市場
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いつの間にやら、舞台の魔物が張った結界は解けていた。
一座と清蓮と直志と秀春と菊子達は、お茶を飲んで落ち着きを思い出した。
清蓮は少し興奮気味に言った。
「すごかった」
直志はその時の清蓮の表情や発言を意外に受けとった。
一座が愛好家から挨拶にもらった茶菓子をちゃっかりと食べながら、雑談。
そして、契約通り、清蓮は「人魚の鱗」という別名を持つ貴重品を手に入れた。
直志はその正式名を、「コンタクトレンズ」と呼ぶことを知っている。
いまでは、歌舞伎役者くらいしか実際には持っていないし、使っていないものだ。
清蓮はご機嫌だった。
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―――――――
数週間後。
街の市場でぶらりぶらりとしていた直志は、偶然清蓮を見つけた。
子供用の服を見ている。
ひやかしているのかな、と思いながら近づく。
「ああ、やっぱり清蓮じゃないか」
少しぎょっとした狩衣の清蓮は、少し笑った。
「目から鱗が落ちるかと思った」
清蓮はコンタクトレンズをしていた。
「なんで子供服なんて見てるんだ?」
「ん?必要だからだ」
「ん?」
清蓮は少し黙り、「ああ」と言った。
「言ってなかったな」
「せいれんさまぁーーーーー」
人型の姿をとっている桜飛湖が、ひとごみから声を上げて手を振る。
「黒丸は?」
直志が清蓮に聞く。
「ひとごみは嫌いだと言って、家にいる」
「ああ。黒丸っぽい」
「ふふ」
清蓮の含み笑い。
「コウヨウちゃんと、はぐれてしまいましたぁーーーーーっ」
泣きながら叫ぶ桜飛湖。
清蓮は目を見開く。
「なんだとっ?」
「コウヨウちゃん、って?」
「娘だ」
直志の動きが停まった。
「そういえば、お前の家に行った時に「コウヨウの様子がどうのこうの」・・・」
清蓮は直志の肩を叩いた。
「またな」
「ええっ?」
清蓮は人ごみに、桜飛湖と共に走りながら消えた。
「せ、せいれんが・・・「またな」って言ったのかっ・・・?」
直志は目から鱗が落ちる思いをして、旋律にぞわぞわとした。
「むすめ・・・?」
直志は数秒黙る。
「むすめーーーーーーーーーーーーーーーっ?」
よく晴れた日、その声が透ったのは
雑多とした人混みの中、だった。
―終―




