ナナヤ研修終わり ▶︎災難
研修が無事終わり、ハンターギルドの臨時職員として、配属されたナナヤ。
お連れカーチェを1クエストだけ必要とするハンターに、ついていく事が多い立ち位置らしい。
そうして組んでいく中で、相棒としてお互い意気投合したら、ギルド臨時職員ではなく、ハンターとして職員を辞して生活していくようだ。
臨時職員から、ハンターギルド所属の狩猫になるパターンもあって、臨時から正職員になるだけだが、こちらは3年かかるらしい。
ハンターギルドの職員として、覚えることもそこそこあり、ナナヤは確認と学習の日々である。
「クエスト達成お疲れ様で……す?」
ハンターギルドの受付嬢が、ハンターからクエスト完了報告を受けるも、目の前にいるハンターは割とボロボロだ。
一緒に、お連れカーチェとして行動したナナヤも、ボロボロであった。
そのボロボロ具合は、通常のクエスト完了時と違い……どちらかと言うと、汚れが尋常じゃない状態だ。
「そんな手こずるクエストでしたか?」
難易度設定が違っているならば、報告をあげないといけないため、受付嬢が訊ねると、ハンターとナナヤはフルフル首を振ってため息を落とす。
「地面から泥が噴き出してきたミャ。あっつい泥ミャ」
「温泉でも噴き出たのかもしれねぇけど、まず泥だった。そこでモンスターとも遭遇して、泥と火傷で人間・カーチェ・モンスターともども阿鼻叫喚」
自然災害に遭った場合は、クエスト難易度は関係ないが、泥温泉が噴き出た報告も受けて、クエスト完了。臨時コンビは解散だ。
「そんじゃ、ナナヤありがとな」
「いえいえミャ。次の町でも元気でやってミャ」
幾人かとの出会い別れを繰り返すナナヤ。
少しは成長したかも、と思いたいところだが、それよりもまずお風呂に入りたい。
――しかもこの泥、ちょっと変なにおいがするミャ。
と、ナナヤはしかめっ面だ。
なので、別れの噛み締めなどはせず、帰って大丈夫か受付嬢に確認をとり、了承を得た後、一目散に寮へ急いだ。
被った泥は、すでに固まっているし、べちょべちょのものを振り撒いているわけではないが、ちょっとだけポロポロ落ちてくる。
「ミャ〜……このまま寮に入ったら、汚しちゃうかミャ……?」
入り口の前で考えるナナヤ。
扉が開いた時、先輩カーチェが、ナナヤを見て首を傾げる。
「どうしたにゃご? 狩場に忘れ物でもしたのかにゃご?」
「あっ、先輩ミャ! なんも忘れ物もなく帰ってきたミャ! ナナヤ今すごいバッチィのミャ。このまま入ったらお部屋に行くまでに、乾いた泥が落ちそうで、どうしようって思ってたミャ」
現に、ここに来るまでの道に、ポロポロ泥の固まったカケラが、ナナヤの軌跡を作っていた。
「あー、そんじゃあ中庭で、あらかた洗っちゃおうにゃご」
「ミャ?」
先輩カーチェの案内で中庭にくると、ポンプ式の井戸が置いてあり、物置からタライと桶を持ってきてくれた。
ザブザブとナナヤを水で洗う。
「ミャ、ミャ、ミャ、びゃミャーーーーびゃミャーーーーー」
「息を止めておけにゃごー、ほいっ、ざぶんにゃーご」
桶いっぱいの水を頭から被せて、デッキブラシのような硬さをしたハンディタイプブラシがナナヤを襲う。
「あミャミャーーーっ!!!!」
「ほい、あらかた泥は落としたぞ、タライの中見てみろにゃご」
「ミャ!! ドスい灰色してるミャん!!!!」
騒がしい中庭、寮にいるカーチェたちや、仕事から帰ってきたルルルフもその騒がしさに気づいて、ゾロゾロと様子を見に中庭へ集合。
「ニャんか、茹ですぎた卵みたいニャにおいしてるニャね」
「ほんとにゃるん」
「多分、それ温泉のニオイだと思うにゃっちょ」
あまり嗅ぎ慣れないニオイに、首を傾げるルルルフと他のカーチェたち。
だが、そのニオイを知っているカーチェが、正体を教えてくれた。
「お、温泉って、あったかいお湯が地面にあるアレのことニャ?」
「そうにゃっちょ。オラは温泉がある村出身だから、懐かしいニオイにゃっちょ」
あったかいお湯が地面にある様子を想像して、ホワンとしてしまうカーチェたち。
「あったかい、なんてモンじゃなかったミャ! 火傷して熱かったミャんよ?!」
「それ、源泉だからにゃっちょ」
ナナヤが慌てて危ないことを伝えようとしたが、よくわからない言葉が返ってきた。
「「「ゲンセン??」」」
他のカーチェも知らない源泉。
温泉地出身のカーチェが、元々は熱い温度で出ているお湯であること、水を混ぜて温度を下げてあったかいお風呂のようにしていることを教えてくれた。
「ミャー……じゃあ、あそこの森に温泉できるミャか?」
「それは、ギルドが調査して、温泉施設を作るか決めると思うにゃっちょ」
ナナヤが出向いたのは、街から1番近い森。
その気になれば、温泉施設くらいは作れそうな位置である。
温泉ができれば、休みの日に訪ねて、リラックスするのもありだろうし、いいレジャー施設になりそうだと年上のカーチェたちは笑っていた。
ルルルフとナナヤも、温泉を見ることができたらいいなと、あったかい地面に生えたお風呂を思い浮かべるのだった。
――ハンターギルド
以前、会議をしていた中にいた大柄のハンターとフードを被ったハンターが、1枚の紙を見て笑う。
「カーチェ本来の能力を突出した狩猫か、こいつも連れていってみようか」
隣にいるフードの男は、大柄のハンターへ端的に疑問を投げる。
「でも、見習い」
「研修終わってんだからいいだろ。多分、こいつ以前会ったカーチェだろうし。手負いのモンスターを罠にかけておいてくれたあいつだ」
「あの仔カーチェ……?」
覚えている記憶を辿ると、ちょっとふさっとした、濃い灰色の毛をした仔カーチェしか頭に出てこない。
わざわざ罠を使って足止めをするあたり、自分の力試しをするタイプでもなさそうで、フードの男は首を傾げる。
「あぁ、それはナナヤから聞いたニャッチ。手負いのモンスターは誰かが狩ろうとしているものだろうから、横取りと思われないために、罠にかけておいたそうニャッチ」
パイセーンが、ハンターの男たちに答えてあげる。
「あぁ、だからあのボウズは、殴ってないって言ってたのか」
「分別あるね」
大柄のハンターは大きく頷いて、ナナヤの同行許可をパイセーンに求めた。
フードの男の口角が少し上がり頷いている。
パイセーンは頭をかきながら、ため息を落とす。
「この国1番のハンター集団なあんたらに言われて、ギルドが断れるわけないニャッチ」
「へへへ、頼んだぜ。早く一緒に狩りしてみたいな」
ナナヤ、スカウトの予感だぞ。パイセーンは心の中で拳を握る。




