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第二部にあたる「舞踏大会編」、スタートです。
お兄ちゃんズが出国してしばらく。
「ウィリアム様から手紙が来ないわ」
シルクのシーツにひっくり返り、淑女ティアンナは嘆いていた。
「ええ?先日来たと言っていたじゃない」
ティアンナの部屋のソファに掛けてワインをたしなんでいるのは、彼女の義姉であるケイナ(元異世界人)である。
現在オーブリー侯爵家の義姉妹はパジャマ晩酌としけこんでいる。
「来たのはもう一週間前ですわ!
わたくしは3日と空けずお手紙をしたためていますのに」
「え、ええ、重・・・」
「ち、ちがいますわよ!
短く!短く負担にならぬよう!」
「でも3日に一度は多くない・・・?」
「そ、そんな・・・!
ウィリアム様も喜んでくれているとばかり・・・!」
そこに入ってきたのはティアンナとケイナの侍女、チョウさん姉妹である。
婚活調査員こと姉チョウさん(ティアンナの侍女)がトレイに一枚手紙を乗せている。業務調整員こと妹チョウさん(ケイナの侍女)が持つのはおつまみのおかわりだ。
「お嬢様方、夜分ですがお手紙ですよ」
「そらきた!」
ウィリアムからの手紙かと目したティアンナはベッドから跳ね起きた。
「こんな夜分に?珍しいわね」
いそいそとソファに座りなおすティアンナを横目に、ケイナは訝しむ。
「ええ、なにせお身内からの手紙ですので」
「身内?」
「カイ様からです」
オーブリー家長男、カイからの手紙であることが明かされ、
「なんですの、ぬか喜びですわあ」
とティアンナはずるずるソファに沈み込んだ。
「カイ様はなんて?」
「こちらをどうぞ」
ケイナは調査員(侍女)から手紙を受け取ると早速広げてみる。
「あら」
”可愛い妹たちよ、お兄ちゃんが帰るぞ”
「ですってよ」
「先日出国したばかりですのに、
また帰ってくるですって」
「また相変わらず詳細を書かない方ねえ」
「あの兄に気を揉んでも仕方ないですわ、
ほっときましょう」
「じゃ、そういうことで」
こうしてカイの突然の帰国宣言は華麗に流された訳であるが、帰国の理由は案外すぐ判明した。
数日後、オーブリー侯爵家には客人が訪れていた。
いや、突然押しかけてきた?というのが正しい。
「今年は競技ダンスの年だって、
すっかり忘れておりましたわああ!」
わさわさのゴージャスドレスをゆさゆさ揺らして押しかけてきたのは、アミー・マクライネン公爵令嬢。王女のいない現在のこの国で、最も身分の高い独身女性である。ちなみに王太子の従姉妹。
「ああ、今年はそうですのね」
ティアンナは事もなげに言うが、元異世界人ケイナはキョトン顔である。
「競技ダンス?」
「ええ。ああ、お義姉様はご存じないわよね。
夜会でやるダンスあるでしょ?
あれをゴリゴリのスポーツとしたものがあるのですわ」
「へえ!」
「数年に一度のペースで開催するのだけれど、
会場は各国持ち回りなのですわ。
で、今年は我が国が主催国であると」
「へ、へえぇ・・・」
ケイナの頬は引きつっている。
今だに王城での事務仕事も行っているケイナ、『これは忙しくなりそう』の予感ビンビンである。
「ちょ、ちょっと詳しく聞いてもいいかしら」
「もちろんですわ。概要から説明しても?」
「お願いします!」
ティアンナとアミーが語ったこと曰く。
・競技ダンスは男女ペアで行われる。
・ダンスの種類は1種類ではなく、
各ダンスにそれぞれエントリーする形である。
・そのため複数種類の代表選手もいれば、
ある種類に特化した選手もいる。
・男女ペアダンスだが評価は個人個人で行われ、
女性部門、男性部門での優勝者がそれぞれ出る。
・もちろんペアの出来によってダンスの質も変わるため、
ペアの選定には皆余念がない。
「なるほどー」
「腕が鳴りますわよぉ!!」
「あらアミー嬢、出られるの?」
鼻息荒くふんすふんすとドレスを揺らすアミー嬢に対し、ティアンナはどこか面倒くさそうな様相である。
「何をのたまってらっしゃるのかしら。
貴族令嬢がハッスルして許される場所なんて、
こんな時しかないでしょうに」
「あぁそうだった、この人中身ゴリラだった」
「失礼な!!!」
公爵令嬢アミーは快活で破天荒な内面を長く隠して淑女を演じてきた訳であるが、色々あって吹っ切れた。特に友人となったオーブリー家姉妹の前では取り繕う気ゼロである。
「そうと決まればパートナーの選別に入らなきゃ」
「ティアンナさんは出るの?」
「あんまり興味ないですわね。
あぁ、お兄様が帰ってくるのって、
このイベント絡みなのかしら。
お義姉様は?出る?」
「多分事務仕事があるからなあ。
そうでなくてもダンスは得意じゃないし」
「なら私も出ません。
お義姉様も忙しいんじゃつまらないし。
観客席から応援してますわね、アミー嬢」
「えぇー!出ましょうよおー!!」
「イヤですわ」
・・・なんて会話をしていた数時間後。
オーブリー家夕食後の団らんのサロンにて、ティアンナは高らかに宣言した。
「出ますわ」
「ハイ?!」
「出るって言ってんですわ、競技ダンス」
「ああ・・・やっぱり・・・」
ティアンナの手に握りしめられたのは一通の書状。
差出人は隣国にてお仕事中のオーブリー家嫡男、カイ・オーブリー。
『ああ、書き忘れたけど、
ウィリアムも一緒に帰るよ。
こっちのやんごとなき姫君が、
ウィリアムをパートナーにどうしてもとご所望でね。
その姫が女性部門で優勝したら、
ウィリアムを婿に迎えたいんだってさ』
・・・その文章を見るなり、ティアンナは燃え上がった。
「なんでウィリアム様は!!!
