が楽ですよ。」
「そうか。ならそうしよう。俺の名前はクロ=ハンガか。何だか変な名前だな。」
思わず笑い出す。それにつられてみんなで笑い合う。モンスターが出る森の中だというのに随分と呑気なものだ。普通なら気をつけて皆静かにする。しかし同行してきた彼ら全員がレベル30近くありこの辺りのモンスターでは動じなくなってきた。
木を切っている間はどうしても音が出るため周囲のモンスターが寄ってくる。その度に撃退したため経験値がどんどん稼げるのだ。とはいえモンスターもレベル10付近。彼らもレベル30以上にはそう簡単に上がらないだろう。
それから3日後とうとう村からの道は街道に到達することになった。




