お部屋の冊子 ▶︎繋ぐを受け継ぐ
寮の案内を受けて、部屋も確保できたので、今日はもう終了でいいらしい。
荷解きや疲れをとるのに、もう休めとアネイゴに言われた。
そして彼女は、街を探検してもいいけれど、寮を見失わないようにとも言った。
そして、お金を持っていないのだから、買い物はできないこと、お給料が出るまでは寮のご飯を食べないといけないことを告げる。
「何でミャ?」
「街中では、狩りや採取はできにゃーのよ」
街中で物を得るには、物々交換かお金による支払いが必要で、そのほとんどがお金で行なわれている。
お給料は1ヶ月後に出るはずだ。
それまでお金無しで過ごさないといけないので、寮のご飯を食べないといけないらしい。
「探検して、りょーに帰ってご飯食べて、明日に備えろということミャね」
「探検は好きにしにゃーさい」
そして、アネイゴは仕事に戻って行った。
ルルルフは荷解きを始めるが、ナナヤは少しの着替えと歯ブラシなどの日用品、あとは武器をひとつだけ出して、全部の荷物を出す事はしない。
「ニャ……? お荷物それでいいのニャ?」
「いいミャ。ナナヤは何となーく長居しミャー気がするからミャ」
狩猫として各地を渡り歩く可能性もあるため、荷物を全部解いてしまうと、旅準備に時間が掛かる。
なので、最低限の生活品と、小さな宝物ひとつだけ机に出した。
「そっか。いいパートニャーに会えるといいニャね!」
「ミャ!」
そして、お外には行かず、今日の出来事をまとめたルルルフ。
明日はアネイゴに能力を見てもらって、家政カーチェとしてのお仕事が始まるはずだ。
ルルルフは不安になりながらも、一生懸命お仕事しようと拳を握る。
ナナヤは、寮の部屋を見回っていた。
「ルルルフー!! これ、スイドーっぽいミャ!!」
「んニャ!?」
ナナヤの声の方向に行くと、石の器に水がじゃーっと流れていた。
「この棒を倒したり起こしたりで、お水ジャーってなるミャ!!」
「ニャんと!!!」
そして、張り紙があった。
お水の 無駄遣いは いけません
紙を見て、ナナヤはきゅっとレバーをあげた。
「ごめんなさいミャ」
「ごめんニャさい」
張り紙に謝るカーチェたち。
そして、洗面所から戻って、部屋の真ん中にあるテーブルにポツンと置いてあった冊子を発見する。
「お部屋の使い方って書いてあるニャ」
「お、それは大事な本ミャね!」
冊子の1枚目をめくり、ルルルフが読み上げる。
「お部屋の扉は、鍵を閉めましょう。ニャて」
「これが鍵の絵かミャ?」
「ドアにかかっているアレっぽいニャ? 絵と同じ模様と棒があるニャ」
冊子を持ちながら、出入り口の扉に向かうと、鍵が2本、扉にあるフックからぶら下がっている。
「鍵の掛け方ってのが書いてあるミャ」
「お外側の扉に穴が空いてるらしいニャ」
鍵を持って扉から出てみると、鍵穴を見つけて、冊子の挿絵通りに回してみると、カチャンと音が鳴る。
ドアノブをひねっても、扉が開かなくて、ナナヤが驚きのあまり飛び上がった。
「お、お、お、おおお部屋に入れないミャ!」
「さっきの棒で、開けることもできるんニャて」
今度はまた挿絵に倣い、開錠の動作をすると、またカチャンと音が鳴って、鍵が開く。
「ニャおぉぉ」
「ミャおぉぉ」
村の家には鍵などなかった。
けれど、互いを尊重し合うカーチェ。きちんとノックをするし、勝手に入ることは少ない。
お布団を干しっぱなしで学校に行って、雨が降ってきたときは取り込んでくれていたが、ルルルフはこどもなので、おとなカーチェの世話焼きをありがたく受けていた。
しかし、人間も住んでいる街には、お家の扉を固く閉める装置がついていた。
カーチェの住む寮であるが、設備は人間のものと変わらない造りだそうだ。
「んミャ? この冊子、途中で終わってるミャんね?」
「ほんとニャ。こっちからは真っ白なページにニャってる」
冊子の文字を全部辿っても、まだページは余っているし空白だった。
次のページをめくると、紙片が挟まっていて、そこに文字が書かれてあるので、ルルルフが読み上げる。
「えーと、ニャにニャに……。この使い方冊子は、ここから先は今この部屋を使っているあなたたちが、気付いたことを書いてください。この部屋を次に使うカーチェが更に快適に過ごせるように。素敵なカーチェライフを送れますように。ニャって」
「じゃあ、ナナヤたちがこの続きを書いてあげると、次にこのお部屋を使うカーチェが、もっと嬉しいってことミャんね!」
「そうニャね!」
ルルルフとナナヤは、冊子にぺこりと頭を下げた。
「ルルルフたちがお部屋を使いやすいように、教えてくれてありがとうですニャ」
「次のお部屋使うカーチェにも、便利を伝えるミャ!」
物言わぬ冊子ながら、前に更にその前にと、住んでいたカーチェが、次に住むコのために残してくれた、優しさいっぱいの冊子を読んで、ルルルフとナナヤは温かい気持ちになった。
「あー、だから字が違うニャんね!」
「こっちは綺麗な字、こっちは可愛い字ミャ。……これ、ナナヤが書いたら汚い字が残っちゃうミャんか!!」
ナナヤは自分の書く文字が、綺麗ではないと自覚しているので、びっくりして飛び上がってしまった。
「そこは次のカーチェのために、頑張って綺麗に書くのニャ!」
「うーミャ……。そうミャんね……。きっと前のカーチェたちも、そうやって書いてくれてたミャん!」
お部屋の見慣れないものたちの、詳しい説明なども書いてある冊子を、しっかり読みながらお部屋の使い方を学んでいけることに、ルルルフとナナヤは安堵した。




