異世界で全身触手のバケモノになった結果
この世界の真実を知りエレノアとジュンペイを殺したあの日から、数年が経った。
あの後すぐに転移魔法陣を破壊したため、今この島は完全に世界から切り離されている。
もしエレノアの国の奴らがこの島に来ようとした場合、片道半年はかかる海を渡ってくる必要があるみたいだが……今のところ追手が来る気配は無い。
「タノウエさん、強い魔物が出たんで報告に来ました。山頂の方に巨大ゴーレムがいます」
「木村さん、ご報告ありがとうございます。ちょっと行ってきますね。鈴木さんと田代さんは今日の狩りは無しにしてここの守りをお願いします」
「「はい」」
俺の呼びかけに、種族がバラバラの魔物達が返事をする。
彼らはあの日、培養槽に捕らえられていた転移者達だ。
【魔に堕とすもの】は、人間から魔物へ変質させる一方通行のスキルだった。被害者はみんな魔物としての生活を余儀なくされ、悲しみにくれながらも手を取り合って日々を生きている。
一応、人型魔物への進化の道が残されていることが唯一の救いだろうか。
「タノウエさん、私も行きます」
「河上さん……わかった。一緒に来てくれ」
拠点を後にし、二人で移動する。
河上さんは上空からの偵察、俺は徒歩移動だ。
あの日、ジュンペイから【骸を糧とするもの】というスキルを入手し、【生命を喰らうもの】が変質した結果、俺の固有スキルは大きく変化した。
それが、これだ。
ーーー
【暴食の権化】
万象を喰らい尽くす能力。
相手に触れることで生命力と魔力を吸収することができる。
また死体の一部を捕食することで対象のスキルを一年間使えるようになる。
さらに死体の全身を捕食することで、その種族の体組織を再現することが出来る。
進化ゲージの上昇率にプラスの補正がかかる。
ーーー
このスキルにより、俺は念願の人間の体を手に入れることができた。
ベースはもちろんエレノア。彼女と違い男の体ではあるが、くすんだ茶髪も翡翠の瞳も、彼女を否応にも連想させる。
できれば触手の姿のままでいたいのだが……他の異世界人との心理的距離を考えると普段は人間の姿をしておく必要があった。
「見えました! 今回は野生の魔物ですかね?」
「近付かないとわからないな。転生者の可能性も考えてまずは話しかけてみて欲しい」
「わかりました」
河上さんが空を駆ける。
身の丈十メートルを超える巨大ゴーレムの目の前まで飛び、声をかけた。
――が、帰ってきたのは乱暴な右ストレート。
河上さんの周囲に展開した【不可侵領域】にぶつかり、ゴーレムの右腕が自壊する。
数秒も経たずに周囲の地面を吸い上げて腕が復活するが、その後も無計画に攻撃を繰り返し自壊を繰り返していた。
一応近付いてパーティ申請できないか確認してみるが、何の反応も無し。
たまたま進化して上位種族になっただけの、野生の魔物だろう。
「河上さん、俺が倒すからもう良いよ」
「わかりました」
後方へと下がる河上さんを尻目に、体を本来の触手のものへと作り変える。
人間の皮が崩れ、無数の触手が広がる。
触手は赤黒く脈打ち、白濁した粘液に覆われている。
その先端には、不気味な口がついており、不揃いな乱杭歯の隙間から涎が垂れていた。
――ゴォォォ。
掠れた重低音の咆哮とともに、飛びかかる。
太く長い触手を操りゴーレムの四肢に絡みつくと、そのまま無数の口で噛みついた。
生命力と魔力を吸収する。
味は大味でまぁまぁといったところか。
数秒もしない内に、最後の一滴まで啜り終わりゴーレムの体が地に落ちた。
「お疲れ様でした」
「お疲れ様。……帰ろうか」
人間の体を再構築し、拠点目指して山をくだる。
河上さんも羽を閉じて隣に降りてきた。
「転生者じゃなかったですね」
「年間百人規模と行っても、毎回この島に来るとは限らないからね」
この数年間で新たに仲間にした異世界人も数名いる。
【魔に堕とすもの】とは関係なく魔物として転生した人や、森に迷い込んだ転移者などだ。
彼らもまた現状に困惑しながらも、少しずつこの世界に順応し日々を生きている。
少なくとも今、この島は平和そのものだ。
もちろんこの先はわからない。
エレノアの国の奴らがこの島を訪れる可能性もあるし、逆にこの島にいる奴らが外に行きたいと言い出す可能性だってある。
自分から魔物に生まれ変わりたいという酔狂な転移者が現れる可能性も……ゼロではない。その時は喜んでこの力を振るおう。
大事なのは、一人一人が自分の意思で選択することだ。
エレノアのように同意なく魔物に変えるわけじゃないのであれば、魔物の体もそう悪いことばかりじゃない。
――もっとも、そう思えるようになったのは人間の体を手に入れて心に余裕が出たからかもしれないけどな。
「タノウエさん? どうかしましたか?」
「いや、ちょっと考え事してただけ」
前を歩く河上さんに追いつき、並んで歩く。
遠くに見える拠点では、統一感のない見た目の仲間達が力を合わせて生きている。
俺が守れているものは小さな世界かもしれない。
だが、それでもあの日の行動のおかげで負の仕組みの一端を壊すことができたのは間違いない。
後悔はしていない。
目が覚めたら醜いバケモノになっていた。
そんな悲劇を味わう人が少しでも減ったのなら、俺がやってきたことにはちゃんと意味があったのだろう。
……ちょっと感傷的になりすぎたな。
短く息を吐き出し、二本の足で大地を踏みしめる。
目線を高くし胸を張って歩きだした。
「おかえり」
遠くから仲間の明るい声が響く。
種族はバラバラ。魔物もいれば人間もいる。
それでもみんな笑顔を浮かべていた。
「ただいま」
俺は最後に、穏和な笑みを浮かべながらそう返事をした。
(完)
最終話までお読みいただきありがとうございました。
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これまでお付き合いくださりありがとうございました。




