第96話 潜入へ
「た、助けてくれ…!」
その兵士は逃げ惑った。
何だあいつは!
自分の剣は確かに奴を切り裂いたはずだ。
確実に奴の命を奪うほどに。
我が軍の兵力は3倍以上。
犠牲はあろうが戦力差的に見たら楽に勝てるはずだった。
事実我らは門を破り、王都の中心部近くまで進撃できていた。
あとは敵将レオポルドが籠る城に討ち入るだけであった。
だが近衛兵の装備に身を包んだその敵は、自ら城門を開け出て来た。
「奴等、自棄でも起こしたのか!? よし奴等を蹴散らし、城に侵入せよ!」
そう命じた隊長は既にこの世にはいない。
戦友達も文字通り、八つ裂きにされてしまった。
振り向くと敵はすぐ近くまで迫っていた。
次は自分の番だ。
バァァァン!
逃げる兵士の近くで大きな爆発音が響いた。
「ゆ、友軍!?」
衝撃で倒れ込んだ兵士が漸く身を起こした。
そう、ギュスターヴ率いる部隊が到着したのである。
「レオポルドめがやはりおかしなモノを創り上げた様だな。」
ギュスターヴがそれを見て呟いた。
なんと、随行の魔導士が放った大火球を食らったはずの敵兵が立ち上がったのである。
無論無傷ではないのだが、負ったはずの傷がブクブクと泡を立てていた。
「おい、何があった? 話してみよ。」
ギュスターヴが先程助け出した兵士に問いかけた。
「は、は…! 我等がここまで進軍して来た所、あの者どもが…現れました。我…等も必死に…攻撃したのですが、倒せず…。先鋒隊の殆どがあの化け物共に…」
兵士が荒い息で答えた。
「フム、やはりあれはレオポルドらが生み出した化け物という事か。…者ども! あれを倒すには確実に息の根を止めねばならぬようだ。敵一人に対し、魔闘兵を中心に3名以上で掛かれ! 化け物と言えど、不死ではあるまい。」
「おお!」
ギュスターヴの号令に配下の兵が声を上げ、敵に打ち掛かっていった。
俺は少し離れた所で戦況を見ていた。
「あれは…何なの?」
見ていて気持ちの良いものでは無い。
一人の敵に対して友軍が複数で斬りかかっていた。
だが敵は中々倒れない。
痛みを感じないのだろうか?
恐怖を感じないのだろうか?
文字通り『止めを刺されるまで』戦い続けるのだ。
「アルエットよ。」
後ろから声を掛けられた。ギュスターヴだ。
「お、お兄様…!」
「ここは部下に任せておけば良い。一気に突破するのは不可能だが、時間を掛ければ大丈夫だろう。」
「え、はい…。そうですね。」
「我等は搦手より城に潜入する。地下より行けることを知っておろう。」
「はい。ですが、レオポルドお兄様も対策をしているのでは…?」
「然もあろう。」
ギュスターヴが自分の顎を触った。
「城内にいる近衛が全てあのような化け物になっていては、少数で潜入するのは危険だろうがな…。だが流石に全員を化け物にすることは出来んだろう。」
こ、この人は何を根拠にそんな事言ってるんだ…!?
「心配いらん。直属の最精鋭の者どもを連れていく。まぁ、俺に任せろ。」
そんなこんなで、俺達は兄ギュスターヴらと共に地下より城に潜入することとなった。




