一狩り ▶︎実は特殊な……
後書きに挿絵があります。
翌日、ルルルフとナナヤは狩りの準備をする。
森の入り口にやってきたところで、ナナヤはルルルフにスリングショットを渡す。
「ニャ?」
「木の実を落とすのに使ったヤツを、ちょっと改造してるミャ」
ルルルフにとってのスリングショットは、Y字な木の枝に伸びる糸をつけて、石ころを飛ばす投擲道具である。
ナナヤが渡してきたものは、Y字な木の枝とは似ても似つかぬ見た目。どちらかというと、ボウガンのようなもので、すでにスリングショットの原型はないに等しい。
「これ、どするんニャ?」
「撃つんだミャ」
森に入り、スリングショットの使い方を教えると、器用なルルルフは、短時間で狙った方向へ打てるようになる。
「ニャー?! そこらへんの木の実使ってるのに、すごい威力ニャ」
「絶対に村で使っちゃいかんやつミャ」
それは、おとなカーチェに見つかると、没収されるという意味でもある。
そのくらい危ないものを、なぜナナヤがと疑問に思ったルルルフは訊ねる。
「ナナヤが投擲道具で狩りするイメージ、まーったくニャいんだけど」
「そりゃそーミャ! ナナヤはノーコンだミャ!」
なぜノーコンが投擲道具を持っているのか、疑問がさらに強くなる。
「ちょっと前に、登れなさそうな細い木の先にある木の実を落とそうと、スリングショット使ってみたんだミャ。でも、全然届かミャーから改造したミャ! でも、無理だったミャん!!」
威力が足りなくて、コントロール不足だと思ったナナヤは威力を上げるよう改造に改造を重ねたようだ。
木の枝からの改造で、何処をどうすればボウガンになるのかは不明だ。
しかし、ノーコンはノーコン。何をどうやっても、狙った方向に飛ばない。
そこでようやく投擲は諦めたらしい。
「そんミャわけで、ルルルフなら使える気がしたミャ」
「お借りするニャ」
そして、森を深く進んでいく。
鬱蒼と生い茂る木々。途中途中、不気味な鳴き声も聞こえるが、ナナヤは慣れているのか、いつも通り進んでいく。
ナナヤが警戒してないならば大丈夫なのだろうと、ルルルフもおっかなびっくりながら、後を歩く。
「今日の獲物はあいつミャん」
今いるところは少しだけ崖になっていて、切り立っている。そこから窺うのは低地のエリア。
他の動物や魔物と、ちょっと雰囲気が異なるものがいる。
「……ニャんか、ツノからモヤモヤしたの出てるように見えるニャ」
「あれは、生命力暴走個体っていう奴ミャ。異常個体とも呼ばれる奴で、体の一部が変に発達して、異様な力を持っているミャ」
学校の授業で習ったけれど、それはハンターが狩る事が多いので、カーチェは遭遇する機会はない。と言われていた事を、ルルルフは思い出す。
現に森の奥深くに来たのもあり、村まであの魔物がやってくるとは思えない。
「森の奥にいる魔物ニャら、狩らニャくていいと思うんだけど……」
「あいつ、火を吹くミャん」
「ニャー?!」
言われてみれば、変な魔物がいる周りは岩肌が剥き出しで、植物のこげた跡がいくつか見える。
崖から下は木の少ないエリアで、森は今いるあたりまでだ。
たしか地図には、森の隣は荒野と記されていた記憶を掘り起こすルルルフ。
「それは、万が一森に来ちゃうと、大惨事ニャ……」
「そうなのミャ」
彼らの視界に映る魔物は、サイのような見た目。通常個体は、突進が要注意というだけの魔物だ。
村の近くまで来た個体は、村に突進してくる可能性があるので退治もしくは追い返すようにするけれど、森の奥にいる魔物までは討伐しないはずである。
そして、火を吹くなんて情報は一切ないのだ。
「狩りをするカーチェたちは、異常個体の狩りも受け持ってるミャん」
本来なら、おとなカーチェが狩るはずであるが、ナナヤが狩るようだ。
「ニャんで、ナナヤがそんニャあぶニャい魔物を狩るのニャ?」
「ナナヤ、こどもだけど、村1番の怪力カーチェなんだミャ!」
ナナヤはおとなカーチェ並に狩りをする、唯一の仔カーチェである。
彼の強さはおとなたちからも信頼を得ているようで、今回の狩りを任されたし、異常個体のサイはナナヤのパワーでなければ倒せないはずだ、と言われたそうだ。
「ニャー……ナナヤすごいニャん……」
「でも、ひとつ問題があるミャ……」
キリッとした顔でナナヤが言葉を落とす。ルルルフはごくりと息を飲み言葉を待つ。
「ナナヤ、作戦が立てられミャーの」
今までの狩りは、おとながいたので、指示を待ちその通りに動いていた。受けた指示を覚えて次からはひとりでも狩れるようになるので、何も考えずに済んでいたのだった。
異常個体の単独狩りは初めてだという事に、つい先ほど気づいたようだ。そして、あの魔物の通常個体も狩ったことはなかった。
「あれ、『サイブロス』ニャんよね?」
「もとはそうミャ」
ルルルフは魔物図鑑を読んだ記憶を辿ると、サイブロスは毒ガスではないが、異様な臭気を放つブレスを口から吐く。
体が痺れるとか溶けるのような、恐ろしい事は起きないが、臭気は鼻のいいカーチェには相当つらい。
その息を吐かれないように、視界に入らないよう狙うのが定石であるモンスターのはずだ。
「ナナヤの武器は……それは?」
「これは鎖付きのモーニングスターだミャ」
素早く動いて、打撃を打ち込むスタイルらしい。サイブロスは皮膚が硬いのもあり、切る武器は適さない。
それを踏まえて持ってきたが、サイブロスの倒し方はわからないという。
「それニャら、ルルルフが崖上から投擲で気を逸らせて、その隙にサイブロスの側面から、頭に星型鉄球を叩き込んで、1撃ごとに身を隠してって感じだニャんね」
「ルルルフ、天才ミャ!」
「……正面から突っ込んだらダメニャよ?」
カーチェは人間の狩人と比べて、力は劣るし体も小さい。
なので、大立ち回りが出来ないため、時間を掛けて狩ったり、罠を使い魔物を弱らせて狩るのが一般的だ。
「そんじゃ、いくミャん!」
「待つニャ!」
「ミャぎゃっ」
ルルルフはナナヤのしっぽを掴む。
「まず、投擲に使う石か硬い木の実を、集めるのが先ニャーよ!」
そう、投擲道具は『投げる物』が無ければ使えない。
さっき練習するときは、そこら辺に落ちている木の実を使って撃っていた。
そして、ナナヤ特製スリングショットには、専用の弾がないので、集めなければならない事をルルルフは説明する。




