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第39話 苦い戦いの終わり

 目が、覚めた。


 まず感じたのは空の青。

 それから背中に重力を感じることで、あぁ、俺は今寝転がっているんだなと分かる。


 そしてそこに付加物が2つ。

 視界の空に映る、横になった少女の顔と――後頭部に感じる柔らかな感触。


 ユノだ。


 そしてこの光景。この展開。

 見たことがある。

 感じた覚えがある。


 あぁ、これぞまさに――HIZAMAKURA!


「リオさん! リオさん! あぁ、よかった!」


 涙ぐみながらもユノが覆いかぶさってくる。

 というか両手で俺の顔を抱きしめるようにするから、首がきまっている。


「ちょ、ユノ……死ぬ! 死ぬ!」


「あ、ご、ごめんなさい……」


 そう言って慌てた様子のユノ。


 どうやら元に戻ったようで安心した。

 なんて、いきなりしがみつかれて動転している心を落ち着かせるためにそう思ってみた。


 ふと見つめ合う。

 真正面からだが、角度が違う。

 それでもしっかりと目が合った。


 それでいて、ユノはゆっくりと、柔らかく微笑んでくれた。


 それがなんだか嬉しくて、俺も笑う。


 その時間がなんとも言い難く貴重で、大事で、ありがたい。


 ――衝撃が走った。


 お尻、いや、腰か。

 そこに激しい衝撃が、痛みが走り、


「いだっ!」


 痛みに耐えかね、俺は転がる。

 衝撃とは反対側、ユノとは反対側の草のある地面の方へ。


「こ、腰が……お前、なにすんだよ、イトナ!」


 上体を起こしながら、ユノの隣で腕を組み立つイトナに文句を言う。

 人を蹴っておいて、なんだその態度。


「別に。ただ起きたならさっさとどけば? いつまでもべたべたして。ユノが迷惑がってるでしょ」


「あ、いや。イトナさん……私は別に」


「ユノ、いい? こういうやつには最初にガツンと言ってやるのが重要だからね」


 いや、もうガツンとやられた後だけどな。

 初対面の時に。


 てか仲いいな。

 初対面のはずだと思ったけど。

 俺が寝ている間に色々話し合ったんだろうか。


「まったく。いつまでも狸寝入りして。起きてるならさっさと言いなさいよ」


「あ、もしかして心配して――」


「なに?」


「ごめんなさい」


 ブラスターを突きつけられ、即座に平謝りだった。


「あの……おふたりとも」


「なに?」


 ユノがそう呼びかけてきて、俺とイトナの寸劇は中断された。


 そしてユノはというと、


「ご、ごめんなさい!」


 座った状態のまま、ガバッと上体を折り曲げて謝罪するユノ。


「ちょっと、どうしたの?」


「あの、その……おふたりには、というか、皆さんには。本当にご迷惑をおかけしましたというか……」


 あぁ、そういう。

 ちゃんと節義を守るというか、いけないことはいけないこととするというか。

 うん、好ましい。


「いいんだって。ユノは。ちょっと疲れてたんだよ」


「そうそう。まぁ聞いた話の境遇からすればね……文句の1つも出ないのがおかしいわよ」


 イトナ(こいつ)だったら絶対「ふざけんな!」とかいってすぐキレてるだろうな。


「なんか失礼なこと考えてない?」


「滅相もない!」


 獣並みの勘だった。


「……ありがとうございます。このご恩は、頑張って返します」


「硬いなー、ユノは。いいのよ、迷惑かけても。きっと人間はそうやって成長してくんだから」


「うん、まぁその通りだね。イトナの割には良いこと言うな」


「割には、は余計よ。てか元はあんたの言葉でしょ」


「は? 俺?」


「あ、違った。あんたと名前と顔はそっくりだけど、全然別人の格好いいリオの方だった」


「お前な……」


「あはは」


 イトナが皮肉を言い、俺が肩をすかし、ユノが笑う。


 本当によかった。

 ユノは元通りになって、ユノとイトナは仲良さそうで。

 きっとこれで何もかも――――あ。


「で? そういうわけで? さっきの言葉、じぃーっくりと聞きましょうか? リオ?」


 うっ……イトナの視線が痛い。

 さっきは本当にテンパってたけど、よく考えればとんでもないことを口走った気がする。


 でもそれどころじゃないのを思い出した。


「悪いけど、ちょっと後にしてくれないか」


「なんであたしを後回しにするの? そんなにあたしのことが嫌?」


 そうじゃないんだけどさ。


「本当に時間がないんだ。逃げられるなら、先に――」


 いや、もう遅い。


 ガラガラと車を引く馬の足音。

 馬車がすぐそばにいることの合図。


「いいから逃げるぞ。ほら、ユノも立って」


「え、あ、はい」


「でもあれって……シーラじゃない?」


 イトナが不審な顔で聞いてくるのを急かす。


 だがそれもすべてが遅かった。


 馬車の幌の中から1つの人影が飛び出し、御者の少年の背中を踏んづけて大きく跳躍。

 太陽を背負い、空を舞う影は激しい音を響かせ、一部地面を陥没させて俺たちの前に立ちふさがる。


「どこへ行こうとする?」


 シーラさんが、現れた。


 どうする?

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