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第1話 我、玉砕に波受けて

                -Cancun

 ビーチリゾートなど、これまでトンと縁がなかった。「ハワイみたいなものなんじゃないの」と言われたが、当のハワイにすら行ったことがないのだから、何をどのように楽しめばよいのか見当がつかない。とりあえずは海だろうと思い、水着に着替えてビーチに出てみることにした。


 僕たちのホテルは、ラグーンを取り囲む砂州が折れ曲がるちょうどその突端にある。東にカリブ海、北にメキシコ湾を臨む絶好のロケーションだ。


「せっかくだから、両方入ってみようよ。同じ海だから、どうせ変わんないだろうけど」


 そんなわけで、まずは北側のコーラルビーチから攻めることにした。歩いて隣のホテルに行き、何食わぬ顔でロビーを抜ける。カンクンのビーチは大抵それぞれのホテル専用のプライベートビーチになっており、本来は宿泊客専用だ。バスタオルが他のホテルのものなので咎められるんじゃないかと心配したが、そこはメキシコが世界に誇るリゾート、細かいことはあまり気にしないようだ。


 細かな白砂に覆われた浜辺。そのところどころに、風にそよぐ椰子の大きな葉が心地よい影を落としている。打ち上げられたボート。海は遠くまで青く透き通り、あくまでも穏やかに寄せては返す。デッキチェアーに寝そべって波音に耳を傾けていると、この瞬間が永遠に続くかのような錯覚に囚われる。しかし、周りの客がみな金持ちそうに見えて、自分たちには多少敷居が高いことも否めない。雰囲気を楽しんだところで早々に退散することにする。


 続いて東側のチャックモールビーチに向かう。こちらがむしろカンクンのメインビーチとなるのだが、その様相は意外なまでにコーラルビーチとは異なっていた。


「波、荒れてない?」

「さっきからずっと、ザッパーン、ザッパーンって言ってる」

「直線距離で100mと離れていないのに、なぜ?」


 そうなのだ。ほんの目と鼻の先にもかかわらず、カリブ海はメキシコ湾と違って荒くれ者だった。砂浜だというのに、まるで岩にでもぶつかるかの如く波頭が白く砕けて散る。波高も優に数mはある。外洋からの波が直接押し寄せるからだろうか。凄い迫力だ。


 少し離れた場所で、この荒れ狂う波に向かって、若者たちが数人、突っ込んでは玉砕する遊びを繰り返していた。何を無謀なと思ったが、嬉々として止めないその姿を見ているうちに、だんだん自分も真似してみたくなってきた。


「日の丸特攻隊、出撃!」


 コンタクトレンズが外れないようにゴーグルをしっかり掛け、自分の背丈より高い波の腹に突っ込む。衝撃を受けたかと思うや、自分の意志とは別に全身が否応なくどこかに持っていかれる。「放り投げられる」といった感覚が近いかもしれない。気がつくと浅瀬の砂に膝をついていて、そこに新たな波が背中から追い打ちをかけてくる。


 これは楽しい。頭がひっくり返ったり腕や脚が思いもよらない方向に行ったりして、何が何だかわからないのだが、とにかく理屈抜きに楽しい。翻弄される感覚がたまらない。癖になる。


 最初は尻込みしていた妻も一度やってみると味をしめたようで、それからはふたり交互に突撃を繰り返すこととなった。先程の若者たちは既にいなくなっていたが、僕たちは新たな伝道師としてその後も延々と玉砕し続けたのだった。

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