第73話 束の間の休息
「あー、疲れたー。」
俺はソファーに深く腰を下ろした。
「そうだね、いろいろあったからね。」
アルフレッドが隣に座ってから言った。
確かにそうだ。
ノワールコンティナンに転移してから1年。ここはまだお姫様の祖国ではないが、エレオノール大陸に漸く帰ってきたのだ。
その間、俺達は生死にもかかわる程の経験をしてきた。
「んー、肉体的な疲れもあるけど、やっぱ精神的な疲れのほうが大きいかな。」
「え? どういうこと?」
「ノワールコンティナンでの体験も、ガストンさんとの別れもそうだったけど、俺達にはかなり大きい経験だったし。それにやっぱり…」
「えーっと、ギュスターヴ殿下の事かな?」
「そう!」
俺は頷いた。
「俺はお兄様に、パーティとしてお兄様のやろうとしている事に協力すると言ったんだ。ただそれは…」
俺は窓の外を見た。
外ではカールとリディが楽しそうに遊んでいた。
「あの子達を戦いに巻き込むと言うことなんだ。俺は…、覚悟が出来ているからいいけど、あんな小さい子達を戦場に連れて行くなんて…」
「そりゃね…。でもケヴィンがそれを聞いたら、『アスカ、お前もガキじゃねえか!』って言いそうだけどね。」
アルフレッドが苦笑いをした。
俺だって弟や妹のような存在である、カールとリディを戦争に連れていきたいわけがない。
だが彼等は自分達の意思で、俺に付いていきたいと言ってきた。
「そいや、ケヴィンは朝からギュスターヴ殿下と話をしてるんだっけ?」
「うん。さすがにそろそろ終わるんじゃない? あ、噂をすれば…」
窓の外を見ると、こちらに向かって歩いてくるケヴィンが見えた。
「ケヴィン、お帰りなさい。」
俺はケヴィンに声を掛けた。
「おう…。」
「お兄様とのお話どうだった?」
「ちょっと待ってくれ。一息ついてから話すよ。」
「ケヴィン、何か飲み物飲む?」
アルフレッドが立ち上がった。
「ああ、すまんな。頼む。」
「お疲れ様。ケヴィン。」
アルフレッドから飲み物を受け取ると、ケヴィンは椅子に腰を下ろした。
「ああ、ありがとう。」
「で、どうだったの?」
「そうだな。奴はヘンドリクセン王救出への協力を依頼してきた。」
ふむ。兄ギュスターヴは俺に話したこととほぼ同じ内容は話したそうだ。
「お父様はマルゴワール伯爵領から近い古城に幽閉されてるって言ってたね。」
「お前も聞いてたか。レオポルドへの反攻の一環として、まずはヘンドリクセン王を救出して足がかりにしたいと考えているようだな。」
ケヴィンは飲み物を口にした。
「確かにそれが成功すれば周辺諸国や諸侯への動揺を誘うだろう。ギュスターヴは俺の変身の魔法をアテにしているようだ。」
なるほど。ケヴィンの能力を用いれば、救出作戦に参加するメンバー全員の姿を偽ることが可能だ。
ギリギリまで察知されずにマルゴワール領へ潜入できるだろう。
「アスカ。俺はお前達にまた会うことができて嬉しいが、まさか従兄弟殿を連れてくるとは思わなかったよ。」
「あはは、嫌だった?」
「嫌というわけじゃねえが…。ギュスターヴの奴、お前達のような子供まで戦いに巻き込むつもりなのが気に食わねえ。」
「ふ、ふふふ…!」
俺は思わず吹き出してしまった。
「んんっ? 何だアスカ?」
ケヴィンが怪訝そうな顔になった。
「いや、さっきアルフレッドが、ケヴィンならそう言うって言ったのが当たったから…!」
「笑いごとじゃねえんだぞ? 今度ばかりは話が違うんだ。」
「ん…」
「冒険者が、自分自身の責任で動くのとは違う。これは戦争なんだ。趨勢によっては数多くの人が死ぬ。お前はその一端を見ているはずだ。」
「・・・」
そうだ。魔導砲によって何万もの人が死ぬ、そんな光景を忘れるわけがなかった。
「お前はパーティとして参加すると言ったそうだな? それが何を意味するのか、リーダーとして分からないわけではあるまい。」
「うん、分かってるよ…」
俺は頷いた。そして仲間には全て話した上での結論であることを説明した。
「そうか…。なら俺はこれ以上何も言えねえよ。」
ケヴィンの表情は曇ったままだが、静かに頷いた。
「さて、ギュスターヴが言うには作戦の発動まではまだ時間があるようだ。ギリギリまで準備を整えたいようだな。それまでは自由にしていていいとも言っていた。それと、これを…」
ケヴィンが袋を取り出した。
ガシャ…。
音からすると結構な額のお金が入ってそうだ。
「こいつはお前達割り当ての軍資金だそうだ。ま、100グラハム金貨はありそうだな。」
100グラハム金貨!
ノワールコンティナンの北方洞窟探索の報酬や、今回のバルデレミー商会商戦護衛でもらった200グラハム金貨と合わせると、俺達はかなりのお金持ちになったようだ。
「作戦発動までこいつで装備を整えるなり、休息に使うなり、好きに使うがいいさ。」
「わー! アルフレッド。俺達お金持ちになったよ!」
俺は袋から金貨を一枚取り出した。
「あ、それとグヴェナエル共和国の今の内情だが、政庁の方にはレオポルド側の手の者がかなり入り込んでいるらしい。港の方は元々商人の町だからバルデレミー商会を筆頭に、まだ商人ギルドがまだ大きい力をん持っているようだ。政体が王政じゃなく共和制だからこそという処もあるだろうな。」
なるほど。グヴェナエル共和国はナイザール王国や周辺の王政国家の様な過度な中央集権国家では無いから、国内の都市によっては中央政府の支配が強く及んで無い様だ。
平たく言えば、港に影響力を行使している商人ギルドの力が及ぶ範囲は比較的安全ということだな。
「つまり、危ないところには行くなってことだね!」
「そういうこった。」
よし、忙しくなるまではいろいろと準備を整えなくては行けないな。
うーん、でも準備って何をすればいいのかな?
でも、みんなはできるだけ休ませてあげたいし。
ま、焦らずゆっくり考えよう。
俺は腕を組みながら考えを巡らせた。




