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第2話 正義の味方は5人組




「おーい、千秋。そろそろ行くぞー」


 帰りのHRも終わり、千咲は前にいる弟に声をかけた。千秋は千咲と色違いのリュックに教科書をつめながら頷いた。ふたりの仲の良さは時折クラスメイト達を引かせてはいるが、そんなことを気にするような彼らではない。ふたりのことを遠巻きに見ているクラスメイトをよそ目に、ふたりはリュックを背負うと、教室から出た。

 教室を出たふたりがいつも行く場所は、学校から十分程のところにある小さなカフェである。その名は『アストル』。双子の行きつけとなっている店だ。


 カランという音とともに扉を開くと、中から「いらっしゃいませ」と声が聞こえた。彼はここの店主で楠木くすのき優人ゆうと。赤色のカフェエプロンを身に付け、笑みを浮かべた。

 案内されるでもなく、ふたりはカウンター席に座った。すぐにいれたてのコーヒーが出される。いつもこの時間にふたりが来ることがわかっているため、優人は時間を計算してコーヒーをいれていてくれているのだ。湯気の出ているそれを一口すすり、ほうっと息を吐く。


「優人さん、春太郎さんまだ?」


「受験生なんで勉強してる。千咲、来たら教えてよ」


 受験生というところを強調しながらリュックから勉強道具を取り出す千秋に千咲は呆れたような声を漏らした。けれど受験生としてはこれが普通である。むしろ、勉強せずにフラフラしている千咲の方がどうかと思う。千秋は視線でそう返すと、再びノートへと移した。千咲は横から盗み見る。意味不明な数字の羅列にうへえ、と声を出した。授業で習ったことなので、わかる筈なのだが、授業=昼寝タイムという千咲にとっては知らないも同然。


「そういえば今日、商店街でまた現れたらしいね」


 コーヒーを煎りながら、視線を合わせることなく優人が言った。優人はいつも情報が早い。いつものことなので何もつっこむつもりはない。千秋も何も返してくれないので、優人の話を聞くことにする。コーヒーカップを両手に持って肘を付けば、優人の方から話してくれた。


「出たってあの、『道化師』? 半年ぶりだな。てっきりあの5人組に倒されたかと思ってた」


「まあ、最近は出なかったからね。千咲君も知ってたんだ?」


「この辺で知らない人はいないだろ」


 千咲の言葉に優人はまあそうか、と頷いた。少なくともこの灯街で『道化師』の存在を知らない者はいない。一種の噂と考えている者もいるが。『道化師』というのは、この街で暴れる『悪』だ。人を傷付ける者。千咲は会ったことはない。そしてそれが決して許されないことも知っている。こう呼ばれるようになったのは、その者が姿を現す時、世界が少し歪になるからだ。空間が歪むような、そんな感覚を感じる者がいたからだとか。

 千咲も会いたかった。常に非日常を求めている男子高校生としては、巻き込まれたい願望があった。周りに勉強勉強と言われるストレスを晴らしたいという思いもあるが。皆千秋を見習えと言う。確かにそうなのだが、あまり勉強を得意としない千咲には酷であった。しなければいけないのはわかっているが、いざ机に向かうと何もできない。典型的な勉強嫌いだ。


「で、『道化師』が現れたってことは、あの5人組もきたんだろ? あの〜、変身する5人組。名前なんだっけ。っとそうそう、『エガリテ』」


「現れたって。見事『道化師』の駒は倒したみたい」


 『エガリテ』。『道化師』が現れる所に必ず現れる5人組ヒーローだ。こちらは奥様方含め、女性に圧倒的人気である。素顔もばらしており、先程双子が言った、春太郎もそのひとりだ。ここ、『アストル』はその『エガリテ』が集まるカフェである。優人はその5人のためだけに店を開けている。なぜそのような場所に双子は入れるかというと、ここの2階にふたりの住居があるからだ。つまり、ふたりが住むビルの1階を『エガリテ』本部として貸出しているのだ。故にここの貸主であるふたりは入り放題。