このティアンナに教えてくださらないの!!!」
ティアンナは怒った。
やんごとなき姫に請われたのは仕方ないとして、ティアンナにフォローくらいは入れてくれてもいいじゃないか!!
っていうか断れよ!!!
なんで受け入れてるんだよ!!優勝したら結婚だぞ!!
そりゃあもう瞬時に火だるまになるほど燃え上がったティアンナは、その勢いのまま宣言した。
「女性部門の頂の座、
このティアンナが奪わせて頂くわ」
「さすがですティアンナ様」
割れんばかりの拍手をひとりで送るチョウさん(姉)の声援を受け、ティアンナはその身を翻した。
「そうと決まれば特訓です。
パートナーは・・・誰がいいかしらね・・・」
にやりと悪い顔をしたティアンナ、その瞬間何人かの男性の背筋に警告の悪寒が走った、とかいう話。
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「…で、集められた訳ですか」
「その通りですわ」
「わたくしも便乗させて頂きますわぁ!」
オーブリー家のボールルームに集まったのは、ティアンナにケイナ、そしてアミーの女性陣。
そして、彼女らがパートナーとして声を掛けやすいポジションにいる、都合のいい男達だった。ラインナップは以下である。
・レイフォード・エルスワース侯爵令息
・ヒュー・ガントン侯爵令息
・ギルバート・イルアニア伯爵令息
・絵師フリン
・王太子クリストファー
「ねえ、忘れてるかもしれないけど、
僕王太子なんだよね、これでも」
遠い目をしてぼやくクリストファー。
全く気にしない女性陣、ティアンナが強引に話を進める。
「まず、すでにパートナーが決まった方は?」
おずおずと手を挙げたのはギルバートだ。
「すみません、婚約者が出場する予定ですので・・・」
ギルバート自身は医師でインドア派、あまり運動も好きではないようであるが、婚約者のキーラ・ゴーシュ伯爵令嬢はゴリゴリの武門の家柄。「戦い」と名の付くところ、とりあえず足を運ぶのが礼儀と思っている節がある。
「それは仕方がないですわね。
帰ってよろしい。
婚約者様によろしく」
「ええ、では・・・」
あっという間にギルバートは帰っていった。残された男達の中、次ぎに手を挙げたのはクリストファーだ。
「僕は出ないよ。
どっちかって言うと来賓だからね、
選手じゃなく」
「国王様にその役やってもらえば!!」
「それでなくともその時期は連日接待三昧だ。
各国のゲストをもてなさないといけないからね。
全然練習なんかできないけど、
それでもいいなら」
「却下!!お兄様帰って良し!!」
アミーがバッサリと王太子を切り捨てる。
ひらひらと手を振り、「健闘を祈るよ」と去って行くクリストファー。
「じゃ、残り3人ですわね」
じろりと残った男性陣を睨めつける女性陣。
「い、いちおう聞くけど」
レイフォードが手を挙げる。
「ケイナ、君は出るのかな?」
自身の婚約者が出場するかどうかも話し合う余地のないまま始まったパートナー選定である。レイフォードとしては是が否でも確かめなければならない。
「出ません」
「じゃ僕も・・・」
「駄目です」
「なぜ・・・!」
自らの婚約者に売られたレイフォードは冷や汗をかいた。
ヒュー、フリン、自分のうち、ダンスが一番できるのは自慢じゃないが自分で間違いない。なんせヒューは元の動きがガサツでリズム感が良いとは思えないし、フリンに至ってはそもそもダンス経験があるのかも不明だ。
一体なぜ、愛する婚約者以外の女性とパートナーシップを結ばねばならんのか。
しかも気まずいことに、アミー・ティアンナ両名はかつて自分に求婚してきた人物である。
振った手前、これ以上無いほど気まずい!!
というか、その前に自分の婚約者だ。
「自分以外の女と踊らないで欲しい」とは思わないのか!
愛は!!愛はそこにあるのか!!
「まぁ、諦めてくださいな。
ひとりはレイフォード様で決まり」
ティアンナの言葉に、
がっくりとうなだれるレイフォード。
「お、俺は優勝とかは無理だぞ」
「僕も身長が足りなくてですね・・・!」
「確かにそうですわね」
本人達も必死で訴えているように、ヒューとフリンでは到底優勝は狙えないと窺え、どうしたものかと頭を悩ませていた、そのとき。
「ただいま、妹たちよ!!」
「・・・あ、いた。丁度いいのが」
カイ・オーブリーが帰国し屋敷に凱旋したのであった。
あの作品に影響されましてね…つい書きたくなってしまって…




