第79話 救出作戦(3)
一体何者なんだこやつらは…!
守備隊長は舌打ちした。
敵は前衛2名、後衛援護2名。こちらは自分を含めて5名だ。
残りの敵は奥へ進んでいってしまった。
自分達の役目は目の前の敵を倒し、こいつらの仲間を追う事だった。
向かってくる奴等は隊商のメンバーの様だった。
こんな奴ら等、すぐに倒せる。そう思っていた。
だが現実はどうだ?
敵の前衛の内一人は部下4名を同時に相手をしていた。
部下も自分ほどではないにせよ、それなりの手練れなのだ。
それなのに敵一人を打ち倒すことが出来ない。
後衛の一人が解放した呪文書の効果もあろう。
敵の前衛一人もかなり強い、だが後衛の射手の援護が的確だった。
また部下が一人倒れた。急所は避けて射ているようだが、何かしびれ薬でも塗っている矢なのだろうか?
それよりも、だ!
目の前のいるこの剣士は何者だ?
先程はかなりの剣速の攻撃を受けた。
何とか受け流すことが出来たが、かなりギリギリだった。
今こいつは再び剣を収めている。剣を抜くタイミングを狙っているのだろう。
「おじさん、結構お強いですね。結構本気で剣を抜いたんだけどなぁ。」
声が高い。顔は隠しているが背は小さいし、恐らく女なのだろう。
それも、結構若そうだ。
「ふん…、褒められてる感じはせんな。俺はこれでもマルゴワールでは上位だと思ってたんだがな。」
ドサ!
その時、最後まで戦っていた部下が倒れた。
「お仲間は眠らせているだけですから、心配いらないですよ。」
「ち…。それは俺も眠らせるとても言いたいのかな?」
「そうですね。死にたくなければ気絶してください?」
「馬鹿にしおって…!」
守備隊長はその刹那、渾身の剣撃を繰り出した。
しかし…!
その敵はふわりと攻撃を躱した。
驚くべきことに振り下ろした剣を足場にするように飛び越えていく。
「では失礼…!」
剣が背後から振り下ろされた。
ドガ!
みねうちで無ければ首が胴から離れていたであろう。
強い…!
守備隊長は苦悶の表情を浮かべながら何とか後ろを振り向いた。
こ、このお方は…!
守備隊長は崩れる様にその場に倒れた。
「ふう!」
俺は剣を収め、息をついた。
10分が経過したのだろう。呪文書の効果も切れたようだ。
この戦い方であれば、ケヴィンの変装魔法が掛かっている状態でも戦うことが出来た。
もっとも呪文書の効果時間が1枚あたり10分程しか持たないから、継戦能力は高くない。
残りは2枚だから、大事に使わなければならない。
「みんな、お疲れ様。大丈夫だった?」
「僕はカールへの呪文書の発動係で、特に何もしてないからね。」
アルフレッドが肩をすくめた。
「え、でもアルフレッドが撃つタイミングとか言ってくれたから狙い易かったよ。」
「まぁそれはカールが上手く敵を止めてくれてたからさ。」
「えへへ。」
ふむふむ、このフォーメーションは中々上手く機能したようだ。
俺は小さく頷いた。
あの守備兵の人たちは中々手練れだったと思う。
隊長さんは冒険者にしたらBランク上位、つまりロイくらいはありそうだった。
さて、お兄様のほうはどうなったかな?
そうしているうちに、奥から兄達が戻って来た。
「お戻りになりましたか、お兄様。」
俺は兄を迎えた。
「・・・」
兄はチラッと俺を見た。
「…お兄様?」
「あ、ああ。ご苦労だったなアルエット。」
「い、いえ。お父様はご無事でしたか?」
「うむ、今部下が運んでいる。心配は無用だ。」
奥から父王ヘンドリクセンを背負った部下が現れた。
父王は眠っているのか、意識がないようだ。
「・・・」
俺は運ばれている父王の姿を見送った。
「さて帰るぞ、アルエット。事が大きくなる前にな。」
「は、はい。」
兄ギュスターヴは俺を一瞥し、城の出口の方に歩いて行った。
「・・・」
俺は兄の姿、というか雰囲気に少し戸惑いを覚えた。
何だろう、何か違和感を感じる。
違和感の理由、この時は分からなかったが、それはこの後を大きく左右するものであった。