「倒したのか。やっぱすげーんだな、あの5人。じゃあ今日は慌ててたんじゃない? 戦闘が久しぶりすぎて」


「かな?」


 優人がくすりと笑うと同時に、カランという音とともに扉を開かれた。誰かが店に入ってくる。噂をすればなんとやら。『道化師』の駒を倒した『エガリテ』の4人が来店した。各々が好きな席へと座り、千秋の隣の席にひとりの青年が腰掛けた。穏やかに微笑む彼の名前はやしろ春太郎はるたろう。勉強に集中している千秋はまったく気が付かない。どんだけ集中してるんだ、と思いながらも、言われたとおりに千咲は弟の肩を揺すった。


「あっ、春太郎さん。すみません、気が付かなくて」


「いやいいよ。俺も今来たばかりだし。千秋君はまた勉強? するのは良いけど、たまには頭を休めないと」


 春太郎はそういうと、千秋の手からシャープペンシルを取り上げた。それで区切りがついたのか、千秋は素直にノートを閉じた。春太郎に対しては素直な弟に兄はむくれる。優人はそんな千咲を見て笑いながら、春太郎の前にコーヒーを置いた。このカフェのコーヒーは絶品である。


「春太郎さん、『道化師』と戦ったんだってな。さっき聞いたけど本当?」


「うん、商店街でね。少しでも到着が遅れていたら、あの奥さん今頃生きていなかったよ」


 春太郎は千咲の問にそう返す。ベストタイミングで到着したらしい。千咲は目を輝かせてその話を熱心に聞いていた。千秋はというと、聞き流しているフリをしているが、きちんと聞き耳を立てていた。春太郎曰く、赤いずきんを被った女の子がナイフを一般人(主婦)目掛けて振り下ろされている所だったらしい。間に合っていなかったらと思うと、肝が冷やされる。


「そ。俺が防いだの、それ」


 横から口を挟んだのは、『エガリテ』のリーダーである日向野ひがの雪虎ゆきとらである。前髪を上にあげてピンで止めている。下手したら高校生に見えるが、れっきとした大学生である。といっても1年なので、あまり変わらないが。彼はコーヒーが飲めたいため、彼だけのために準備しているメロンソーダのグラスを手に持っていた。これが一番好きらしい。味覚もお子様、なんていうと痛めつけられるのでタブーだ。


雪虎(お前)には聞いてねー。俺は春太郎さんに聞いてんの。邪魔すんなー」


「うわ酷っ。それでも俺の舎弟かよ!」


「なったつもりねーよ! 勝手に言ってろバーカ」


 そんな口喧嘩をするところが一番のお子様要素だ。誰も言わないが、誰もが思ったことだった。春太郎は千咲がお子様喧嘩を始めたせいでおいてけぼりをくらっていた。そんな春太郎をフォローしているつもりなのか、千秋は咳払いをしつつ、眼鏡のブリッジを上げた。


「ハイハイ、そこまでー。リーダー、お前もあまり千咲をからかうな」


「アイちゃん、助けてー。俺雪虎に暴行されるー」


 喧嘩を止めるためあいだに入った相馬そうまみやびの後ろに千咲は隠れた。ちなみに千咲のセリフは棒読みだった。『アイちゃん』というのは、千咲が勝手につけた相馬のニックネームだ。相馬そうま相馬あいま→あいま→アイちゃんである。雅は、卑怯だーと声をあげている雪虎を無視して、雪虎と千咲の間の席に腰を下ろした。そんな雅が元いた席の向かい側では、ゴシックロリータを着た男の娘が爪を研いでいた。

 この女装している彼も『エガリテ』のメンバーのひとりだ。名前は花谷はなたにかえで。何を好んで女装しているのかは誰にもわからない。本人曰く、自分はこっちの方が似合っているから、らしい。


「姫ちゃん、姫ちゃんもこっち来たら?」


 春太郎の声に楓はこちらに視線をよこしたが、興味はないのか、すぐに爪研ぎ再開にかかった。女装しているせいで明るい青年に見えがちだが、本当は一匹狼なのである。


 『エガリテ』メンバー

  日向野雪虎、社春太郎、相馬雅、花谷楓、楠木優人。





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