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第2話 お買い物、ヘイ!

               -Cancun

 ホテル近くを歩いていると、路上に佇む数人の男たちと目が合った。みな浅黒く、口元にどこか怪しげな笑みを浮かべている。一見、麻薬か何かの売人のようにも思えるが、それにしては邪気がない。その中のひとりに手招きされ、建物の裏に回り込んでみると、箱詰めになった葉巻が屋台にいくつも並べてあった。


「キューバ」


 男はそう言って自慢気に親指を立てる。そして、一本を手に取ると、僕の鼻先に近づけてきた。芳しい香りが鼻腔をくすぐる。おお、これは凄い。なんと芳醇な匂いなのだろう。缶ピースなら吸ったことがあるが、明らかにレベルが違う。いや、そもそも比較すること自体が失礼か。


 アメリカの影響が強い日本人にとって、キューバは北朝鮮などと同様に「遠い国」だが、ここカンクンからはカリブ海を挟んで文字通り目と鼻の先だ。メキシコはアメリカと違って特に経済制裁もしていないだろうから、特産の葉巻が店頭に並ぶのは考えてみれば当たり前なのだが、いざこうして目の前にすると感慨深いものがある。何しろ、その筋では世界最高級の代物だ。愛煙家にとっては垂涎の的なのだ。


「どうだい、安くしとくよ」


 日本の紙巻き煙草と比べると、葉の量が同等で値段は数倍といったところか。葉巻の相場を知らないので判断がつきかねるが、味を考慮に入れるとかなりお得な気がする。かなり心魅かれるが、しかし、ニコチンやタールは相当なものだろう。二、三口なら美味しいだろうが、最後まで吸い切れる自信はない。後ろ髪を引かれつつ、その場を後にする。


「葉巻とは言わないまでも、お土産はここでしか買えないものがいいよね」


 というわけで、フォーラム・バイ・ザ・シーを散策することにした。ホテルの近くにある大型のショッピングモールだ。建物の中心が最上階まで続く大きな吹き抜けとなっており、それを取り囲むようにフロアが円弧上に拡がっている。色鮮やかなチューブが空間を横切る内装もお洒落だし、天窓から差し込む光が開放感をさらに盛り上げるなど、居るだけでウキウキしてくる。


「Tシャツの柄ひとつ取っても、珍しいのが多いよね。ほら、これなんか」


 何気なく覗いたカジュアルウェアの店で、さっそく気になるものを見つけた。白地にマヤの神様の刺繍が施してある。これは面白い。しかも、種類がたくさんある。マヤ文明は自然崇拝に基づく多神教だったので、自然現象や動物などに因んでたくさんの神様がいるのだ。しかも、ひとりひとりがそれぞれ独特の意匠をしている。


 何枚も買うわけにはいかない。しかし、絞れるのか。それとも、小さい神様が何人も縫い付けられたやつの方が良いだろうか。相談しようと振り返ると、妻は妻でイグアナにするかワニにするかで悩んでいた。


「このイグアナ、いいよねえ。大きくてインパクトあるし」


 確かに、背中一面にイグアナの刺繍が施されたそのTシャツは、この店の数ある在庫の中でもベストと言って良い一着だ。やられた、そんなものもあったのか。俄然欲しくなるが、しかし、同じものを買うのも何だか他人のシマを荒らすようで気が引ける。


 いや、やはりマヤの神様にしておこう。妻が一点豪華主義でイグアナを背負うのならば、僕は数で勝負することにしよう。ひょっとしたら、何かご利益があるかもしれないし。

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