第72話 “疑念”
「聞きたい事だと? 何だ、言ってみろ。」
ギュスターヴが椅子に深く腰を下ろしながら言った。
「お兄様はご存知かも知れませんが、今日まで私達が乗船していた船では冒険者パーティのリーダーが殺害されました。」
俺はバルデレミーをチラッと見た。
表情は変わらないように見えた。
「・・・」
「その人物はロベール。何者かによって斬られたようです。」
「それが、どうかしたのか…?」
ギュスターヴが少し怪訝そうな顔になった。
「死因が剣による斬殺ということで一部の人間が私に疑いの目を向けているようですが、私が言いたい事はそこではありません。」
「どうにも、回りくどいな。」
「すみませんお兄様。ですが、最後まで聞いてください。私の仲間には自らに向けられている“呪い”を探知できる仲間がいます。その仲間によると私達が船に乗り込んでからずっと“監視の目”を感じていたそうです。」
再びバルデレミーを見た。特に表情の変化は無いが、視線は俺に合わせることは無い。
「私はそれをロベールが殺されてから知りました。そこで私はその仲間に頼んだんです。」
「…何をだ?」
「“私達以外のパーティ”が監視されているのか? を確かめる事です。私の仲間が正体を隠して他のパーティに紛れ込むことで、もし監視されていれば仲間がそれを感じ取ることが出来ます。」
「アスカ…、俺達のパーティにもそれをやったのか…?」
フェルディナンが俺の方を見た。
「悪いけど、ね。」
「しかし、正体を隠して紛れ込むなんざ…」
「その仲間は実体が無い、精神体なんでね。…それで結果ですが“監視されているパーティ”はイアサントパーティと私達で、ノエルやフェルディナン達は監視の目は無いようでした。それは何故なのか? 今日この場を見て納得しました。」
俺は兄達を見渡した。
「監視しているのはバルデレミーさん、貴方だ。だがノエルとフェルディナンは元々協力者であるから監視の必要は無い。イアサントや私はそうではないから、監視しなければならない。違いますか?」
「・・・」
バルデレミーは何も答えなかった。
「…それではロベールパーティはどうか? 私は恐らくロベールパーティも監視されていて、ロベールの死後はその必要は無くなった。そう考えています。そしてこれも私の想像ですが…」
俺は再び、兄ギュスターヴを見た。
「お兄様、貴方はバルデレミーさんと繋がっていてレオポルドお兄様に反抗する力を集めている。そして協力者であるノエルとフェルディナンがここにいる。ロベールはレオポルドお兄様側の人間だから殺された。どうでしょうか、お兄様。」
「ふふふ…」
ギュスターヴは表情を崩した。
「全く、お前は大した奴だよ。」
「殿下…!」
バルデレミーが顔をしかめた。
「その通りだよ、アルエット。俺がバルデレミーに命じていたのは、信頼できる協力者を探せ。そうじゃない者が近づいてきたら始末しろ。というものだ。」
ギュスターヴは立ち上がった。兄は長身で逞しい。
俺は兄を見上げた。
「もし私が先程のお兄様の頼みを拒むと言ったら、私も殺しますか?」
「…何?」
「確かにレオポルドお兄様の考えはとても危険で、この地域を戦乱の中に陥れています。それに対抗して祖国を元の姿に戻そうとしているギュスターヴお兄様の考えも理解できます。ですが、それに私が協力することによって、私の仲間も戦乱に巻き込まれますし、私の恩人のケヴィン…ベルクールも巻き込まれてしまいます。」
「・・・」
「ですから私一人の考えで、その判断を下すことが出来ません。そしてもしお兄様が強制しようとするののなら、私は仲間を守る行動をしなければいけません。」
俺は右手で剣を触った。
「・・・!」
ノエルが近くに置いてあった杖を握った。
しかしその表情は困ったような顔だ。
「なるほど、お前は逞しくなったのだな。」
「…はい。」
「なるほど。お前の仲間にも俺から直接協力を頼もう。もちろんベルクールにもな。だから奴に何とか連絡を取ってほしい、この通りだ。」
ギュスターヴが軽く頭を下げた。
王族の兄が頭を下げるなんて。俺はそこまでは望んではいなかったのだが…。
「…分かりました。仲間を連れてきます。」
「いや、俺の方から出向こう。案内してくれるか?」
「は、はい。」
俺は頷いた。傍らではノエルがほっとしたような表情になり、握りしめていた杖を放した。
その後俺はアルフレッド達が待つ宿へ案内した。
宿ではギュスターヴ自ら仲間たちに語り掛け、俺達はパーティとして一応協力することを決めた。
「ケヴィン、私はそう呼んでいるのですが、彼には夜連絡を取ります。少し、待っていてください。」
「分かった、よろしく頼む。」
そう言うとギュスターヴはノエルと共に宿を去って行った。
そういえば、ロベールはAランク冒険者だったはずだ。一体誰が殺害したのだろう?
後でノエルがこっそり教えてくれた。
「ロベールを殺したのはバルデレミー本人よ。」
「え、バルデレミーさんが!?」
「ええ。バルデレミーはかつて冒険者だった。かつては人間の町も数多くあったノワールコンティナンが魔の力が及んで以降初めてあの地を探索したのは、バルデレミー達だったわけ。」
「へ、へぇ…。凄い人なんだ、あの人。」
「霧の町にも大きい影響力を持っているしね。恐らく現役の冒険者だったころはAランクでも最上位だったんじゃないのかな。」
なるほど。俺があの場で剣を抜いてたらどうなってただろう?
抜かなくてよかったのかもしれないな。
「でも、殺さなくてもよかったんじゃないのかなぁ…」
俺の言葉に、ノエルがあきれたような顔になった。
「相変わらず甘いお姫様ねぇ…。確かに貴女の言う通り、命のやり取りはしないにこしたことはないわ。でも今はもうそういう状況じゃない。」
「ぅ…」
「まぁ、その辺が貴女の良い所かもしれない。でもね、これからはその覚悟をした方が良いわ。」
そうか、これからは“戦争”に関わるわけだ。
海賊を撃退したときの様にうまくいかないのかもしれない。




